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障害者福祉

【高知県】

放課後は「馬が先生」 発達障害の子ら成長促す乗馬療法

高知新聞 2019年3月5日(火)
日々ポニーと接する子どもたちと宮地敬照さん(高知市春野町甲殿)
日々ポニーと接する子どもたちと宮地敬照さん(高知市春野町甲殿)

県内唯一の高知市「ポニービレッジ」
 高知県内で唯一取り組まれているホースセラピー(乗馬療法)の現場をのぞいた。学校の放課後、発達障害や自閉症、不登校の子どもたちが通ってくる。高知市春野町甲殿にある施設「ポニービレッジ」。ここに来れば「馬が先生」だ。

 馬との触れ合いを通じて社会生活能力を育成するホースセラピー。放課後デイサービスを運営する事業所「PONY HOUSE」=高知市瀬戸1丁目=が2年前の春から取り組んでいる。

 平日の夕方。「次は私乗りたい」「僕がたづな引く」。はしゃぎながら敷地の砂地を走り回る子どもたち。3頭のポニー「パル」「サクラ」「モモ」に交代でまたがる。

 「馬に乗るの楽しい。でも、たまに『もうイヤ〜』って(馬が)言うこともある」。自閉症スペクトラムがある西村孔明君(8)=同市春野町仁ノ=がにこにこして話してくれた。

 母親の栄里奈さん(38)は孔明君が以前よりも話し好きになり、気に入らないことで泣いたり怒ったりする回数が減ったと感じている。 

 「ホースセラピーを始めてから落ち着きが出てきました。年齢とともに成長したこともあるのでしょうけど、何をするにも自信がついてきたんじゃないでしょうか」

競馬好きが縁で
 運営を中心で担うのは開設者の宮地敬照(ひろあき)さん(48)。障害者支援施設を経て高齢者介護施設で勤務していた4年前、スポーツ紙の競馬記事で、滋賀県栗東市の放課後デイサービス事業所「PONY KIDS」が取り組むホースセラピーを知った。もともと競馬ファンだった宮地さんにとっては縁に導かれた開所だった。

 滋賀で運営されるホースセラピーは、高知市出身で中央競馬の元トップジョッキー、福永洋一さんの長女、山本妃呂己(ひろみ)さんらの主宰。2016年5月、高知競馬場のレース「福永洋一記念」の一環で当日のイベントを手伝った宮地さんは、会場にいた妃呂己さんたちに偶然話しかけられた。「記事読みましたよ」という話の流れから、とんとん拍子の展開に。

 「ぜひ滋賀まで施設を見においで」と誘われ、1週間後に訪問。「福祉の仕事と、好きな馬がつながる」と宮地さんは直感した。妃呂己さんに教えを請いながら、高知県で初となるセラピー施設の開設へと走りだした。

 高知競馬の元騎手で調教師の別府真司さんが開設に協力。20年ほど前から使われなくなった厩舎(きゅうしゃ)付きの土地と、セラピー向きの賢いポニーを購入できる牧場を紹介した。

 同じ競馬好きで、障害者支援施設で以前同僚だった宮平浩二郎さん(43)=高知市春野町平和=ともタッグを組んだ。2人は馬の扱いを学ぶため、毎日夜明け前から昼ごろまで競馬場で働き、別府さんの厩舎で汗にまみれ、競走馬を世話した。

 宮地さんは約3カ月間の修業。宮平さんに至っては丸2年を経た今も競馬場に通い続け、未明から朝までは厩務員、午後はホースセラピーの指導員として働く暮らしだ。

「かないません」
 17年4月からサービスを始め、現在は6歳から18歳まで37人が利用している。乗馬経験を積むうち、自分から馬の世話に取り組んだり、馬に関する本を読むようになったりと、子どもたちにも変化が表れてきていると宮地さんは話す。

 相手の様子をよく観察し、時にはわがままに振る舞う馬の性格は、犬や猫よりも人間の子どもに近い。子ども同士の付き合いが苦手で学校に行けなくても、「自分はここで頑張っている」という達成感や自信を持つようになるのでは、と宮地さんは考えている。

 「(福祉の)資格やリハビリ技術を学んできた自分たちがイベントを行う時よりも、馬と接している時の方が子どもたちはいい表情をするんです。馬にはかないませんよ」と笑った。

 私もポニーに乗せてもらった。思ったより体高が高く、左右に揺れ、乗りこなす難しさを痛感した。おそらくここで長い時間を過ごしてきたのだろう、ひょいひょいと乗りこなす子どもたちを眺めながら、大きな「先生」の奥深さを感じた。(河本真澄)