社会福祉法人神和会が営む特別養護老人ホーム大野の郷(以下「大野の郷」という)が平成22年7月1日、茨城県鹿嶋市にオープンしました。
大野の郷は、5つのユニット(各ユニット定員10名)、ショートステイ(定員10名)、デイサービス(定員30名)から成る2階建ての特別養護老人ホームで、「木造建築」であることが特徴です。
建物が木造であることから、「木の癒し効果」や、「夏は涼しく、冬は暖かい」「梅雨時は湿気を吸収して、乾燥する冬には湿気を保持する」という高い調湿作用がある等、日本の気候風土に適した住みやすい空間がつくられています。
施設の建設にあたり木造建築を選ばれたのは、法人理事の西谷照男氏が「自分が入居するなら慣れ親しんだ「木造」の建物」が望ましいと考えていたことがきっかけとのことですが、木造とすることで同法人の基本理念である『「やすらぎ」と「癒し」があり「生きる喜び」と「幸福を共有」すること』をハードの面からも実現した施設となっています。
大野の郷のような大型の施設を建設する場合は建物を耐火構造にしなければならないため、特別養護老人ホームを建設する際は鉄筋コンクリート構造(以下、「RC構造」という)とするのが一般的ですが、大野の郷は平成16年に国土交通大臣が耐火認定をした「ツーバイフォー工法」を用いることにより「木造でありながら耐火構造」を実現しました。
木造耐火構造の特別養護老人ホームとしては大野の郷が関東初ということもあり、その効果や苦労されたことなどについて法人理事長の石津ひさよ氏、理事の西谷照男氏、施設長の市村修氏、施設の施工業者である株式会社村上工務店の須田和彦氏にお話しを伺いました。
<「特別養護老人ホーム大野の郷」 概観と居室>
<< 木造建築の効果 >>
○ 人にやさしい建物を実現
・開設以来、骨折をした利用者がゼロ
平成22年7月のオープンであるため、まだ統計的に結論が言えるものではない、とのことわりはありましたが、利用者がベッドから落ちたり、車いすから落ちたりということはあっても、かすり傷程度で骨折するような大きなケガに至ったことは未だにないそうです。これは、職員の方が常日頃より事故のないように努めていることは言うまでもありませんが、木のクッション性等による効果が一助となっているのではないかとのことです。
・利用者が施設内で歩行訓練ができる
木造であるため、腰や膝にかかる負担が少ないことから、廊下や階段で歩行訓練されている利用者の方が見受けられるとのことです。RC構造のコンクリートの床では足腰への負担が大きく、このように施設内で歩行訓練をするようなことは難しいのではないかとのことです。
○ 経営にやさしい建物を実現
・イニシャルコスト(初期投資金)の軽減
大野の郷では木造建築としたことで、工期が2か月程度短縮できたこと等により、コスト軽減を図ることができたとのことでした。
イニシャルコストの軽減は、経営の安定化にもつながるとのことでした。
・ランニングコストの軽減
ランニングコストについてもオープン後間もないため、まだ統計的に結論が言えるものではない、とのことわりはありましたが、木そのものの調湿効果や、木造耐火構造を実現するため窓を複合ガラス(2重ガラス)にする、壁を2重3重の厚さにする、他にも床下にグラスウールを敷き断熱性を高めるなどの対策を行ったことにより、設置しているストーブは一度も使ったことがなく、当初の予定より光熱費が低く抑えられているとのことです。
○ 地球環境にやさしい建物を実現
・CO2の削減及び廃木材のリサイクルが可能
木造建築は、資材の生産過程から建設時、そして建物としての使命が終わった後までの全ての過程においてRC構造の建築と比べCO2の削減に効果があるそうです。
また、建物としての使命が終わった場合には、廃木材がリサイクル可能であることや、産業廃棄物がほとんど出ずに土に還るとのことであり、木造建築は地球環境にもやさしい建物を実現しています。
当法人は『「地球環境」保護を責務とする』ことも基本理念として掲げており、木造建築を採用された理由の一つに環境面への配慮もあるとのことです。
上に挙げたような効果の一方で、建設にあたっては苦労されたことも多々あったとのことでした。
<< 建設にあたり苦労されたこと >>
○ 木造耐火構造の特別養護老人ホームが近隣にないこと
大野の郷を「木造」で建設することを決定するため、視察するだけでも大分にまで足を運ばれたそうです。
木造耐火構造の特別養護老人ホームが近隣にないことによるものですが、そこで木造の優しい空気感を理事の西谷氏が改めて体感し、木造建築に踏み切られたそうです。
○ 建設が天候に左右されたこと
茨城県鹿嶋市は雪がそれほど降らない土地とのことでしたが、大野の郷を建設中の平成22年1月には雨と雪が続いて、25日間作業ができない日があったとのことです。木材にとって雨や雪は大敵であるため、最初のうちは濡らさないような対策を行っていたそうですが、途中からは、濡れるのは仕方のないことと考え、如何に早く乾かすかに重点を置いて作業を行われたとのことでした。
今回、大野の郷に伺った所感として、「住む意識」を大事にし、居心地の良い空間をつくられていることを感じました。
利用者の方にとっては木のぬくもりのある空間を無意識のうちにも心地よく感じられていることと思います。
今後、木造の特別養護老人ホームがどのように増えていくか注目していきたいと思います。
今回ご紹介した大野の郷の詳細な内容については、月刊誌「WAM」の2011年3月号(3月1日発行)の「福祉・医療最前線」に掲載しています。
ご興味ご関心のある方は総務部総務課広報係(03-3438-0211)までご連絡ください。
○関連資料
・WAM NET研究成果「高齢者施設における建物整備と法人経営」
http://www.wam.go.jp/ca90/kenkyu/20090801/20090801.html
・ユニット型特別養護老人ホームの実態調査について(PDFファイル)
http://hp.wam.go.jp/Portals/0/docs/gyoumu/fukushikashitsuke/pdf/16_01.pdf
○参考
・社団法人 日本ツーバイフォー建築協会
http://www.2x4assoc.or.jp/