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【高知県】

対話の授業で多様性理解 哲学を学びの土台に 自己肯定感も期待

高知新聞 2019年12月12日(木)
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越知小学校で行われた「てつがく」の授業。児童らが輪になって話し合う(7月、越知町越知甲の同校)

 「幸せ」って何? 「学ぶ」ってどういうこと?―。自明とされがちな概念や価値を、他者との対話を通じて問い直す「哲学対話」が、全国の学校で広がっている。高知県内では唯一、高岡郡越知町の越知小、中学校が本年度から導入。社会の多様性への理解や、柔軟な思考力の育成につなげるという。

 各地の教育関係者によると、「哲学対話」が注目される背景には、多様な価値観が広がり、高度に情報化が進む社会の変化がある。授業は児童、生徒の対話形式で行い、結論や正解は出さずに思索を深めるのが特徴。コミュニケーションが苦手な子どものケアにも有効という。

 公的な統計などはないが、国内では2010年代から広がりだした。お茶の水女子大学付属小学校(東京都)は、2015年度から3年生以上の道徳の授業など年間55時間を「てつがく科」に設定。全国から毎年十数校が視察に訪れるという。首都圏では、ほかに複数の私立中高も導入している。

 宮城県では大学機関が中心となって「探究の対話」の名称で普及を進めており、道徳に限らず各教科の学習を深める手法と位置付けている。2013年度に仙台市の4小中学校で始まり、2015年度には宮城県内約20校に拡大。小中9校を抱える白石市の教育委員会は、2016年度から教育指針に「探究の対話」の推進をうたっている。

 こうした中、高知県の越知町教育委員会もお茶の水女子大学付属小学校をお手本に、小学3年生以上と中学で今春から「てつがく」の授業を試行している。

 生徒からは「答えがないから楽しい」との声が上がり、教員らも「学級の雰囲気が良くなった」と手応えを感じつつある。教室をのぞいた。

 全国で広がる「哲学対話」は、児童生徒の考える力や自己肯定感を向上させるという。県外先進地では、子ども同士の関係が改善され、保健室利用が減ったとの分析もあり、高知県高岡郡越知町の関係者も多様な効果を期待する。一方、「正解」のない授業の在り方はまだ手探りの段階だ。

 「勉強って何?」。9月下旬、越知中学校の「てつがく」授業。教諭の問いに、輪になった3年生約30人が口々に話しだす。「コミュニケーションは生活で学ぶ。生きているのが勉強」「漫画を読むのも、面白がるだけと漫画家を目指す場合では得る物が違う。意思を持って行動するのが勉強じゃない?」

 生徒はうなずいたり首をかしげたり。大原瑞葵(みずき)さん(15)は「物語から人の心を推測する道徳と違って『てつがく』は自分のこと。自分の価値観で考えていいんだと気付いた」と話す。

■発端は学力
 哲学対話の導入に至った発端は、12年前に始まった全国学力テストだという。越知町内小中学生の成績は振るわず、越知町教育委員会や学校関係者はショックを受けた。

 以降、子どもが主体的に参画する授業を研究。生徒が進行したり、教え合ったりする時間を増やした。山中弘孝教育長は「心を開き話せる雰囲気や自己肯定感があって初めて学習意欲が湧く。学力の根底にある心を整えなければと思った」。

 手法を模索する中で、2年前からお茶の水女子大学付属小学校(東京都)の実践に着目。今年春、小学3年生以上で「てつがく」を導入した。初年度は時間数を定めておらず、現在までに中学1年を除く各学年が、道徳や国語の時間を活用して1〜11回の授業をした。来年度は年間カリキュラムに本格的に組み込む方針だ。

 宮城県内で「探究の対話」の出前授業などを行っている宮城教育大学上広倫理教育アカデミーの野沢令照(よしてる)所長は、その効果について「意見が否定されない、存在が認められる安心感」と説明する。

 ある小学校では、保健室の年間延べ利用者数が「探究の対話」を導入した2016年度の724人から2017年度は475人と大幅に減った。人間関係が原因と思われる腹痛の相談などが少なくなったという。

■問われる力量
 越知小学校、越知中学校でも教員から成果を実感する声が上がる。「おとなしかった子が意見を言えるようになった」「話し合った内容をインターネットで調べるなど、子どもの学びが深まっている」

 ただ、てつがくの授業は、教員の力量も試される。生徒たちの話し合いが行き詰まった際に異なる視点を示すには、教員自身が思索を深める必要がある。

 授業ノウハウはまだ蓄積されておらず、教員からは「進め方によっては大人の考えに引っ張りかねない」と戸惑いも漏れる。

 教育の成果はそもそも、一朝一夕に測れない。哲学対話を長年研究してきたお茶の水女子大学付属小学校の片山守道教諭も「まだまだやり方や効果は未知数」としつつ、こう言う。「混沌(こんとん)とした世の中で、正解を性急に求めると間違える。いろんな考えに向き合い、考える楽しさを知れば、生きる力になる」(佐川支局・森田千尋)