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【京都府】

介護される側も「まな板売れる喜び」 デイに「出勤」やりがい

京都新聞 2019年2月7日(木)
紙やすりでまな板を磨く利用者。売れれば謝礼が得られる仕組みで、作業に力が入る(京都市右京区・西院老人デイサービスセンター)
紙やすりでまな板を磨く利用者。売れれば謝礼が得られる仕組みで、作業に力が入る(京都市右京区・西院老人デイサービスセンター)

 介護が必要になっても、認知機能が衰えても社会の一員として役に立ちたい−。京都市西院老人デイサービスセンター(右京区)では、70〜90歳代の女性利用者6人が昨年8月からまな板作りに取り組む。

 毎週月曜日、利用者は「出勤簿」にはんこを押して作業を始める。「仕事」へのスイッチを入れる仕組みだ。3種類の紙やすりを使ってヒノキの板を丁寧に磨く。スピードは人それぞれ。木目に沿って磨くことになっており、間違う時もあるが、職員が優しく指導する。

 「腰が痛かったんやけど、仕事があると思って薬を飲んでから来ましてん」。最年長の海老(えび)愛子さん(91)は疲れも見せず話す。花本和子さん(89)も「よう売れるし、面白くなってきた。やりがいがあります」と笑顔だ。

 「本当の意味での自立支援を考える中、今までの生活を継続し、社会とつながることが大事だと思った」。同センター所長の河本歩美さん(47)は、まな板作りの狙いを話す。1枚売れれば、利用者に謝礼として地元商店街の金券500円分が渡される。

 介護サービスの利用者が働いて対価を得ることは、介護認定との絡みで認められないとの見解もあった。だが厚生労働省が昨年7月、「有償ボランティア」として謝礼の受け取りを認めることを確認する通知を出したことで、同センターの取り組みは一気に進んだ。

 まな板は中京区の雑貨店「mumokuteki」で販売している。ブランド名は「sitte」(シッテ)。「認知症やなんらかの支援が必要になっても、できることはたくさんあることを知ってほしかった」。河本さんは名前に込めた意図を語る。

 「人生100年時代」とも言われる。認知症は誰でもなる可能性があり、対策は喫緊の課題だ。全国の認知症高齢者数は2015年で525万人。25年には730万人に達するとの国の推計がある。京都府に当てはめると16万人、滋賀県では7万人に上る計算だ。約40年後の60年には1154万人と現在の2倍にふくれあがる。

 こうした現状を受け、介護サービスを受ける高齢者が「有償ボランティア」として社会参加したり、認知症の人が就労したりする動きは活発化している。宇治市は15年に全国の自治体で初となる「認知症の人にやさしいまち・うじ」を宣言。茶摘みや野菜の収穫などの就労を通じ、認知症の人を支援している。

 「年齢を重ねて記憶力や行動力が低下すると、周囲の人や環境、時間との関わりに障害が生じる。認知症とは『関係性の障害』と言える」。作業療法士として認知症の人と向き合ってきた京都橘大の小川敬之教授(56)は指摘する。

 「介護される側になり、社会的弱者としての烙印を押されてしまうのはつらいこと。役割を与え、社会とつながることで人は元気になる」とした上で、「『何もできない人』という偏見を取り除くことが最大の課題」として、認知症に対する固定化された見方を変える必要性を訴える。

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 2019年。改元で新しい時代を迎える。急速に進む少子高齢化や国際化、情報技術革命。ポスト平成の世の中は、どのような風景が広がるのか。旧来の価値観が大きく揺らぐ中、多彩な生き方を追い求める人々を訪ねた。