ニュース
児童福祉

【熊本県】

障害の制約除く可能性 熊本大教育学部付属特別支援学校のICT教育

熊本日日新聞 2019年9月27日(金)
ニュース画像
タブレット端末やテレビ画面を使って授業をする後藤匡敬教諭(左)=熊本市中央区

 学校現場で導入が進むICT(情報通信技術)。電子黒板やタブレット端末などの普及に伴い、特別支援教育の現場でも授業が様変わりしつつある。10日、熊本大教育学部付属特別支援学校(熊本市中央区)を訪ねた。

 同校は小学部、中学部、高等部に分かれ、知的障害のある児童・生徒約60人が在籍する。ICT教育に力を入れる後藤匡敬[まさたか]教諭(39)の授業を取材するため、中学部3年の教室に向かった。

 「杏仁[あんにん]豆腐の杏仁とは何でしょう」。後藤教諭が、生徒たちに問い掛けた。この日の給食のメニューにちなんだ質問だ。後藤教諭はタブレット端末を生徒に渡すと、「杏仁とは、と言ってみて」と促した。

 生徒が繰り返すと、テレビモニターに「杏仁」の検索結果が映し出された。「画像を見てみよう」と後藤教諭。植物の種のような写真が次々と表示される。「この種の中のものが杏仁です」。その後もタブレット端末を生徒に渡し、担々麺などを調べ学習。音声が流れ、画面が動く機能に興味を示す生徒たち。次第に表情が生き生きとしてきた。

●高い汎用性

 バスの乗り方を学ぶ授業も。いすを並べてバスの車内に見立てた空間に、中学部1〜3年の約20人が乗車体験。その様子を教師がタブレット端末で撮影し、動画をスクリーンに映し出して生徒たちに見せていた。乗車の注意点を分かりやすく伝えるための工夫だ。

 バスのエンジン音、降車ボタンの音などもタブレット端末で再現し、リアルな空間をつくり出していた。「支援が必要な子どもが日常生活で生きる力を身に付けるには、現実に近い状況をつくるのが大事なんです」と後藤教諭。ICT機器は有効なツールになっているという。

 障害の種別や発達の程度が違い、それぞれにふさわしいサポートが必要な特別支援教育の現場。後藤教諭は「ICTは子どもの実態に合わせやすく、汎用[はんよう]性が高い。子どものリアクションも良く、学びを引き出す力になっている」と話す。

●合理的配慮

 同校ではタブレット端末24台のほか、テレビモニター10台、スマートボード2台などのICT機器を配備。前川美穂子副校長(52)は「教師の専門性を高めながら、継続的に整備を進めたい」と語る。

 一方、課題もある。ICT機器は学習内容を分かりやすく示せる半面、自閉症などでこだわりが強い子どもにとっては手放せなくなるリスクも。自宅のタブレット端末で買い物をしてしまう子もいるといい、家庭と連携したルール作りや情報モラル教育も求められる。

 県教委特別支援教育課も「全ての子どもに有効ではなく、適切な使い方が必要」としつつ、ICTが健常者と同様に学びにアプローチできる「合理的配慮」をもたらす可能性に期待する。同課は「ICTは障害のさまざまな制約を除いてくれる。これからは、現場の教師がICTに精通することが大切になる」と強調する。

●個別最適化

 全ての市立小中学校へのICT機器の導入を進めている熊本市の状況はどうか。市教委特別支援教育室の西正道室長(58)によると、小学校の特別支援学級では、既にタブレット端末が1人1台使える環境を整備。今後、中学校にも広げていく考えだ。

 長く特別支援教育の現場に身を置いた西室長。「個別の状況に応じた授業の研究は進んでいる。ICTの導入で、さらにいい方向に向かうだろう」

 未来の教育のあり方を巡っては、「学びの個別最適化」が重要なキーワードとして指摘されている。特別支援教育の現場に、目を向ける意義は大きいと思う。(臼杵大介)