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—奈良県御所(ごせ)市 社会福祉法人カトリック聖ヨゼフホーム
利用者の状態や特性にあった支援、施設づくり
外観

「どんな人も断らない」福祉的養護的理念を実践


 奈良県にある社会福祉法人カトリック聖ヨゼフホーム(理事長:清冨洋三氏)は、カトリック男子修道会マリスト会を母体として、昭和36年12月に設立し、翌年1月に御所市に養護老人ホーム「聖ヨゼフ・ホーム」(入所定員50人)を開設したことにはじまる。その後、入居者の重度化と奈良市からの要請に応え、平成3年8月に奈良市に特別養護老人ホーム「サンタ・マリア」(入所定員80人)を開設し、法人設立から60年以上にわたり、奈良県の高齢者福祉に携わってきた。
 入所定員50人の養護老人ホーム「聖ヨゼフ・ホーム」は、キリスト教カトリックの精神である「隣人愛」や「奉仕」に「福祉」を加えた3つの言の葉を大切にし、利用者に寄り添いながら、社会福祉法人として地域社会に貢献するとともに「どんな人も断らない」という福祉的理念を実践している。
 平成18年6月に外部サービス利用型の特定施設入居者生活介護の指定を受け、重度の高齢者の受け入れにも対応し、その後も多様な生活ニーズのある利用者を受け入れるため、平成28年7月に奈良県の養護老人ホームでは初となる一般型特定施設入居者生活介護に類型変更し、さらなる重度化にも対応している。
 要支援・介護認定を受けた利用者本人と契約を交わしたうえで一定の人員配置を行い、必要な介護を提供することにより、介護が必要になった利用者が特養などの介護保険施設に移る必要がなく、これまでどおりの環境で生活を続けられるようにしている。

令和3年10月に新施設が完成


 同施設は、約3年間におよぶ同一敷地内での施設の全面建て替えを行い、令和3年10月に新施設を完成させた。
 施設の建て替えについて、法人理事・総合施設長の平岡毅氏は次のように説明する。
 「昭和37年に開設した旧施設は、建物の老朽化が進み、利用者の生活環境をみても個室が少なく、増改築をしてきたことで建物の動線などに不便が生じていました。養護老人ホームは、建て替えのときに原則個室にしなくてはなりませんので、建て替えの時期をうかがっていましたが、奈良県行政と協議して老朽化に対する補助金整備の調達をしながら、このタイミングでの実施となりました。工期を短くするために移転新築も検討しましたが、広大な敷地内には同じマリスト会を母体とする認定こども園やカトリック教会があり、利用者と日常的な交流をしていたことから、このような環境を維持するために同一敷地内での建て替えにこだわりました」。


ユニットごとに受け入れる利用者像を分けて対応


 新施設は木造平屋建てで、延べ床面積は2955uとなり、建物は木の温もりが感じられるとともに、採光にあふれた開放的な空間が特徴となっている。
 福祉的・養護的な使命である「どんな人も断らない」を実践するため、居住スペースは利用者13〜14人を1ユニットとする4つのユニットをつくり、このうち2ユニットは特定施設の契約をしている要介護高齢者を受け入れている。介護に特化したユニットは、転倒時のリスクを軽減する床板のフロアや移乗用リフト、機械浴などを導入し、職員の動線を効率的にする工夫をしている。残りの2ユニットは、認知症や精神疾患のある高齢者と、比較的元気な高齢者や契約入所者に分けて受け入れることで、利用者の状態や特性にあった対応ができる施設づくりをしている。
 「各ユニットは、和モダン、南フランス風、オーストラリア風とそれぞれに趣が異なる設えにすることで、施設にありがちな単調さをなくしました。また、ユニットの設計では、2つのユニットがVの字になるようにつくり、職員がユニットの中央にいることでユニットの利用者を見守ることのできる設計としました。利用者は部屋から顔をのぞかせると、職員がいることに安心感をもっていただくことができ、職員にとっても安心感があります。このような設計にすることで利用者が管理・監視されていると感じない生活環境をつくっています。また、1つのユニットは、居室や浴室などで介助ができるスペースをつくり、特養に転換することも想定して設計しています」(平岡氏)。
 そのほかにも施設設計の特色として、ステンドグラスが美しい多目的ホール「マリストホール」を設置し、職員研修やカトリックの御ミサ(礼拝)などに活用している。間仕切り戸で仕切られた隣りの食堂とつなげることで、クリスマス会や地域住民を招いたイベント等では100人以上を収容することが可能となっている。
 落ち着いた雰囲気のある食堂は、隣接する認定こども園の園庭に面しており、窓から子どもが元気に遊んでいる姿を眺めながら食事をすることのできる環境をつくった。食堂は、感染症対策の観点から比較的元気な高齢者が利用しており、利用者自らで上げ膳・下げ膳をしているという。
 また、居住ユニットと食堂の間には談話スペース「八角堂」を設け、他ユニットの利用者同士が会話を楽しめる環境をつくった。
 「会話するときに対面して座ると圧迫感がありますが、公園のベンチのように横に座ると自然に会話ができることもあり、ベンチスタイルの談話スペースを施設の至るところに設けました。その一方で、各ユニットには、一人になりたい利用者が過ごせる場所として、あえて人目のつかないスペースもつくり、利用者がその日の気分によって過ごす場所を選べる環境を用意しています」(平岡氏)。

▲ 木の温もりが感じられる養護老人ホーム「聖ヨゼフ・ホーム」の玄関 ▲ 居住ユニットと食堂の間に設置した談話スペース「八角堂」。他ユニットの利用者同士も会話を楽しめる環境をつくった

▲ ステンドグラスが美しい多目的ホール「マリストホール」。隣接する食堂とつなぐことでイベント等では100人以上を収容することができる ▲ 落ち着いた雰囲気の食堂は、隣接する認定こども園の園庭に面しており、子どもたちが遊ぶ姿を見ることができる
▲ 4つのユニットは、和モダン、南フランス風、オーストラリア風とそれぞれに趣が異なる居住空間をつくった
▲ 居室は、すべて個室で全床に低床電動ベッドを導入


カフェを地域交流スペースとして活用


 さらに、認定こども園の保護者や地域住民がくつろげる場所としてカフェテリアを内設し、多世代間・地域交流スペースとして活用することを目指した。
 カフェテリアの活用について、施設長の福井修平氏は次のように説明する。
 「施設内に設置する喫茶スペースではなく、本格的なカフェテリアをつくることにこだわり、認定こども園の保護者をはじめ、多くの地域住民に利用していただいています。当初は、認定こども園の保護者にボランティアとして運営に協力していただく予定でしたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となり、現在は御所市と連携して市報に開催案内を掲載していただきながら、認知症カフェを開催しています。当施設の利用者も活動に参加し、地域との交流を深めています」。


認定こども園への給食提供と食育への取り組み


 隣接する認定こども園との連携では、クリスマス会や運動会などの交流にとどまらず、給食の提供や食育の取り組みを進めている。
 「今回の建て替え計画にあたっては、認定こども園と協議を行い、当施設の建て替えのタイミングで幼稚園から認定こども園に移行したという経緯があります。移行に伴い、認定こども園は給食を提供するために厨房を整備する必要がありましたが、当施設が調理した食事を給食として提供することを提案し、現在は利用者と園児は同じ献立の食事を摂っています。さらに、認定こども園の園児たちが栽培し、収穫した野菜を給食に使用するかたちの食育にも取り組んでいます。園児と利用者は同じ献立のため、その日の食事の話をすることができますので、同じ敷地で生活する一体感を築くことができています」(福井氏)。
 認定こども園にとっては食物アレルギーへの対応が大きな課題となるが、福井施設長と管理栄養士が認定こども園に出向き、園長や担任保育士を交えた給食会議を毎月開催し、園児たちの情報を共有しながら献立を作成するほか、食物アレルギー対応について学ぶことに取り組んでいるという。

▲ 利用者や認定こども園の保護者、地域住民がくつろげる本格的なカフェテリアをつくり、地域交流の場として活用している ▲ 養護老人ホーム聖ヨゼフ・ホーム 施設長 福井 修平氏
▲ 季節を感じることのできる庭園のほか、施設周りにはウッドデッキを敷いた周遊歩道をつくり、利用者の菜園活動などにも利用している


養護老人ホームを理解してもらうアプローチが必要


 現在、同施設の利用状況は、常に満床の状態が続いている。特定施設の契約をしている利用者は30人で、低所得や家族を頼ることのできない高齢者をはじめ、認知症や精神疾患、発達障害、知的障害など、行き場のない高齢者を積極的に受け入れ、看取り介護にも対応している。
 自治体担当課から重度の知的障害や視覚障害などで、他施設から入所を断られたり、施設での生活継続が困難になった高齢者の相談があった際には、主任生活相談員、支援員等が自宅や施設を訪問し、本人と施設職員と面談を行い、生活状況や支援方針を確認して受け入れている。入所後は、多職種によるカンファレンスで意見交換や情報共有を図ることで生活を支援しているという。
 その一方で、全国に約950カ所ある養護老人ホームは、定員割れをしている施設が多く、経営に影響を及ぼすケースが起きているという。
 「奈良県の利用率は70%後半で推移し、全国でも40番目くらいに低い水準であることが課題となっており、大阪や京都など県外からの措置が多いという特色があります。養護老人ホームの利用率が低い理由として、いわゆる”措置控え“も要因の一つですが、施設側が自治体に対して養護老人ホームのことをしっかりと理解してもらうアプローチをしていく必要があり、『このような利用者を受け入れることができる』、『このように施設を運営している』ということを伝えて、つながりを深めていくことが重要だと考えています。そのためにも、当施設の取り組みやこれからの『令和な養護老人ホーム』に備えておくべきことを発信することにも力を入れています」(平岡氏)。
 福祉的・養護的理念である「どんな人も断らない」ことを実践し、地域共生社会の実現を支える同施設の今後の取り組みが注目される。


地域共生社会の実現に向け、なくてはならない存在
社会福祉法人カトリック聖ヨゼフホーム
法人理事・総合施設長 平岡 毅氏 
 養護老人ホームは、比較的元気な方が利用する時代がありましたが、現在はサービス付き高齢者向け住宅やケアハウスなどを、利用したくても利用できない低所得の方や家族を頼ることができない人、精神疾患や発達障害、知的障害がある方など、これらの事情により行き場のない方の利用が増えてきています。
 そのときのベッドの状況で入居をお断りしてしまうケースも出てしまいますが、断ることで一人の人生や家族の人生が大きく変わってしまうことを福祉の担い手として重く捉えなくてはならないと思います。
 生きづらさのある人や行き場のない人を受け入れるという養護老人ホームは、地域共生社会の実現に向けてなくてはならない存在であり、そのような考えを共有していくことに取り組んでいきたいと考えています。


<< 施設概要 >>令和5年3月現在
理事長 清冨 洋三 法人設立 昭和37年1月
総合施設長 平岡 毅 施設長 福井 修平
入所定員 50人(ショートステイ2床)
職員数 149人(法人全体)
法人施設 特別養護老人ホームサンタ・マリア(入所定員80人)、デイサービスセンター(定員:一般型35人、地域密着型10人、認知症対応型12人)
住所 〒639−2251 奈良県御所市戸毛54−6
TEL 0745−67−2015 FAX 0745−67−2002
URL https://yozefu-home.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2023年3月号に掲載されたものを一部改変して掲載しています。
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