WAMNETロゴ
— 福岡県柳川市・社会福祉法人たからばこ 宝箱グループホームななほし —
退院後の「居場所」をつくる。全国初、集中支援室の挑戦

▲ 施設の外観

多様な障害福祉サービスを展開

 福岡県柳川市にある社会福祉法人たからばこ(理事長:古賀千鶴氏)は、「どんなに重い障がいを持っていても、なかまとともに『働き、暮らし、学び、遊ぶ』が、ゆたかになる地域づくりをめざして」という法人理念のもと、地域ニーズに応えた多様な障害福祉サービスを提供している。
 法人の沿革としては、地域で行き場のない重度の障害者を受け入れるため、平成9年に市民団体を発足し、共同作業所を開設したことにはじまる。現在は、柳川市において3カ所の拠点を展開し、第1宝箱では生活介護と就労継続支援B型事業所の「そらまめ」をはじめ、居宅介護・行動援護、移動支援事業を行う「リアライズ」、短期入所の「ゆつらっと」、相談支援センターの「ぷらん柳川」を併設している。第2宝箱では、生活介護と就労継続支援B型事業所、第3宝箱では放課後等デイサービスを運営し、障害者が住み慣れた地域で自分らしく暮らし続けることをサポートしている。
 就労継続支援B型事業所の活動では、比較的軽度の利用者を中心に菓子作りを行っており、重度の利用者は近隣の山に出向き、施設内のボイラーで使用する薪運びの仕事を担い、入浴サービスの風呂を沸かしたり、温風暖房などに活用しているという。
 そのほかにも、柳川市から「信書便活動」として、市の郵便物を公民館などの公共施設に配布する仕事を受託しており、地域に出向いて社会とつながる活動を多く取り入れていることが支援の特色となっている。


重度障害者の受け入れ先が不足

 活動拠点の柳川市における障害福祉サービスの整備状況や地域課題について、業務執行理事の覚知康博氏は次のように説明する。
 「柳川市は、障害者総合支援法の施行後、社会福祉法人にとどまらず、NPOや株式会社によって、多くの障害福祉事業所が開設されています。その一方で、自分で身の回りのことができる障害者を対象とする事業所が多く、強度行動障害を含めた重度の障害者や医療的ケアが必要な人の受け入れ先が少ないことが課題となっています。そのような状況のなか、当法人は設立当初から地域で行き場のない重度障害者を積極的に受け入れることを役割としてきました」。


強度行動障害のある人を受け入れるグループホームを開設

 同法人は、令和7年6月に障害者グループホーム「宝箱グループホームななほし」を開設した。同施設は、強度行動障害のある人を受け入れるとともに、地域の事業所と連携して段階的な地域移行を支える集中支援室を併設したグループホームで、このような機能を有したグループホームは全国初の試みとなっている。
 強度行動障害は、自傷、他傷、もの壊し、多動など本人や周囲の人の暮らしに影響を及ぼす行動が著しく高い頻度で起こり、特別に配慮された支援が必要になっている状態とされる。激しいこだわり行動がみられるため、対応が難しく受け入れる施設は少ない現状がある。そのような場合、家族が対応しなくてはならず、常に目が離せないことから疲弊し、結果として精神科病院に長期入院せざるを得ないケースも少なくないという。
 「当法人でも、過去に支援に携わっていた強度行動障害のある利用者が、精神科病院の退院後に他法人が運営するグループホームに入所したところ、病院と比べて刺激が多い生活に適応できず、病院に再入院になったケースがありました。このような地域移行の失敗を繰り返さないため、退院後に生活の刺激に慣れるための支援を行う集中支援室を併設したグループホームの開設を計画しました。また、集中支援室では、地域の事業所と連携して一緒に支援を行うことにより、地域で強度行動障害のある人を受け入れる支援モデルを確立することを目指しています」(覚知康博氏)。
 第1宝箱の隣接地に開設した同施設の定員は7人(うち短期入所1人)と集中支援室1人となっている。建物は2階建てで、1階は居室2室と集中支援室、自立課題室、2階は居室4室と短期入所1室があり、各階に共有スペースと浴室、トイレは2部屋に1カ所ずつ設置している。


特性に配慮した施設設計の工夫

 施設設計にあたっては、全国で強度行動障害のある人を先駆的に受け入れている施設を視察して参考とした。設計の特色や工夫について、管理者の覚知直美氏は次のように説明する。「強度行動障害のある方を受け入れるためには、その特性を配慮した設計が不可欠です。ものを壊したり、夜中に大声をあげるという特性のある方が多いため、居室や集中支援室は耐久性と防音性が非常に高く、施設内の窓ガラスはすべて強化ガラスを使用しています。刺激を与えないように配慮することで、ものを壊したり、ガラスを割るなどの行動問題がさらにエスカレートすることを抑止しています。また、突起物が苦手な人も少なくないため、居室内のドアノブは引き戸とし、照明やエアコンのスイッチ、コンセントの差し込み口などはすべて壁面に収納することで、なるべく刺激を減らせる構造としています」。
 さらに、各居室の床には防水加工を施し、排水溝を設けることにより、居室内で便や尿を排泄した際にも水で洗い流せることで衛生的な生活環境を提供している。そのほかにも、施設内には居室、浴室・トイレ、階段を除き、録画機能を備えた見守りカメラを設置し、パソコンやスマホで確認することが可能となっており、入居者の安全確認や行動問題が起きる要因を探りながら、生活を整えるための支援に活用しているという。
 「現在の利用状況としては、開設後すぐに定員に達しています。入居者の障害支援区分(6段階で数字が高いほど必要な支援度合いが高い)は、『区分6』が1人、『区分5』が3人と、入居者6人のうち4人が強度行動障害に該当する人たちになります。もともと、当法人の利用者であったため、状態や特性を把握して生活面でのアセスメントがとれていたこともあり、日中は敷地内にある生活介護・就労継続支援B型事業所に通いながら、生活していただくことができています」(覚知直美氏)。


 ▲ 施設内は、居室、浴室・トイレ、階段以外に、録画機能付きの見守りカメラを設置し、入居者の安全確認や行動の振り返りなどに活用している  ▲ 生活の場として敷地内には芝生の庭をつくった
 ▲ 宝箱グループホーム「ななほし」の居室と共有スペース。居室は耐久性、防音性が高い設計とした
 ▲ 1階に設置した自立課題室は、入居者の生活訓練に活用されている  ▲ 2階の入居者が食事に使用するダイニングスペース
 ▲ 防音性や安全性に配慮した集中支援室。利用者の刺激を減らすため、照明やエアコンのスイッチ、コンセントの 差し込み口など凹凸のあるものは、すべて壁面に収納している
 ▲ 集中支援援室の床は、防水加工と排水溝を設けることで、尿や便を水で洗い流すことが可能
 ▲ トイレは2部屋に1カ所あり、清掃しやすいようシャワーを設置した
 ▲ 宝箱グループホーム「ななほし」 管理者 覚知 直美氏

地域の事業所と連携し、受け入れ先を増やす

 設置した集中支援室の運用については、原則として移行先の見通しが立ち、移行先となる地域の事業所から共同支援の同意を得た人を対象としている。
 「地域の事業所と共同支援を行う理由としては、当法人だけで受け入れていくことは負担が大きく、受け入れ数にも限りがあり、このままでは強度行動障害の利用者を受け入れる事業者が増えていきません。地域のなかで強度行動障害の利用者を受け入れることのできる事業所を広げていくためにも、集中支援室で地域の事業所と共同支援を行い、支援ノウハウを伝えながら、一緒にスキルを高めていきたいと考えています」(覚知康博氏)。
 なお、初年度は入居者の生活を安定させるため、集中支援室を使用しておらず、令和8年度からの本格稼働に向け、共同支援を行う事業所の発掘や取り組みへの理解を深めることに注力した。
 令和8年3月には、県との共催で強度行動障害のある人への支援に関する学習会を開催し、共同支援の意欲のある事業所に参加を呼びかけたところ、地域の入所施設やグループホーム、生活介護、訪問看護事業所などから申し込みがあった。学習会では、同施設の事例を交えながら支援における困りごとや課題を共有しており、今後も定期的に開催することにより、共同支援を行う事業所を増やし、地域全体で強度行動障害の人を受け入れるシステムを構築することを目指しているという。


365日対応の支援体制の整備が急務

 グループホームの運営の課題としては、365日対応の支援体制を整備することをあげている。
 「現在、当施設は365日体制での運営には至っていない現状があります。その要因として、入居者のご家族が健在で、ほぼ全員が土日は自宅に帰って一緒に過ごすことを要望していることもありますが、強度行動障害を含む重度障害者を受け入れ、手厚い支援を行うための人材確保が困難なことがあります。親亡き後のことを考えると、早期に支援体制を整備し、365日生活することができる環境をつくらなければなりません。土日の活動についても地域の事業所と連携しながら創出していきたいと思います」(覚知直美氏)。
 人材確保は、福祉人材が不足するなか、地域の事業所自体は増加していることもあり、深刻な状況にあるという。
 「人材確保に向けては、資格手当として資格ごとに1万円を支給したり、奨学金の返済支援として最大300万円までを法人負担とする制度を導入していますが、とくに男性からの応募が少ない状況にあります。職員の構成は、50〜60代のベテラン職員が中心で、将来的に事業を継続していくためにも、若い職員を採用していくことが法人の大きな課題となっています。また、同時に職員には長く働き続けてもらうことが大切になりますが、強度行動障害への支援は負担が大きいこともあり、職員のなかには受け入れることに不安という声もあります。その一方で、自分が関わっている利用者への支援の質を高めていくことには非常に意欲的です。いま支援をしている人を見捨てず、どのように支援をしていくかということを考えていくことが重要になると思います」(覚知康博氏)。
 強度行動障害のある人を受け入れるグループホームを開設し、地域全体で受け入れることのできるシステムの構築を目指す同法人の今後の取り組みが注目される。


地域全体で支える システムの構築を目指す
社会福祉法人たからばこ
業務執行理事 覚知 康博氏

理事長  当施設は、県内外から視察や問いあわせがあり、同様の活動をしたいという関係者や事業所が増えています。令和8年度からは、集中支援室で地域の事業所と共同支援を行い、強度行動障害のある人の支援方法を試行錯誤することにより、受け入れができる事業所を増やしながら、地域全体で支えるシステムを構築していきたいと思います。
 また、支援においては、令和6年度の障害福祉サービス等報酬改定で新たに創設された強度行動障害を有する人への専門的支援を担う広域的支援人材に来所してもらい、支援の指導を受けられていることも大きくなっています。




<< 施設概要 >>
理事長 古賀 千鶴
グループホーム開設 令和7年6月
法人施設 第1宝箱(生活介護、就労継続支援B型、居宅介護、短期入所、相談支援)、第2宝箱(生活介護、就労継続支援B型事業)、第3宝箱(放課後等デイサービス)
住所 〒832−0827福岡県柳川市三橋町蒲船津1238−1
URL https://www.takarabako97.com/index.html
TEL 0944−73−8849 FAX 0944−73−8871


■ この記事は月刊誌「WAM」2026年4月号に掲載されたものを一部変更して掲載しています。
  月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。




表示モード:

  1. スマートフォン
  2. PCサイトはこちら