テクノロジーと創る明日の介護 〜シルヴァーウィング訪問から見えてきた介護ロボットのいま〜
介護

社会福祉法人シルヴァーウィング 特別養護法人ホーム新とみ

テクノロジーと創る明日の介護 〜シルヴァーウィング訪問から見えてきた介護ロボットのいま〜


施設への介護ロボット導入は国家的プロジェクト


 政府をあげて取り組んでいる「介護離職ゼロ」。その実現に向けては、2020年代初頭までに追加的に必要となる25万人の介護人材の確保に取り組む必要があるとされています。

 そうしたなかで、国においても、都道府県が主体となって実施している介護人材確保対策の後押しを図るとともに、介護の魅力やICT・介護ロボットなどを導入した最新の介護現場をPRするなど、多様な人材の参入促進に取り組んでいます。

 とくに介護ロボットについては、要介護高齢者の増加など介護ニーズが増大していくなかで、高齢者の生活の質の維持・向上や介護者の負担軽減に資する観点からその活用が期待されているところであり、平成29年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、介護分野において講ずべき施策として、「ロボット・センサー等の技術を活用した介護の質・生産性の向上」が明記されたところです。

 これらを踏まえ、厚生労働省と経済産業省は、平成29年10月に「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂し、重点的に開発等の支援を行う分野(@移乗介助、A移動支援、B排泄支援、C見守り・コミュニケーション、D入浴支援、E介護業務支援)の拡充を行っており、平成30年度以降、新たな開発や実用化に向けた取組を進めることとしています。

 さらに、『多様な人材の確保と生産性の向上』を柱のひとつとして掲げた平成30年度介護報酬改定では、介護ロボット技術等を用いた負担軽減への取り組みを評価するものとして、見守り機器の導入により効果的に介護が提供できる場合には、特別養護老人ホーム等の夜勤について夜勤職員配置基準が緩和されるといった改正もなされました。

 このように、少子高齢化や介護人材の確保難といった状況を背景に、国の積極的な支援のもと介護現場におけるロボット導入はいま、大きな注目を集めています。今回、福祉医療機構では、介護ロボット導入について先駆的に取り組まれている社会福祉法人シルヴァーウィングの石川理事長、関口施設長からその実践についてお話を伺うとともに、介護ロボットの活用状況を拝見させていただき、また、実際に体験をさせていただきました。


 お伺いした施設は、平成14年4月1日に東京都中央区で民間として初めて開設された特別養護法人ホーム新とみ。この施設は、8階建ての建物内に特別養護老人ホーム・ショートステイ・デイサービス・訪問介護といったサービスを有しており、1階に事務室・面談室、2階に機能回復室・厨房、3階に食堂、4階に浴室、そして5〜8階が利用者の居室となっています。

 理事長の石川公也さんは、平成25年度から労働負荷の軽減や間接業務の効率化を目的とした介護ロボットの導入とICT活用を積極的に取り組まれており、厚生労働省委託事業『介護ロボットのニーズ・シーズ連携強調協議会設置事業』や『介護ロボットを活用した介護技術開発支援モデル事業』等、数々の事業を受託し、介護ロボットの効率的な活用と普及活動にご尽力されています。

 また、日本国内のみならず、ドイツ、アメリカ、ロシア、中国などの政府関係者が介護ロボットの見学に来日されるなど、世界各国からその取り組みに注目が集まっています。




ロボット導入のきっかけは「自分が入りたい施設」


 石川理事長がまず目指したのは、自分自身が入りたいと思える施設。

 しかし肉体的にきついなどの理由により人材が集まりづらいこの業界で、今後、人だけの介護には限界があると感じたそうです。

 そこで、人とテクノロジーが融合され、さまざまな機器が補完的に人の業務を支える世界を目指して介護ロボットの導入やICTの活用に取り組み始めたとのことでした。

 石川理事長にとっての介護ロボット導入やICT活用の目的は、『在職している職員の労働環境を改善すること』、そして『利用者に対する介護の質や安全性を向上させること』、決して『人の代替』ではないと言います。

 「よく『介護ロボットを導入したら人手が減りますか?』という質問を受けます。現時点では人手は正直減らないと思います。まだまだその段階ではない。一つ一つの単一作業についての軽減は出来るが、日々の一連の業務の流れのなかで人手を減らすというのはまだ難しい。そういう意味ではまだまだ介護ロボットもICTもぶつ切り状態であり、それらの機器の連携が今後の課題と考えている。具体的には「ナースコール」と「見守りセンサー」の連携、「見守りセンサー」情報の「介護記録」への組み込みなどです。最終的には一つのデバイスですべてをつなげることが出来ればいいですね。」と話す石川理事長。

 また、ロボットが得意な業務は繰り返し同じことをやり続けることで、見守り業務などは親和性が高いとのこと。一方で、「ロボットの苦手な業務は、繊細な業務です。食事介助など日によって微妙に対応が変わる。また、人の気持ちを推し量ることも難しい。利用者の発する『大丈夫です』の一言を、そのまま捉えるか、その裏にある気持ちまで推し量れるかは、やはりロボットには困難であり、だからこそ人がその領域に集中する環境を作ることが大事です。」と語ります。



利用者とロボットが闊歩する施設


 新とみでは現在多様な種類の介護ロボットが活躍をしています。

 この施設に導入しているロボットは、移乗介助機器(装着型・非装着型)、移動支援機器、見守り支援機器、コミュニケ−ションロボット、歩行リハビリ支援ロボットに大きく分けられます。

 今回、施設に伺い実際に各フロアで稼働している介護ロボットやICT機器の一部について体験をさせていただきました。


 ●離床アシストベッド(移乗介助機器(非装着型))

 重度要介護者のベッドから車イスへの移乗を1人の介護者だけで持ち上げることなく行える離床アシストベッドです。電動ケアベッドの一部が分離し、そのまま電動リクライニング車いすになるというもの。

 移乗が困難な利用者でも、居室から出て移動することができるため、例えば寝たきりの利用者に外の空気を感じてもらうなど様々な活用が期待できます。しかし、この機器から椅子やトイレへの移乗時にはフットレストが上がらないなどの問題も見えてきたといいます。





●介護用ロボットスーツ(移乗介助機器(装着型))

 介護用動作補助装置。ベッドから車椅子、また浴槽からベッド等の移乗作業時の上げ下げ動作をモーターや空気圧で補助するなどして、介護職員の腰への負担を軽減させる機器です。装着に若干時間がかかってしまう、移乗以外の業務時には装置の重さそのものがネックとなってしまうなどの課題もありますが、徐々に改良が進んでいるようで、一度使うと離せなくなる職員もいるとのことです。


●歩行アシスト(歩行リハビリ支援ロボット)

 歩行をサポートする歩行訓練機器。歩行時の股関節の動きを左右のモーターに内蔵された角度センサーで検知し、利用者の歩行にあわせてモーターが駆動。股関節の屈曲による下肢の振り出しの誘導と伸展による下肢の蹴り出しの誘導を行うことで機能訓練を支援するリハビリロボットです。

 これを装着することで杖が必要だった利用者が杖なしで歩けるようになったケースもあったとのことでした。





●歩行リハビリテーション支援ツール(歩行リハビリ支援ロボット)

 脳血管障害による片麻痺者歩行訓練ロボットです。足圧センサー情報をモニターから確認できるため、歩行が不安定な利用者の機能訓練として活用できます。「みぎ、ひだり」の声かけとともにモニターに表示される足の位置をみながら、利用者が自分で機能訓練できるロボットです。職員が支え続ける必要がないため職員の身体的な負担軽減にもつながります。

 ある程度歩行可能な利用者が対象のようですが、「歩行アシスト」とセットで使うことでより効率的な機能訓練が期待されるとのことでした。


●免荷式リフト(歩行リハビリ支援ロボット)

 リフト機能で安全に立ち上がり、免荷機能で負担を軽減して歩行できます。

「歩行リハビリテーション支援ツール」は、ある程度歩行ができる利用者が対象ですが、こちらは立ち上がりが困難な利用者の歩行訓練として活用できるものだそうです。座位からスタートし、またしっかりとベルトで腰を固定しているため、転倒するリスクを軽減し、より安全性の高い歩行訓練ロボットといえます。





●日常生活活動を向上させる生活支援機器(コミュニケ−ションロボット)

 新とみで導入しているコミュニケーションロボットには、言語を発することで機能訓練・コミュニケーション支援として機能するPepperなどの製品と、非言語型でおもに認知症セラピー支援としての機能するAIBOなどがあります。

 前者は話しかけられるのを待つだけでなく、人の声や姿に反応して積極的に話しかけることで会話のきっかけづくりなどを促すことができます。写真のように、レクレーション時には司会進行まで担っていました。 後者は利用者から呼びかけへの反応や、撫でたり抱いたりすることによって、環境変化に敏感な認知症高齢者にとって精神的な安定をもたらしているようです。特にあざらし型の製品は利用者に人気があるようでした。





●マット式見守りシステム(見守り支援機器)

 マットレスの下に敷くだけで睡眠日誌として睡眠・覚醒・離床の表示が可能な機器です。このため、睡眠状態を把握できるため、適切な働きかけができ、効果検証が可能な機器です。実際に、利用者の状態変化をPC上で分析することで利用者の特徴を把握し、夜間巡回業務にメリハリをつけることができたことからスタッフの負担感軽減につながっているとのことでした。





 新とみではこのほか、利用者の頭上に設置した赤外線センサ−によって利用者の姿勢の変化だけでなく、ふるえやもだえといった小さな動きも検出可能なベッド見守りシステムや、利用者を車いすに乗せたまま階段の昇降ができるように設計された電動階段昇降機、利用者の排尿予測により適切なトイレ誘導を促すことで自立支援につなげる排泄予測デバイスなども導入しており、日々その使用結果について、振り返りや効果測定に取り組まれていました。



ロボット導入のキーマンは技術系職員


 介護ロボットやICT機器の導入から活用までの状況を伺いました。やはり課題はこうした新たな取組をどのようにして職員に理解し、納得して活用につなげてもらうか。石川理事長はポイントを2つあげてこれまでの経緯を説明してくれました。


【ロボット導入のポイント】

 1.施設長をトップとしたロボット委員会を立ち上げ、周知啓発に取り組み続けたこと。

 2.技術系職員を数名置いて現場職員とメーカー業者との技術的な橋渡し役に徹してもらったこと。


 やはり検討段階では石川理事長の想いと現場職員との間で大きな隔たりがあったとのことです。当初は、職員の中には「なんでこんなことを?」という意識があったと関口施設長はいいます。

 そこで、ロボット委員会を立ち上げ、関口施設長を中心として担当スタッフが幾度も検討を行うとともに、導入の目的を現場職員に伝える活動を行ってきたとのことです。

 「職員には『これで人手を減らす』とは言っていません。それが全面に出ると介護ロボットの導入が妨げられることになりかねません。」と石川理事長。「介護現場で解決しなければならない問題は労働環境です。人を介護するという仕事である以上、仕方ない部分もあるが、まずはそうした職員の働きやすい環境を作っていくことが最優先です。」

 例えば、利用者の移乗などの動作をサポートする介護用ロボットスーツは機器が筋肉の役割を担うことで、中腰で行う移乗支援時に活躍するロボットです。ある職員は業務中に肩を痛めたが、腰まで痛めてしまうと仕事ができないという不安から、介護用ロボットスーツを積極的に使い始めたといいます。こうした職員は特にベテラン職員に多かったとのことです。

 また、地道な啓発活動によって、『いずれはこういう時代が必ず来るのだから、今のうちに対応しておくことがいいのではないか』という意識に現場職員も少しずつ変化してきたとのことです。

 さらに導入に大きな役割を果たしたのが技術系職員の存在。石川理事長が技術系職員の採用を検討していた頃、ちょうど世間では半導体企業の不調などによって大手企業出身の技術職を獲得しやすい時期だったことも功を奏し、数名の優秀な技術者を採用することができたそうです。

 ロボット導入においては、彼ら技術系職員がロボットを開発するメーカー側と実際に現場でロボットを使用する職員側の橋渡し役を行ってくれたそうです。「メーカーさんは専門的な用語ばかりでまったく意思疎通ができなかったんです。こちらの要望をメーカー側に伝えるために技術系職員は大きな役割を果たしてくれました。」と関口施設長。

 また、彼らはロボット導入からその効果測定までの作業工程を作るのが得意だったともいいます。新とみではさまざまな実証実験やモデル事業として介護ロボットを導入していることから、その使用結果について報告書を作成することが多く、技術系職員はそういう点でも貢献をしてくれたといいます。



人とロボットの最適な組み合わせでの協働を目指す


 石川理事長は介護ロボットやICT機器の導入のメリット・デメリットについてこう述べています。

 「正直、導入によって劇的な効果が出ているかといえばまだそうでもない。しかし、介護職員の多くは腰痛に悩まされ、また、頻繁な夜間のラウンドなど疲労のたまる業務も多い。介護用ロボットスーツなどの移乗介助機器やマット式見守りシステムなどによって職員の負担感軽減には寄与していると思うし、結果として人材定着という点でも一定の貢献がなされていると思う。また、排尿予測の機器によっておむつからポータブルトイレに改善できた利用者も出てきたことは、介護の質の向上という意味でも素晴らしいことだと思います。意外に効果が大きかったのがコミュニケーションロボット。導入当初は『こんな人形なんてすぐに飽きられるんじゃないか』と思っていたが、認知症の利用者があざらし型ロボットとのコミュニケーションを通して落ち着きを取り戻すなど、メンタルケアに大きな効果を示しています。利用者が毎日飽きることなくロボットとふれあい、穏やかな時間を過ごすことで、職員はほかの業務に対応することもできるなど、介護の質と職員の労働環境整備の両面での効果が生じていると思います。」と語ります。

 新とみでは本物の犬を使ったセラピードッグも取り入れていますが、コミュニケーションロボットはそれと同じような効果があると石川理事長はいいます。「認知症の利用者でも介護ロボットが生きていないことは理解しているんです。そのうえで使い分けているようです。特にあざらし型ロボットは言葉を発するわけではないが、鳴き声と微妙な瞬きが利用者のこころをつかんでいるようです。」と、関口施設長もコミュニケーションロボットの効果には驚きを感じているようでした。

 一方で、課題も多く残されています。

 まずは、購入コストが高いこと。まだまだ投資に見合うほどかと言われれば、残念ながら必ずしもそうとは言い切れない状況だそうです。新とみに導入しているロボットは、実証実験への参加や共同募金会などの支援によって全額負担ではないものがほとんどですが、なかなか全額自費では厳しいとのことでした。

 また、現在メーカーにおいて開発されている技術と実際の介護現場のニーズとの間にギャップが生じてることも問題といいます。介護現場に対してあまり知見のない企業が開発した製品で導入後にまったく使われなくなった例もあるとのことでした。新とみでは技術系職員の採用によって施設とメーカーがコミュニケーションを取りあい、ギャップの解消がスムーズに行われましたが、事前に調整をしっかりとしないと無駄な買い物に終わる危険性もあるということです。さらに、時にやむを得ず故障や誤作動が発生するという問題もまだまだ全て解決しているわけではありません。

 また、介護職員へ細かな機器の使い方を周知させることも、なかなか一筋縄ではいかないのも事実です。


 国が期待する介護ロボット導入やICT活用はまだまだ始まったばかりであり、その普及には多くの課題が残されています。しかし一方で、今回の現場訪問を通して、将来的には、人と介護ロボットの協働の可能性がしっかりと見えたように感じました。

 課題を一つずつクリアしていくことで、人手を基本としながらも、ロボットの優位性を見つけ、人とロボットの最適な組み合わせでの協働を目指していくことが、『利用者の安全性の確保、機能訓練効果の向上、ADL改善、QOL向上』と、『介護者の介護負荷の軽減、介護作業効率化』につながるものと信じて、石川理事長の取組みは今後も続くでしょう。