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ダブルケアラーの支援

ダブルケアラーの支援
T ダブルケアとは

近年、平均初婚年齢・平均初産年齢の上昇が進み、新たな社会的リスクとして「ダブルケア」が注目されています。「ダブルケア」とは、狭義では育児と介護が同時期に発生する状態を指し、広義では家族や親族等との密接な関係における複数のケア関係とそこにおける複合的課題を指すと定義されており、2012年に横浜国立大学の相馬直子教授と英国ブリストル大学の山下順子上級講師が共同研究を進める中で生まれた造語です。少子化と高齢化が同時進行する超少子高齢社会の我が国において、ダブルケアは今後大きな社会問題、政策課題になると考えられています。

厚生労働省の「平成27年人口動態統計」によると、日本人の平均初婚年齢について1980(昭和55)年は夫27.8歳、妻25.2歳でしたが、2013(平成25)年には夫30.9歳、妻29.3歳と、ほぼ30年間で夫は約3歳、妻は約4歳、上昇しています。また、出生時の母親平均年齢は、1980年は第1子26.4歳、第2子28.7歳、第3子30.6歳でしたが、2013年においては第1子30.4歳、第2子32.3歳、第3子33.4歳と上昇しています。子育て期に入る年齢が上昇することにより、子育てと高齢者の介護が同時に進行する可能性が高まっています。これまで、子育てと介護の同時進行は主に女性を担い手として行われてきましたが、近年は女性の社会進出、晩婚化、晩産化、加えて兄弟数の減少、地域のコミュニケーションの希薄化、高齢化による要介護高齢者の増加といった状況が進行しています。複数の課題を抱える世帯や個人は、縦割りの福祉制度に問題を当てはめて解決することができず、適切な支援を受けられないまま負担を抱えています。

U ダブルケアの現状

内閣府男女共同参画局による「平成27年度育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」(以下、内閣府調査)にて、就業構造基本調査をもとに算出した推計では、未就学児の育児と親等への日常的な身体的ケアを同時に行っているダブルケアを行う者(ダブルケアラー)は、全国で25.3万人。このうち男性8.5万人、女性16.8万人と女性が男性の約2倍です。年齢階層別の割合では40〜44歳が最も多く27.1%。平均年齢は男女とも40歳前後(男性41.16歳、女性38.87歳)と、30〜40代が全年齢層の約8割を占めています。働き盛り世代が育児と介護を両立しています。また、ダブルケアを行う者の15歳以上人口に占める割合は、0.2%。ダブルケアを行う者の育児者に占める割合は2.5%、介護者に占める割合は4.5%となっています。

調査内容の詳細はこちらをご参照ください。

【ダブルケアを行う者の割合】

資料:内閣府

上記の内閣府調査では、日常生活の着替えやトイレ、食事の手助けといった身体的ケアのみを介護行為としていますが、前出の相馬氏・山下氏は、育児と介護の定義を幅広くとらえた実態調査を実施しました(2018〔平成30〕年調査対象17,049名)。その結果、大学生以下の子どもを持つ30歳から55歳の男女のうち、現在行っている者と過去に経験したことがある者の割合を合わせると29.1%、数年先にダブルケアに直面すると回答した割合を含めると36.3%となり、ダブルケアは身近な問題として迫っていることを指摘しています。

相馬氏・山下氏による調査内容の詳細(ソニー生命「ダブルケアに関する調査」2018年(3回目調査)。以下、ソニー生命調査)はこちらをご参照ください。

V ダブルケア当事者(ダブルケアラー)の負担感や仕事への影響

前述した内閣府調査において、ダブルケアラーが育児や介護にどの程度負担を感じているかをみると、育児を負担に感じている者は男性44.5%、女性51.3%と男女とも約半数に及び、介護を負担に感じている者は、男性66.9%、女性67.1%と6割を超えています。ダブルケアを行う者が介護している対象者の状況をみると、要介護認定状況は、男女ともに被介護者は「要支援」もしくは「要介護」認定を受けている者が8割を占めています。なお、「負担を感じている」とは、以下の図の「非常に感じる」と「やや感じる」をあわせたものとなっています。

また、負担感の内容をみてみると、子育ての負担感について男性では「肉体的負担感」の50.1%が最も高く、「経済的負担感」が49.0%、「社会活動の制約」が47.6%と続きました。女性においても「肉体的負担感」が最も高い61.5%、次いで「社会活動の制約」が53.2%、「精神的負担感(報われない気がする、ストレスや孤独を感じる等)」が52.8%となっています。一方、介護の負担感については、男女ともに最も負担を感じているのは「精神的負担感」。男性、女性ともに約6割を占めています。

負担感の内容に関して、ソニー生命調査では、「精神的にしんどい」が最も多く46.8%、次いで「体力的にしんどい」が43.2%、「経済的負担」が33.5%、「子供の世話を十分にできない」が30.7%、「親/義理の親の世話を十分にできない」が29.0%で続きました。「配偶者(パートナー)の理解不足」(男性5.6%、女性15.0%)、「兄弟や親戚間での認識のズレ」(男性9.6%、女性19.4%)などは女性の方が高く、配偶者の理解不足や家族、親族間の関わりが女性の負担となっていることがうかがえます。

さらに、仕事への影響について、内閣府調査によれば、ダブルケアを行う女性の半数は有業者であり、「仕事が主」であるものが約半数。ダブルケアを行う男性の9割が「仕事が主」である有業者となっています。

ダブルケアに直面する前に就業していた者のうち、ダブルケアに直面したことにより「業務量や労働時間を変えなくてすんだ」者は、男性で約半数であるのに対し、女性では約3割に留まっています。「業務量や労働時間を減らした」者は、男性で約2割、女性では4割となっており、そのうち離職して無職になった者は男性で2.6%、女性で17.5%となっています。ダブルケアを行うことになった場合の就業への影響は女性で大きくなっていることがわかります。ダブルケアと仕事の両立で苦労した点の最多は「ダブルケア問題が認知されていない」ことです。ダブルケアラーが孤立し精神的、肉体的、経済的な負担を感じていることがわかります。

ダブルケアに直面して業務量や労働時間を変えなくてすんだ理由として多かったのは、男性では、「家族の支援が得られた(47.3%)」「病院、老人福祉施設等が利用できた(31.6%)」「育児サービスが利用できた(23.8%)」。女性では「育児サービスが利用できた(38.2%)」「病院、老人福祉施設等が利用できた(29.2%)」「両立可能な勤務条件で働くことができた(28.1%)」。「家族の十分な支援が得られた」「仕事を優先することへの周囲の理解があった」者は男性よりも女性が低くなっています。

【ダブルケアに直面して業務量や労働時間を変えなくてすんだ理由】

資料:内閣府

近年は介護保険制度の導入や保育サービスの拡大が図られ、育児・介護の社会化が進められてきました。職場においては「仕事と介護」「仕事と子育て」の両立のために、柔軟な働き方が選択できやすい環境が整備されつつありますが、年間約95,200人(2021年。厚生労働省の雇用動向調査による)と後を絶たない介護離職者の要因には、ダブルケアによる負担も推測されます。介護離職防止のためにも地域や職場において子育て・介護・仕事の包括的な両立支援整備が急がれます。

W ダブルケアラーの声・ダブルケアの事例

ここでは、筆者(川上)がヒアリングした、ダブルケアラーの声やダブルケアの事例を紹介します。

■ダブルケアラーの声

  • 介護も育児もどちらも中途半端になってしまい精神的につらい
  • 周囲に介護をしている人がいないので介護の話をしにくいし、大変さを理解してもらえない
  • 介護も育児もどちらも自分がやるべきものと思っていて弱音は人に話せない
  • 子どもを介護の犠牲にしたくない。元気な私が仕事を辞めるしかないのかと悩んでいる

■ダブルケアの事例

大学に勤務する40代のAさん(女性)。70代の義父が突然入院し、要介護状態に。介護に関する情報や制度がわからない中、在宅介護か施設入所かと選択を迫られた。義父の希望を尊重して、在宅介護の準備に奔走。働きながら義父の自宅に足を運んだ。

義父の介護中に、実母の様子がおかしいと実父から声がかかり、実母はアルツハイマー型認知症と診断された。実母においても、日々の生活に見守りや支援が必要となり、Aさんは仕事を終えた後、両親が住む実家にも立ち寄り、両親の支援も行うこととなった。

その間、思春期の長男が不登校となり、ひきこもった。長男に必要な治療や関わり方を模索しながら、義父の介護、実母の介護、さらには愛犬のケアも並行して行った。妻(配偶者)として、娘として、母として、そして働く人として、介護と子育てにおける複数の役割を抱えながらも、「家族は大切。でも自分もつらい」という心の声は吐き出せず、無我夢中でケアを続けた。

Aさんは家族を想い、同時期に3人+1匹のケアを、働きながら懸命に行いました。上記の事例からもわかるように、一つの家庭内で複数のケアや複雑なニーズが生じ、介護と子育てという異なるニーズを同時に満たすことを要求されています。親として、子として、そして働く人としての役割を持つダブルケアラーは、家庭や職場において相当の負担を抱えています。

X ダブルケアラーのための支援について
(1)前述の調査結果から

内閣府調査によれば、ダブルケアを行う者(ダブルケアラー)が行政に充実してほしいと思う支援策は、男性では「保育施設の量的拡充(22.8%)」「育児・介護の費用負担の軽減(19.2%)」「介護保険が利用できる介護サービスの量的拡充(16.7%)」。女性では「育児・介護の費用負担の軽減(26.4%)」、「保育施設の量的拡充(22.6%)」「介護保険が利用できる介護サービスの量的拡充(12.3%)」となっています。今後とも、介護保険制度や児童福祉制度などの充実が、ダブルケアラーへの支援に結びついていきます。また、ダブルケケアを行う者が勤め先に充実してほしいと思う支援策は、男女ともに「子育てのために一定期間休める仕組み(男性18.3%)(女性18.4%)」が最も多く、次いで「介護のために一定期間休める仕組み(男性12%)(女性9.8%)」、他には、子育てや介護のために一日単位で休める仕組み、所定労働日数を短くする仕組み、柔軟な労働時間制(フレックスタイム制等)となっています。

一方、ソニー生命調査では、「介護施設の入所基準をダブルケア世帯に配慮した基準に」は、ダブルケアラーの9割が必要と回答。「ダブルケア当事者がつながる場を、地域でつくることが必要だ」には、7割強が必要と回答しています。

(2)職場での取り組み

職場においては「育児・介護休業法」(正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)により、家族介護や育児を行うものを支援する育児・介護休業制度が設けられています。出産、育児、介護等による労働者の離職を防ぎ、男女ともに仕事と育児、仕事と介護を両立できることを目的としています。申請により休業、休暇や労働時間の短縮、テレワークなどを活用し、ワークライフバランス(仕事と生活の調和)を目指した働き方を工夫することができます。職場の特性にあわせた仕事と介護の両立支援整備が進み、育児に続き介護についても声をあげやすい職場風土の醸成が図られています。しかし、厚生労働省の雇用動向調査によると、介護離職者数は近年9〜10万人で推移し減少する傾向はみられず、ダブルケアラーや、前述した事例でも直面した多重介護(1人で複数人を介護すること)の視点もふまえた両立支援が必要と思われます。

厚生労働省では、「育児・介護休業等に関する規則の規定例」を公表しています。こちらをご参照ください。

(3)行政(主として国)や専門職による取り組み

2016(平成28)年、厚生労働省でも「ダブルケア」の問題に対し、どのような支援が必要かをたずねた調査を行いました。それによると、介護と育児を合わせて相談できる窓口や、総合的な支援サービスを受けられる場所を求める回答が多くみられました。子育て、高齢者各分野間の相談機関で連携を密にとることや、各分野の相談機関を同じ場所に集めること、分野の横断的かつ包括的な相談・支援体制を整備する等の必要性が生じています。

そこで、2016(平成28)年6月に閣議決定された「ニッポン一億総活躍プラン」て゛は、育児、介護、障害、貧困、さらには育児と介護に同時に直面する家庭「ダブルケア」なと゛、世帯全体の複合化・複雑化した課題を受けとめるための、市町村における総合的な相談体制作りを進めることとし、2020(令和2)年から2025(令和7)年を目途に全国展開を図っています。具体的には、2017(平成29)年と2020(令和2)年の社会福祉法の改正により、「包括的な支援体制の整備」を市町村の努力義務とし、「重層的支援体制整備事業」を市町村の任意事業として施行しています。関連記事として「地域包括ケアシステム・地域共生社会と重層的支援体制整備事業(後半)」もご参照ください。また近年は、行政や専門職の支援の在り方も変化しています。家族介護者を「要介護者の介護力」として支援するだけでなく、「家族介護者の生活・人生」の質の向上に対しても支援する視点をもち、要介護者と共に家族介護者にも同等に相談支援の対象として関わり、共に自分らしい人生や安心した生活を送れるよう、相談支援活動に取り組むことを、目指す方向として示しています。関連資料として、厚生労働省が2018(平成30)年に作成した「市町村・地域包括支援センターによる家族支援マニュアル〜介護者本人の人生の支援〜」を参考にしてください。

(4)地域での取り組み

子育てと介護を同時に抱えているダブルケアラーを支援する「一般社団法人ダブルケアサポート横浜」は、孤立しがちなダブルケア当事者に寄り添う地域づくりを目的とし、2016(平成28)年より活動を開始。ダブルケア座談会や講演会、役立つ冊子の発行など、ニーズを把握しながら当事者の居場所作りや相談機会の確保を行っています。この法人の活動のように、カフェやコミュニティなど各地で任意団体によるダブルケアラー支援の動きも生まれ、社会福祉協議会や地域包括支援センターと協力・共催している地域もあります。

「一般社団法人日本ケアラー連盟」は、高齢者の介護に限らず、全ての世代のケアラーがケアにより心身の健康をそこねたり、学業や仕事に制約を受けたり、貧困や社会的孤立に追い込まれることなく、個人の尊厳が守られ、安定した生活を送り、将来への希望を持てるよう、その人生を地域や社会全体で支える仕組みづくりを目指し活動しています。

行政では、大阪府堺市が2016(平成28)年10月に、いち早く区役所内の「基幹型包括支援センター」に育児と介護を一本化した「ダブルケア相談窓口」を設けました。ダブルケアを行っている場合の、認定こども園や保育所などの利用への配慮や、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の入所基準の緩和なども実施しています。

また、神奈川県では、2021(令和3)年「神奈川県ケアラー実態調査」を実施し、ダブルケアを含むケアラーの実態を公表。「かながわケアラー支援ポータルサイト」を立ち上げ、LINEなどで気軽に相談できる窓口を設けています。岩手県では、2020(令和2)年に「ダブルケアガイドブック」を発行しています。

私たちは人生においてケアする人・される人を繰り返し、さまざまなケアが重なる場面にも直面します。今後直面する社会は、介護の在り方、介護者支援の在り方、地域や職場の在り方も、既存制度が前提としてきた社会とは異なる世界でしょう。

そのような中で、ダブルケアに対する備えとして、

  • 地域や職場で利用できる制度、相談場所を確認しておく。
  • 経済的な備えとしてライフプラン(人生設計)に子育てと介護、双方にかかる費用の意識を持つ。
  • 親の生活状況を把握しておく。
  • 日頃から周囲と支え合い良いコミュニケーションをとる。

以上のような心構えを持つことが大切と考えます。筆者(川上)がこれまで関わってきたダブルケアラーの中には、以下のような方々がいます。

  • 40代の夫の介護と子育てを一人で抱えるのではなく、職場や地域にオープンにすることで、子どもの送迎や見守りなどを協力してくれる新たなコミュニティが生まれた方。
  • 夫の介護に、子育て中の幼い子どもが関心を持ち、できることから協力してくれるようになった方。
  • 子育てと並行して、両親の重度の介護を経験。自身も介護職であることから、公私で医療・介護連携の必要性に目覚め、その役割を担うケアマネジャーになるための試験を受験し見事合格した方。

ダブルケアには負担がある一方、何ら得られるものもあるかと思います。超少子高齢社会だからこそ、ケアラー経験も活かせる豊かな社会を目指したいものです。

執筆者
石橋亮一介護福祉士・社会福祉士・介護支援専門員
川上由里子株式会社NSFエンゲージメント 介護コンサルタント
看護師・介護支援専門員・産業カウンセラー・福祉住環境コーディネーター2級