
「あい」のスタッフと写る横山さん(最前列左から3人目)。「みんなは同じベクトルを向き、協働してきた何よりの財産」と語る
【那須烏山】市内初の訪問看護ステーションとして2012年5月に発足した神長(かなが)の「訪問看護ステーションあい」が、開設から丸10年を迎えた。地域の高齢化が進む中、一人一人の患者の願いに耳を傾け、地域医療の「常識」を変えようと試行錯誤してきた関係者は、「目の前にいる人にとって必要なことは何か。それをずっと模索してきた10年間だったと思う」と歩みを振り返る。
あいの代表者は、芳賀赤十字病院や那須南病院などに20年以上勤務してきた看護師でケアマネジャーの横山孝子(よこやまたかこ)さん(57)。
自宅で最期を迎えたいと願いながらも、病院で息を引き取らざるを得ない患者に多く接してきた横山さん。患者の要望にできる限り応えられる医療体制づくりに貢献したいと、一念発起して独立し、運営会社を設立した。
10年前の市内は県内14市で唯一、24時間の緊急訪問ができる在宅医療や訪問看護の機関がなかった。あいは、そのネックとなっていた「患者からの緊急連絡」を率先して引き受けることで、在宅医療の要である診療所の医師たちの理解と協力を取り付け、訪問看護の普及に努めてきた。
次第に「あいにお願いすると、自宅で家族をみとれる可能性が高まる」といった評判が広まっていき、横山さんは「何かあれば大きな病院に入院するという当時の当たり前を、少なからず変えられたのでは」と取り組みの成果を語る。
あい開設後も、旅行やレジャーの付き添いなど患者の多様な要望に応える有償ボランティア「キャンナス烏山」、訪問看護と訪問介護、デイサービス、ショートステイを組み合わせて提供する看護小規模多機能型居宅介護「まるごとケアの家 あいさん家」など、この10年間に四つもの新規事業を立ち上げた。
現在も、複数の患者が共同生活でき、柔軟に帰宅もできるシェアハウス型のサービスを構想中。横山さんは「提供すべきサービスの形は一つじゃないはず。時代の変化に合わせて、変わり続けていくことが必要」と思いを新たにしている。