ワムネット
トップ 介護 医療 障害者福祉 高齢者福祉 児童福祉
連載コラム

介護技術の基本

家庭で介護を行っている方から、「(介護を受ける方に)動いてもらう、または動かすのに一苦労」という声をよく耳にします。特に、体の大きな方を無理に動かそうとすると、自分の体に負担がかかるばかりか、介護を受ける方にも余計な負担を強いることになります。
そうならないためにも、体のメカニズムを理解し、正しい介護技術を身につけたいものです。そこで、本連載では、人の体の動きに合わせた介護技術の基本を紹介します。ぜひ、介護を行う際に参考にしてみて下さい。

第9回 シーティング

シーティングとは

第4回「座位姿勢」で、不良な座位姿勢を続けることの悪影響と、シーティングの必要性について述べました。
シーティングとは、長時間座位を続ける方の心身機能や生活状況を考慮し、良好な座位姿勢が確保できるように、車椅子や椅子などを調整することです。対象者の状況により、さまざまな調整が必要となります。今回は、円背姿勢の方の車椅子に対するシーティングを例として解説します。


円背姿勢の方のシーティング

図1 背骨(脊柱)のカーブ

背骨(脊柱)のカーブ

円背姿勢の方は、背骨の変形や背中の筋肉の筋力低下などにより、図1-Aのような姿勢で座っています。この姿勢は、重力に身を委ねた姿勢です。一見楽なように見えますが、長時間続けると、胸部や腹部が圧迫され、呼吸を妨げたり、食べ物の消化吸収が悪くなったりします。
また、視線を前方にするには、頭部を起こす首の後ろの筋肉を過剰に使わなければなりません。この姿勢を続けることで、背骨はさらに曲がり、前かがみの姿勢になってしまいます。骨盤も倒れているので、お尻が滑った状態になりやすい姿勢です。
背骨の柔軟性がなく、背を伸ばそうとしても伸びない場合を除き、図1-Bの座位姿勢になるようにシーティングを行います。Bの姿勢では、背骨がS字カーブを描き、背骨を支える筋肉の働きが効率よく、疲労が少ない活動的な座位姿勢です。また、重心線が耳の穴や肩、骨盤を通り、手や体を簡単に前方に動かしやすく、手作業や食事などが行いやすくなります。
この姿勢をとりやすくするためには、座面や背もたれの調整が必要となります。座面や背もたれの調節機能が備わった車椅子が理想的ですが、それがない場合も、クッションや市販のベルトを利用することで、ある程度対応できます。
調節のポイントは、@臀部が収まるスペースを十分にとり、A骨盤が後ろに倒れないように、骨盤の上を押えるベルトを締め、B胸を張れるよう背もたれの上の部分を緩めます。最後に、C背中の部分を、背骨のカーブに合わせるように軽く締めます(図2)。アンカーサポート(図2)のあるクッションと合わせると、より効果的です。


図2 シーティング

シーティング

良好な座位姿勢は、対象者の生活を快適で活動性の高いものに変えていきます。しかし、専門的な知識と技術が必要となるので、理学療法士や作業療法士といった専門家に相談しながらすすめましょう。

執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)

過去のコラム一覧