
楠瀬賢也講師
徳島大と国立循環器病研究センター(大阪府)などは、高齢化の進展で心不全患者の増加が見込まれる中、専門医が不足する地域でも診療できる体制を築くため、AI(人工知能)を活用した遠隔支援システムを開発する。全国の医療機関とオンラインで結び、専門医からAIの診断結果を基にサポートを受ける仕組みで、2026年度末までに実用化する。実現できれば全国初で、医師の負担軽減と医療格差の是正につなげる。
同センターが主導し、徳島大、名古屋大医学部付属病院、九州大病院、大阪市の医療ベンチャーが取り組む。新たなシステムでは、循環器の専門医がいない病院が患者の心臓超音波(心エコー)や胸部レントゲンの画像、血液などの検査データを徳島大など専門医のいる医療機関に送り、各種データを基にAIが心不全の重症度やその疑いを解析。専門医が解析結果を使い助言する。豊富な知識や経験が必要な心不全の診断を、AIと情報通信技術(ICT)を活用して支援する。
徳島大は、楠瀬賢也講師が18年度から心不全を診断するAI技術を構築してきた実績を生かし、根幹となるAIの技術開発を担う。名古屋大の病院から提供を受ける4千人分の検査データを「ディープラーニング」(深層学習)の技術を使ってAIに学習させ、診断精度を高める。新システムは、医療ベンチャーが全国20施設で導入する救急医療の遠隔支援システムに徳島大のAI技術を組み込み、心不全専用に改良する。
徳島大によると、全国の心不全に関する外来診療は月当たり50万件以上で、そのうち2万人以上が入院する。循環器専門医の偏在や地方での医師不足が進む中で心不全患者の増加が見込まれ、専門医不在の医療現場での対策が課題だった。
システム開発は日本医療研究開発機構(AMED)の事業に選ばれており、5年間で約2億5千万円の補助を受ける。
楠瀬講師は「AI技術を使うことで全国どこにいても適切な医療を提供できる環境を実現し、医師の負担軽減にもつなげたい」と話している。