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— 高知県宿毛市・社会医療法人長生会 大井田病院 —
医療ITの活用により地域医療の質向上と連携を強化

▲ 施設の外観

時代とともに地域に必要とされる医療ニーズに対応

 高知県宿毛市にある社会医療法人長生会大井田病院は、「地域の皆様が安心して生活できる地域づくりに貢献します」という理念のもと、時代とともに地域に必要とされる医療ニーズに応えながら地域住民の健康を守り続けている。
 法人の沿革としては、大正2年に同院の前身となる診療所を開院したことにはじまる。昭和32年に医療法人長生会を設立し、昭和42年に診療所の廃止に伴い、新たに43床の大井田病院を開設した。診療所の開設から100年以上にわたって地域医療を支え続けており、令和7年8月には社会医療法人の認可を受けている。
 現在の病床数は93床で、その内訳は地域包括ケア病棟50床、介護医療院43床となっている。患者に良質で安全な医療を提供し、安心できる療養環境を整備するとともに、地域の医療機関・協力施設との連携を密にし、一次医療の完結を目指している。
 同院が立地する宿毛市と所属する幡多医療圏の状況について、院長の田中公章氏は次のように説明する。
 「宿毛市の人口は約1万8000人で、高齢化率は令和5年時点で40・1%を超え、人口減少と高齢化に伴い、過疎化が進行した地域になります。さらに、宿毛市は南北に長く、診療所を含めた医療機関が国道沿いにしかなく、公共交通機関が十分に整備されていないことから、医療アクセスが困難な住民をどのように支えていくかという課題が全国のなかでも先行しています。また、当院が所属する幡多医療圏は、東京23区の2倍の面積があり、大学病院や救命センターのある高知市まで3時間ほどかかるという特性上、圏域内で救急医療を始めとした二次医療を完結させることが求められており、医療機能の分担と医連携が不可欠となっています」。


 ▲ 大井田病院の総合受付と病室
 ▲ リハビリ室では各専門職が連携し、質の高いリハビリテーションを提供
 ▲ 大井田病院 院長 田中 公章 氏

幡多医療圏の人口の25%が登録

 令和7年9月現在、「はたまるねっと」の参加医療機関数は123施設(薬局、訪問看護、居宅介護支援事業等を含む)で、登録患者数は2万1463人に達している。登録患者数は幡多医療圏の人口の約25%に相当し、宿毛市に限ると80歳以上の約9割が登録しているという。
 「はたまるねっと」の運用について、理事長の大井田二郎氏は次のように説明する。
 「『はたまるねっと』が機能している要因としては、二次医療圏単位で運用していることがあると思います。例えば、高知市は人口10万人対病床数が全国トップクラスで、人口30万人に対して救命救急病院だけでも3カ所あり、どうしても競合という認識が強くなります。幡多医療圏は中核病院が1つで、医療機関同士が顔の見える関係であることも大きく、二次医療圏単位で中核病院を中心としたネットワークを組むことで、実効的な機能分担、医療連携が実現できていると感じています」。
 一方で、地域医療情報ネットワークの課題としては、運用していくためのランニングコストの確保をあげている。
 「システムの構築にあたっては、国や行政からの補助金がありますが、維持していくコストは自分たちで捻出していかなくてはなりません。『はたまるねっと』の月額利用料は、病院が3万円、診療所が1万円、薬局が3,000円、介護事業所が1,000円となりますが、それだけでは維持することはできません。これまで全国で多くの地域医療情報ネットワークが構築されていますが、『金の切れ目が、システムの切れ目』となり、非常に優秀なシステムであるのにも関わらず、運用ができなくなったケースも少なくありません。このランニングコストの捻出は、『はたまるねっと』に限らず、全国にある地域医療情報ネットワークシステムの課題だと思います」(大井田理事長)。
 なお、令和元年5月から高知県下で稼働していた医療介護情報連携システム「高知家ケ@アライン」と統合し、「高知家@ラインはたまるねっと」として、高知中央医療圏を除いた県内全域での医療・介護情報ネットワークを構築している。「高知家@ラインはたまるねっと」の活用により、診療情報に加え、介護や在宅医療に関する情報共有もスムーズに行えるようになっているという。


「医療MaaS」の運用を開始

 医療ITを活用した取り組みとしては、令和4年から県内で初めて「医療MaaS」(ヘルスケアモビリティ)の運用を開始し、オンライン診療とは別にオンライン巡回診療を実施している。
 「医療MaaS」は、医療機器や通信機器を搭載した車両のことで、医療機関へのアクセスが困難な中山間地域の患者の自宅などに出向き、配置した看護師や医師事務作業補助者等が車内で診療をサポートし、医師が遠隔でオンライン診療を行う内容となっている。
 「『医療MaaS』を活用した取り組みとして、これまで巡回オンライン診療の対象は無医地区・準無医地区でしたが、昨年1月に規制緩和が行われ、準無医地区に準ずる地域まで実施することが可能となっています。薬局の薬剤師と連携し、オンライン服薬指導や薬の配送を組みあわせることにも取り組んでいます。今後は、がん患者に対する『医療MaaS』の活用を進めていきたいと考えています。がん治療になると、宿毛市から大学病院やがんセンターがある高知市に3時間くらいかけて受診にいく必要がありましたが、『医療MaaS』を活用して宿毛市にいる医師や看護師、患者と大学病院等の医師をつなぎ、検査結果や画像データを共有することにより、患者は地元にいながら大学病院やがんセンターの医師から診察を受けることができ、患者と医師だけでなく、双方の医師がつながることが可能となっています」(田中院長)。


 ▲ 同院は令和4年から「医療MaaS」の運用を開始し、医療機器や通信機器を搭載した車両で、医療アクセスが困難な中山間地域の患者の自宅に出向いてオンライン巡回診療を行っている

コミュニティナース活動を実践

 そのほかにも、同院は健康的なまちづくりを目指し、コミュニティナース活動を実践している。 コミュニティナース活動は、地域全体を職場として捉え、看護師をはじめするあらゆる職種が地域に出向き、地域住民の健康づくりをサポートするもの。
 具体的な取り組みとしては、宿毛市が実施している「すくもいきいきサロン」や、高知県が推進する介護予防体操「100歳体操」などの会場を訪問し、参加者の身体状況に応じた運動の提案や健康相談を行うほか、「移動保健室」として、中山間地域の集会所などに地域住民が集まる機会をつくり、看護師や理学療法士などが医療MaaS車両で訪問し、健康相談や必要に応じてオンライン診療を実施している。
 「多くの職員がコミュニティナース活動を実践できるよう各部署でシフト調整を行うことにより、看護師の9割以上が活動に携わっています。宿毛市とは『健康的なまちづくり』の協定を結び、現在は当院だけでなく、地域の医療機関でも実践されるなど活動が広がっています」(田中院長)。


 ▲ コミュ二ティナース活動では、看護師や理学療法士などが車両で、中山間地域の集会所や介護予防体操の会場等に出向き、健康相談などを行う「移動保健室」に取り組んでいる

地域医療連携推進法人「はたまるパートナーズ」を設立

 さらに、令和7年4月には、同院を含む幡多地域の6病院が参画する地域医療連携推進法人「はたまるパートナーズ」を設立した。
 「『はたまるパートナーズ』は、民間病院だけでなく、県立病院や市立病院、国保病院などの公立病院とともに構成しており、公立と民間の垣根を超えて協力しあうことで、永続的に地域医療を守ることのできる医療提供体制の構築を目指しています。具体的な連携としては、診療・病床の機能分担を進め、業務連携による医療の質の向上を図るとともに、参加法人間での職員派遣や人材育成、医薬品・診療材料等の共同購入、医療機器の共同利用などを実施していく予定となっています」(田中院長)。
 また、高知県は南海トラフ地震の発生により甚大な被害が予測される地域であることから、地域医療連携推進法人内に災害部会を立ち上げ、防災対策や連携について検討が進められているという。
 過疎化が進行する地域で効率的な医療提供体制を構築し、地域医療を支える同院の今後の取り組みが注目される。


社会医療法人として地域を支え続ける
社会医療法人長生会 大井田病院
理事長 大井田 二郎 氏

理事長  現在、当法人の課題としては、病院が築40年を超えるなかで、建築費の高騰により同じ建物を立て直すには約30億円がかかり、毎年2億円以上の収益を上げなければ回収ができないことがあります。幸い、当院では外来患者、入院患者とも増え続けていますが、地域の医療・介護需要はピークを過ぎていることを考えると非常に厳しい状況となっています。
 また、地域包括ケアシステムが進められるなか、社会医療法人として地域医療を守るとともに、医療以外のところでも地域を支えていく必要があると感じています。例えば、住まいの場の提供や一次産業の担い手がいなくなったときに、協力することできる存在でありたいと考えています。




<< 施設概要 >>
理事長 大井田 二郎 院長 田中 公章
病院開設 大正2年
病床数 93床(地域包括ケア病棟50床、介護医療院43床)
診療科 内科、胃腸内科、循環器内科、小児科、外科、皮膚科、整形外科、リハビリテーション科
併設施設 訪問看護ステーション、通所リハビリテーション
住所 〒788-0001 高知県宿毛市中央8丁目3番6号
URL http://www.ooida-hp.net/
TEL 0880−63−2101 FAX 0880−63−4792


■ この記事は月刊誌「WAM」2025年11月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
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