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▲ 施設の外観 |
急性期から回復期、在宅医療まで一貫したサービスを提供
東京都足立区にある社会医療法人社団慈生会等潤病院は、「地域と共に生きる慈しみのトータルヘルスケア」という理念のもと、急性期から回復期、在宅医療、健康増進まで一貫したサービス提供に取り組んでいる。法人の沿革としては、昭和49年に同院の前身となる足立クリニックを開設したことにはじまる。昭和54年に等潤病院に改組するとともに、昭和56年に医療法人社団慈生会を設立。その後、救急・急性期医療の中核病院として地域医療を長年にわたり支え、特別医療法人を経て、平成24年に社会医療法人化している。
現在の病床数は150床で、その内訳は一般病棟78床、地域包括ケア病棟30床、回復期リハビリテーション病棟42床となっている。救急医療では、二次救急医療機関、地域救急医療センターとして24時間365日体制の救急診療を行い、年間約3,000件の救急搬送を受け入れている。
医療機能としては、心臓血管センター、腎センター、内視鏡センター、健診センターの機能を有し、治療では内視鏡治療や鏡視下手術、がんの科学療法など最新の治療を取り入れ、低侵襲治療である血管内治療にも注力。現在は冠動脈疾患や末梢血管疾患、不整脈、脳血管障害に対する治療を実施している。
さらに、最新の医療機器(320列CT、3T・MRI)を導入し、迅速な診断とともに質の高い医療提供につなげている。その一方で、地域の高齢化進行を見据え、リハビリにも力を入れ、急性期、回復期、生活期においてシームレスなリハビリを提供している。
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▲ 等潤病院の総合受付と回復期リハビリテーション病棟の病室 | |
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▲ 最新のリハビリ機器を取り揃えたリハビリ室 | ▲ 医療機器では、最高性能の320列エリアディテクタCTなどを導入 |
法人理念を体現した医療・介護の複合施設を開設
法人施設としては、等潤病院のほかに、診療所や介護老人保健施設、グループホーム、訪問看護、訪問リハビリ、地域包括支援センターなどを運営しており、令和5年9月には医療・介護の複合施設として「等潤メディカルプラザ」を開設した。
等潤病院の向かいの敷地に建築された「等潤メディカルプラザ」は、同院に併設していた健診センター、腎センターを移設して機能強化を図るとともに、地域に不足する緩和ケアセンター(緩和ケア病棟20床)を新設。さらに、在宅医療やリハビリ機能を強化するため、在宅診療所をはじめ、通所サービスのデイケアやデイサービス、居住サービスの有料老人ホームを併設している。高度医療から在宅医療、健康増進、緩和ケアまでをシームレスに提供することにより、法人理念に掲げるトータルヘルスケアの実現を目指している。
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▲ 令和5年9月に開設した等潤メディカルプラザ。医療・介護の複合施設として緩和ケアセンター、腎センター、健診センターの機能を有するほか、在宅診療所やデイケア、デイサービス、有料老人ホーム等を併設する | |
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▲ 屋上庭園では、見晴らしのよい環境のなかで患者がリハビリに取り組むことができる | ▲ 広々した空間のデイケアのスペース |
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▲ 緩和ケア病棟の病室とデイルーム。穏やかに過ごせる療養環境を提供している |
理事長の就任に伴い、経営改革に着手
同院は、平成16年頃から赤字経営が続くなか、平成19年に現理事長の伊藤雅史氏が理事長に就任し、経営改革や勤務環境改善に取り組み、職員の採用や離職率の改善などの成果を上げている。
経営改革や勤務環境改善に取り組んだ経緯について、伊藤理事長は次のように説明する。
「私が理事長に着任したのは医療崩壊が叫ばれた頃で、当院に限らず全国の医療機関の経営状況が悪化し、医療従事者の離職率が高い状況にありました。就任後は、現在の法人理念を掲げ、地域医療を守るために急性期病院としての機能を強化し、医療・介護を一貫してシームレスに提供する方針を打ち出しましたが、この方針を実践するためには、経営の立て直しと人員の増員が不可欠であり、職員が働きがいをもって勤務し続けられる労働環境の整備が必要だと考えました。また、当時はトップダウンの指揮命令が多く、ボトムアップで意見が出やすい職場環境をつくるためにリーダーの育成に取り組みました」。
組織の課題を把握するため、平成19年に実施した職員満足度調査では、ほぼすべての項目で全国平均を大きく下回る水準であることがわかり、とくに「情報共有」、「処遇・評価方法」、「勤務環境」の3点で不満が高かったという。
「当時、当院では労務管理に必要なものがほとんど整備されておらず、職員の給与格差が生じており、同じ仕事をしていても不公平感がありました。労働環境の改善にあたっては、社会保険労務士、公認会計士、弁護士のアドバイスを受け、就業規則の改定や人事制度の刷新(等級制度・評価制度の導入、給与制度の改定)、多様な働き方ができる勤務制度を導入し、職員が働きがいをもてる労働環境を整備しました」(伊藤理事長)。
働きがいをもてる労働環境を整備
等級制度では、職員に期待する職務遂行能力基準を等級別に明確化し、職員一人ひとりの等級の決定や昇格運用を定めた7段階の職能等級制度を導入。さらに、職種別・等級別に人事考課表を作成し、自己評価、上司評価(1次、2次)を経て、考課者による判定会議を実施し、理事長が承認した最終評価に基づき、昇給、昇格、賞与に反映する評価制度をつくった。給与制度では、職能給を主体に年齢給、勤続給を基本給として、等級別・職種別の給与表を作成し、定期昇給を行っている。
勤務体系としては、平成22年から短時間正職員制度、夜勤制限正職員制度、平成25年からは夜勤専従正職員制度を導入。現在はフレックス制度や時間単位年次有給休暇制度を導入し、ワーク・ライフ・バランスを推進している。
また、設置する院内保育所については、夜勤勤務者へ対応するため、24時間365日の運用に拡充することにより、子育てしながら働き続けられる職場環境をつくった。
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▲ 働きやすい職場環境づくりとして24時間365日対応の院内保育室を設置 |
原価管理システムにより職員の経営意識を醸成
さらに、各種制度を整備しても、職員に経営に対する当事者意識がなければ制度が定着しないことから、平成23年から「京セラ式病院原価管理手法」を介護部門で導入し、翌年から医療部門での導入を開始した。
「京セラ式病院原価管理手法」は、京セラの「アメーバ経営」のノウハウをベースに、病院向けに開発されたシステムであり、病院内を各病棟、放射線科、リハビリテーション科、薬剤科、医事課、総務課などといった役割・責任を明確にした複数の小さな組織に分け、それぞれの収入および部門運営に必要となる総合原価を細かく捉えて、自主的に部門運営を行う仕組み。組織全体の経営について全職員が考え、病院経営を内部から変革していく手法となっている。
この手法により、@質の高い医療・介護サービスを永続的に提供するための必要収益の確保、A全員参加経営の実現、B経営者意識をもつ人材の育成、C部門ごとの課題を明確にし、全員で改善に取り組む、D各部門の活動成果を正しく捉え、数値として可視化することが可能となり、経営意識の醸成と目標管理の向上、主任・リーダーの教育・育成につなげている。
「京セラ式病院原価管理手法の導入による職員の変化としては、法人内での人的交流が活性化するとともに、職員一人ひとりに経営参画意識が芽生えています。例えば、病棟師長クラスからDPC点数や診療報酬、材料費などを意識した発言が聞かれるようになり、医師以外の医療職が率先して取り組み、客観的な実績を示して医師を巻き込む動きもみられています。若い職員に小部門の責任者を任せることで、中間管理職の育成にも非常に有効となっています」(伊藤理事長)。
労働環境改善の取り組みや、京セラ式病院原価管理手法の導入による効果としては、職員が働きがいをもち、働き続けられる職場環境をつくることで、必要な人材の流出を防ぎ、離職率が大幅に改善しており、平成23年度には「東京都ワーク・ライフ・バランス認定企業」に選出されている。
自己応募による採用者も増加しており、看護師の採用については、取り組み以前は人材派遣会社を頼らざるを得ない状況にあったが、約7割が自己応募者になるまで改善した。平成25年に実施した職員満足度調査では、すべての項目において大幅に改善しており、職員が家族や知人に職場として紹介するケースも増えているという。
「採用については、コロナ禍以降は少し下がったところがありますが、人材派遣の費用が削減したことや、人材を確保することで”断らない救急“を実践できることにより、病院経営にもよい影響が出ています」(伊藤理事長)。
ICTを活用し、業務の負担軽減を図る
そのほかにも、同院ではICTを積極的に導入し、職員の負担軽減を図っている。
ICTの導入について、事務局長の大島琢氏は次のように説明する。
「通常、電子カルテを扱うパソコンの端末は、インターネットと隔離された環境にあり、利便性と相反するところがありますが、当院では同じパソコンで電子カルテとインターネットにつながる仕組みをつくっています。グループウェアを用いて、職員間の連絡やワークフローの申請など、自分の労務に関わることも同じパソコンでできるので非常に効率的です。また、法人内のすべての施設がデータセンターとつながることにより、同一の患者IDで対応することが可能となっています」。
さらに、AIを活用した業務改善の取り組みとして、AI問診システム(株式会社Ubie株式会社)を導入している。
「AI問診は、外来患者に症状などをタブレット端末で入力してもらうと、AIが最適な質問を自動で判断して問診を行うものになります。質問項目が固定された従来の問診よりも、さらに詳しい質問を行うので、医師の診察を充実させることができます。当院は、電子カルテとインターネットに同じパソコンからつながる仕組みをつくっているため、タブレットで入力した問診結果をクラウドを介して電子カルテに反映させることが可能となっており、職員の負担軽減につながっています」(伊藤理事長)。
トータルヘルスケアの実現のため、職員が働きやすい職場環境づくりを推進する同院の今後の取り組みが注目される。
社会医療法人社団慈生会 等潤病院
理事長・院長 伊藤 雅史氏

一方で、高齢者医療に偏ると、診療する疾患が限られて“キュア”よりも“ケア”が中心となり、医療者としては少しモチベーションが下がりかねないため、高度医療を保ちながら、地域の医療ニーズに応えていく。そのあたりの舵取りは課題だと思います。
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理事長/院長 | 伊藤 雅史 | 病院開設 | 昭和56年 |
病床数 | 150床(一般病棟78床、地域包括ケア病棟30床、回復期リハビリテーション病棟42床) | ||
診療科 | 内科、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科、腎臓内科、人工透析、糖尿病内科、神経内科、血液内科、外科、乳腺外科、整形外科、消化器外科、脳神経外科、血管外科、肛門外科、麻酔科、泌尿器科、放射線科、リハビリテーション科、緩和ケア科、リウマチ科、皮膚科 | ||
法人施設 | 等潤メディカルプラザ病院(緩和ケアセンター、腎センター、健診センター)、等潤メディケア事業部(診療所、住宅型有料老人ホーム、グループホーム、訪問看護、通所リハビリ、通所介護、居宅介護支援、地域包括ケアセンター)、介護老人保健施設イルアカーサ | ||
住所 | 〒121-0075 東京都足立区一ツ家4−3−4 | ||
TEL | 03−3850−8711 | FAX | 03−3858−9339 |
URL | https://www.jiseikAI-phcc.jp/tojun_hospital/ |
■ この記事は月刊誌「WAM」2025年7月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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