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連載コラム

介護技術の基本

家庭で介護を行っている方から、「(介護を受ける方に)動いてもらう、または動かすのに一苦労」という声をよく耳にします。特に、体の大きな方を無理に動かそうとすると、自分の体に負担がかかるばかりか、介護を受ける方にも余計な負担を強いることになります。
そうならないためにも、体のメカニズムを理解し、正しい介護技術を身につけたいものです。そこで、本連載では、人の体の動きに合わせた介護技術の基本を紹介します。ぜひ、介護を行う際に参考にしてみて下さい。

第7回 立位姿勢

さまざまな立位姿勢

今回は立位姿勢について解説します。立ち上がり動作の際にも説明しましたが、立位では座位姿勢に比べると支持基底面が小さくなります。そのため、脳血管系の障害や加齢などにより、バランス能力や筋力が低下すると立位姿勢を保持することが困難となり、転倒しやすくなります。
安定した立位姿勢がとれるように介助するためには、立位姿勢の仕組みを理解することが重要になります。図を用いて、安定した立位姿勢と立位姿勢が加齢や障害によって崩れていく仕組みについて説明します。


図 さまざまな立位姿勢

さまざまな立位姿勢

安定した立位姿勢

立位では重心の位置が骨盤の位置にあり、前からみると重心線が体の中心を通ります。横からみると、重心線は耳孔(耳の穴)、肩、股関節、膝関節後方、足関節前方を通って、足部がつくる支持基底面に落ちます。


立位姿勢が崩れていく過程

立位姿勢を保持するためには、抗重力筋の機能がとても重要です。抗重力筋とは、読んで字のごとく「重力に抗う筋肉」です。具体的には背筋(背中の筋肉)、臀筋(お尻の筋肉)、ハムストリングス(ももの後ろの筋肉)、下腿三頭筋(ふくらはぎの筋肉)などの筋肉のことです。これらの筋肉が脳や脊髄の指令をうけ、重心を支持基底面内に収めています。立位姿勢が崩れ始めると、重心を支持基底面内に収めるためにさまざまな代償的な動きがみられます。
図のように背中が曲がってくると、圧中心点が支持基底面から前へ移動するので、それを防ぐために、腕を後ろに組むことや膝を曲げることにより重心を後方に移動させ、バランスをとります。また、膝を曲げることは重心を低くすることになり、立位姿勢の安定にもつながります。しかしこのような現象は、立位姿勢が崩れてきている過程であるという認識を持つことが大切です。
介護の場面では、排泄前後のズボンの上げ下げや入浴時の臀部の洗体など、さまざまな場面で安定した立位姿勢が必要となります。その際に、しっかり背中と膝を伸ばしてもらうように声かけを行うことがとても大切です。抗重力筋の低下を予防し、日常の介護のなかで安定した立位姿勢の維持につながります。

執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)

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