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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「保育所経営セミナー」報告−【東京会場】
「保育をめぐる国の動向と課題」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、平成23年3月4日(金曜日)全社協・灘尾ホールにおいて、保育所の経営者等を対象に「子ども・子育て新システム構築の動きと保育の役割」と題して保育所経営セミナーを開催しました。
 2010年6月、国の少子化社会対策会議においては、幼保一体化を含む新たな次世代育成支援のための包括的・一元的なシステムの構築を目指し、「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」が決定されました。
これを基に、基本制度ワーキングチームをはじめとする3つの作業グループが設置され、平成23年の通常国会への法案提出に向けて検討されているところです。
 子ども・子育て支援に関する具体的な政策展開が待たれる中、保育所経営者の皆さまは、こうした大きな変化の潮流の中にあって、難しい舵取りを求められています。
 今回のセミナーでは、国の政策検討の最新動向と先駆的実践者の方々からの講義を通じて、これからの保育に求められる役割は何か、そして、如何に安定した経営基盤を構築すべきかを考えることを目的としています。
 最初の講演は、「保育をめぐる国の動向と課題」と題して、厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 保育課長 の 今里 譲 氏にご登壇いただきました。
 講演内容の要旨は、次のとおりです。

保育所経営セミナー風景

(講演要旨)
 保育をめぐる課題の検討は、地域主権改革の中で先行して検討が進んでいる。平成21年10月7日の地方分権改革推進委員会の勧告の中で保育所の基準について、廃止又は条例委任する方向が示された。
 しかし、財政事情が厳しい中で、すべてを地方に任せてよいのかという議論もあり、平成21年12月15日に閣議決定された地方分権改革推進計画では、保育所の最低基準は条例で都道府県、指定都市、中核市が定めることとなった。また、保育士の配置基準、居室の面積基準など、ナショナルミニマムは国が決め、これを保障する必要があることから、国の基準と同じ内容でなければならないとされた。
 屋外遊戯場の設置、必要な用具の備え付けや保育時間などについては、すでに基準が緩和されているものもあるが、これらについては国の基準を参考にすればよいとされた。
 また、居室の面積基準については、東京都等の一部の地域に限り、待機児童解消までの一時的な措置として、合理的な理由がある範囲内で、例外的に国の基準と異なる内容を定めることができるとされた。
 これらの内容を含めた地方主権改革推進整備法案は昨年の通常国会(第174回)に提出され、衆議院で継続審議となっている。同法案の早急な成立は難しく、平成23年4月1日からの施行は困難な状況となっているが、基準を定める条例の制定は平成24年4月からでもよいとなっている。
 次世代育成支援の構築に向けた検討については、政権与党である民主党のマニフェストで、子ども手当以外に縦割りになっている子どもに関する施策を一本化し、質の高い保育環境を整備することが掲げられている。この一方、さらに遡って、社会保障審議会少子化対策特別部会では、平成20年3月から次世代育成支援のための新たな制度設計に向けた検討が行われ、平成21年2月には第1次報告が取りまとめられた上で、同年12月、議論の整理が行われた。
 その後、平成21年12月の「明日の安心と成長のための緊急経済対策」、「新成長戦略(基本方針)」、22年1月の「子ども・子育てビジョン」を経て、「子ども・子育て新システム検討会議」が設けられ、22年6月「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」が取りまとめられた。
 このような流れの中で課題は、新たな次世代育成支援のための包括的・一元的な制度の構築を進める(「明日の安心と成長のための緊急経済対策」)ことであり、
(1) 育児休業〜保育〜放課後対策への切れ目のないサービス保障
(2) 利用者本位の仕組みの導入
(3) 多様な利用者ニーズへの対応、潜在需要に対応した量的拡大
(4) 地域の実情に応じたサービス提供
(5) 安定的・継続的な費用確保
である。
 この60年で、共働きの家庭の増加、核家族化の進行や地域との関係の希薄化が進み、子育て中の親の不安感の増大、孤立化が進んでいる。
 また、育児休業は1年間であるが、休業者が職場へ復帰する場合、4月にならないと保育所の空きが出ないなど、切れ目のないサービスを提供するための仕組み・制度の整備が必要である。幼保一体化を含め、多様なサービスメニューの整備、働く家庭も専業主婦家庭も含めたすべての子育て家庭を対象とした包括的・一元的な制度の構築が求められている。
 待機児童は2万6千人存在するが、潜在的にはさらに存在するものと考えられる。地域的なアンバランスもあるが、例えば、100人分不足している地域で100人定員の保育所を作ってもさらに手を挙げてくる。子どもを産むことをためらっている人達も存在するため、そこまで考える必要がある。
 児童福祉法第24条ただし書きでは、「保育に対する需要の増大、児童の数の減少等やむを得ない事由があるときは、家庭的保育事業による保育を行うことその他の適切な保護をしなければならない。」と規定されており、市町村は保育に欠ける児童を必ずしも保育所において保育しなくても、適切に保護すれば良いとされている。
 しかしながら、すべての児童には保育を受ける権利があり、その権利をもって、市町村の責任の下、利用者と事業者の間の公的保育契約を直接結ぶこととなるが、これは市場原理でやるということではない。
 量的拡大において社会福祉法人でやることは良いが、それ以外の力を借りることも重要である。
 現在、保育に関しては1兆円の公費が投入されているが、量的拡大や職員配置などの質の確保、さらに賃金や労働条件等の問題を解消するためには、追加的な費用としてさらに1兆円程度の費用が必要となる。この財源問題については平成22年12月14日の「社会保障改革の推進について」の閣議決定の中で、「必要財源の安定的確保と財政健全化を同時に達成するための税制改革について一体的に検討を進め、その実現に向けた工程表とあわせ、23年半ばまでに成案を得」ることとされ、「優先的に取り組むべき子ども子育て対策・若者支援対策として、子ども手当法案、子ども・子育て新システム法案(仮称)及び求職者支援法案(仮称)の早期提出に向け、検討を急ぐ。」とされている。
 将来的には、「こども園(仮称)」への転換がベターであり、「こども園(仮称)」になっていただきたいと思っているが、今ある保育所、幼稚園をすべて排除するというものではない。
 子ども・子育て新システム法案については、今国会に提出しようとしているところである。同法案では平成25年からの新システムのスタートを目指しているが、移行期間を設けてあり、2年後にすべてが変わるという心配はいらない。
 
 午後からの講演は、次のとおりです。

    【講演内容】
    「幼保一体化を巡る動きとこれからの保育所経営」
    <講師> 仁愛大学人間生活学部 子ども教育学科 教授 西村 重稀 氏

    「認定こども園の実践と未来への経営課題」
    <講師>社会福祉法人東明会 認定こども園 飯沼保育園 理事長 東ヶ崎 静仁 氏

    ○「良質な保育サービスを目指すための保育所経営の視点とは」
    <講師> 社会福祉法人鐘の鳴る丘友の会 さくら第2保育園 園長 堀 昌浩 氏

    ○「社会福祉法人における保育所経営の視点〜平成21年度認可保育所経営分析参考指標から〜」
    <説明者> 独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営支援課 森光 正伸

     経営支援室では、これからも、福祉・医療の経営に関するトピックをテーマに、学識経験者、現場の実践者などを講師に迎え、経営セミナーを開催させていただきます。
     今後の開催予定は、
    http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspx です。
     お申込みは、Webからも可能ですので、是非、ご検討ください。