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連載コラム

介護技術の基本

家庭で介護を行っている方から、「(介護を受ける方に)動いてもらう、または動かすのに一苦労」という声をよく耳にします。特に、体の大きな方を無理に動かそうとすると、自分の体に負担がかかるばかりか、介護を受ける方にも余計な負担を強いることになります。
そうならないためにも、体のメカニズムを理解し、正しい介護技術を身につけたいものです。そこで、本連載では、人の体の動きに合わせた介護技術の基本を紹介します。ぜひ、介護を行う際に参考にしてみて下さい。

第6回 立ち上がり動作

立ち上がりは、身近な介助動作

今回は立ち上がり動作について解説します。
ベッドから車椅子への乗り移りやトイレでのズボンの上げ下げ、入浴場面におけるお尻を洗うときなどには、立ち上がり動作が必要になります。介護場面において、立ち上がり動作の介助は頻繁に発生します。
立ち上がり動作をうまく介助するためには、立ち上がり動作に対する十分な理解が大切です。そこで、この動作を5つに分け、支持基底面、重心、圧中心点を使って解説します(図1)。


図 立ち上がり動作

立ち上がり動作

(1) 座位姿勢(第4回「座位姿勢」参照)
(2) 第1回「重力と姿勢」の解説を思い出して下さい。立っているときは、両足で囲まれた支持基底面の中に圧中心点がありました。したがって、立ち上がるためには、圧中心点を足部に乗せる必要があります。できるだけ楽に行うため、最初に膝を曲げ、あるいはお尻を前にずらして、足部を座位姿勢の圧中心点に近づけます。その後、おじぎをしながら重心を前方に移動させ、支持基底面上に圧中心点を乗せます。
(3) 支持基底面内に、圧中心点をとどめた状態でお尻を浮かせます。おじぎをした際に、重心が前方に移動し過ぎて圧中心点が支持基底面からでないようにコントロールする必要があります。
(4) お尻を浮かせ、バランスがとれた状態で上体を起こしながら、足の力を利用して重心を上方に移動させます。
(5) 安定した立位姿勢(第1回「重力と姿勢」参照)


立ち上がりにおいて(4)から(5)の動作では、座っているときよりも支持基底面が小さくなり、その状態で重心を上方に移動させます。転倒につながりやすい動作ですので、注意が必要です。
立ち上がり動作の介助において、一般的に「足を引いておじぎをしながら立って下さい」と声かけするのは、上記の動作を言葉で誘導していることになります。また、足の力が弱い方の場合は、重心を上方に移動させる力を介助する必要があります。
現場では、ベルトやズボンを持って引き上げる場面をよく目にしますが、この際は対象者がおじぎをする動作を妨げない位置に立ち、真上ではなく斜め前方に介助するのがポイントです。

執筆:野尻晋一(介護老人保健施設清雅苑 副施設長、理学療法士)、大久保智明(訪問リハビリテーションセンター清雅苑 主任、理学療法士)

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