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高齢者福祉

【高知県】

お年寄りの髪を美しく 高知市の訪問美容師・脇田真司さん

高知新聞 2019年1月18日(金)
「美容サービスでお年寄りを元気にしたい」と話す脇田真司さん。この日は撮影用にモデル役になってもらった女性を散髪(高知市内、飯野浩和撮影)
「美容サービスでお年寄りを元気にしたい」と話す脇田真司さん。この日は撮影用にモデル役になってもらった女性を散髪(高知市内、飯野浩和撮影)

 1月初旬の昼下がり。アロマの香りが漂う高知市内の介護施設で、スピーカーから流れる演歌とともに、ちょきちょきと髪を切る音が響いていた。

 「新年、きれいになりましょうね」「だいぶ伸びてますね。すっきりしますからね」

 脇田真司さん(31)がはさみを動かしながら、明るく声をかけ続ける。相手の女性は認知症で、鏡に映った表情にほとんど変化はない。

 「症状が進行しても聴覚は残る。眠っていない限りはたくさん話しかけるようにしています」と脇田さん。訪問美容師として県内の病院や老人ホームなどを訪ね、お年寄りにカットやカラーなどのサービスを提供している。
 
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 高知市の国際デザイン・ビューティカレッジを卒業後、同市内の美容室で働いた。訪問美容を始めたのは4年前。きっかけは、祖母の喜久子さんの死だった。

 自然豊かな同市上里で育った脇田さん。ショウガ農家の両親に代わって小さい頃から面倒を見てもらい、大のおばあちゃん子だった。納棺の際、化粧を施されてきれいになった喜久子さんを見て、「何で入院しよった時に髪を切っちゃれんかったがやろう」という後悔でいっぱいになった。

 外出が難しい人を美容サービスで笑顔にしたい―。そう考えて1人で始めた在宅訪問は、当初は全くの手探りだった。美容室での仕事の合間を縫って訪問するため、対応できるのは月に数件。認知症の知識も浅く、暴れる客がいても「嫌がっちゅう。どうしよう」と困惑するばかりだった。

 それから2年後、幼なじみで、父親の介護を経験している佐竹雄助さん(33)から「訪問美容を組織としてやろう」と誘いを受けた。脇田さんは思いを同じくしつつ、「このまま開業したらいかん。もっとお年寄りのケアについて勉強せんと」と130時間の講習を受けて「介護職員初任者研修」を取得。昨年4月に「訪問美容さーびす かいんど」をオープンした。

 スタッフは脇田さん、佐竹さん含め4人。1人ではできなかった郡部の病院の訪問や、老人ホームでの大人数の散髪も行えるようになった。脇田さんはそれまでの美容室を辞め、自らの仕事を訪問美容一本に絞り込んだ。
 
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 客のほとんどが認知症で、車いすの人や寝たきりの人、腰が曲がって体をうまく動かせない人も多い。少しの衝撃でもけがにつながりかねないため、スタッフ2人がかりで頭を支えたり、ベッドに転がしたりしながら、慎重に、スピーディーに作業を行う。

 「じゃじゃーん、ばっちりですよ!」

 アロマの香る介護施設。女性のカットを終えた脇田さんは、鏡を手にして仕上がり具合を見せた。認知症で話すことができない女性の口角が上がった。少し細めた目はしっかり脇田さんを見つめていた。

 「きれいになりたい、かっこよくなりたいという思いはいくつになってもあるんですよね」と脇田さん。中には泣きながら感謝してくれる人もいるといい、「この仕事を絶対に続けないかんって思います」。

 一期一会を大切に、今日もシザーバッグを持って出かける。(福井里実)