
イチゴ農園のビニールハウスで、枯れ葉を取り除く作業をする認知症の当事者
認知症になっても役割を持ち、自分らしく―。認知症の人が仕事を通じて社会とつながる取り組みが、在宅複合施設「西部いこいの里」(井原市高屋町)の認知症デイサービスで進められている。東京の施設で始まり、各地で広がっている試み。利用者は農作業や学校でのボランティアなどに汗を流している。
4月上旬、同市美星町星田のイチゴ農園「Farm未来を信じて」のビニールハウスを認知症を患う60〜80代の3人が訪れた。黙々と枯れ葉を取り除いたり、それを回収したり、それぞれのペースで1時間ほど作業をした。終了後は謝礼を受け取り「呼んでくれてありがたい」などと充実感をにじませた。
農園を営む柚野裕正さん(61)は「土入れ作業の時も来てくれ、本当に助かっている。この関係を続けたい」と話した。
認知症の当事者が有償・無償のボランティア活動を通して地域と関わる取り組みは、2012年に東京都町田市の通所型介護事業所「DAYS BLG!」が始めた。その日何をするかは当事者が当日朝のミーティングで自ら選ぶ。働きぶりを見てもらい、周囲の理解を促す狙いもある。
全国への普及も進んでおり、いこいの里を含むきのこグループは20年から「BLGきのこ」として中国地方で唯一参画。日ごとに参加したい人が作業に従事している。
井原市社会福祉協議会が中心となって福祉施設や農家などをマッチングする「農福環ボ連携連絡会」が仕事を仲介するほか、地元小学校でも調理室の包丁研ぎや学校農園の作業を手伝っている。
いこいの里の田中美鈴施設長は「年齢を重ね、認知症になっても働きたい、社会とつながりたいという気持ちに寄り添うことが大切。介護をする側とされる側の垣根を取り払い、対等な関係を構築できるよう取り組んでいく」としている。