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障害者本人の高齢化や、いわゆる「親亡き後」への対応について障害者本人の高齢化や、いわゆる「親亡き後」への対応について
T 親亡き後問題と障害者本人の高齢化
(1)親亡き後問題
多くの障害者の親たちは、自分が亡くなった後に、実際に生じる子の介護や生活上等様々な問題を「誰が支えてくれるのか」という不安を有しています。これが、いわゆる「親亡き後」問題です。同時に、この「親亡き後」問題は親の死だけではなく、親が高齢化し子である障害者への適切な支援が行えない状況、いわゆる「老障介護」と言われる状況に陥った場合も含んだものです。 1960(昭和35)年の精神薄弱者福祉法以降、知的障害者の支援は施設入所施策を中心に進められてきましたが、その後進展した在宅福祉政策は、社会によって障害者の地域生活を支えるには不十分で、より家庭の支援機能に依拠せざるを得ないものとなり、かえって親の不安を顕在化させたという指摘もあります(出典:大野安彦「知的障害者に課される自立の枠組み」、2019(平成31)年)。 障害者総合支援法(旧障害者自立支援法)施行などによって、障害のある人が地域で暮らし続けるための施策が整えられつつあります。例えば、2021(令和3)年グループホームの利用者数は14万1,810人と10年前の3.2倍になっています(出典:厚生労働省「社会保障審議会障害者部会第113回資料」)。しかし、65歳未満の療育手帳所持者で同居家族がいるとした者のうち、約75%が親と同居しています。また、65歳未満の精神障害者保健福祉手帳所持者でも、同居家族がいるとした者のうち、約50%が親と同居しています(出典:平成30年度版厚生労働白書本編図表バックデータ)。このように、障害者の生活は親の支援機能に依拠しながら維持されている状況であり、その親が高齢化することで、今後の子の生活に不安を感じる「親亡き後」問題に対する対応は大きな課題となっているのです。 (2)高齢化(加齢化)問題(知的障害者)
2016(平成28)年における在宅の知的障害者は 96万2千人でした。その年齢階層別の内訳をみると、18歳未満 21万4千人(22.2%)、18歳以上65歳未満58万人(60.3%)、65歳以上14万9千人(15.5%)となっています。知的障害者の推移をみると、2011(平成23)年と比較して約34万人増加していますが、この要因として国は、以前に比べ、知的障害に対する認知度が高くなり、療育手帳取得者の増加が要因の一つと考えられるとしています。(出典:平成30年度版厚生労働白書参考資料) しかし、療育手帳を所持する65歳以上の高齢者を見ると、2011(平成23)年には5万8千人であったものが、14万9千人と約3倍となっています。知的障害者の高齢化の進展は、本人の健康状態に係る課題が増加するというだけでなく、障害者支援施設などの事業所の運営にも影響を与えています。 例えば、2010(平成22)年に大分県の障害者施設を調査した研究では、高齢化と老化への対応の問題について聞いた調査で、何らかの対応が必要(46%)、切迫した課題(27%)と全体の73%が対応の必要を回答したと報告されています(出典:足立圭司、「施設入所知的障害者の高齢化の研究―大分県内の知的障害者施設アンケート調査―」、2011(平成23)年)。 一方、障害者入所支援を行っているA園での研究では、利用者の平均年齢が、2020(令和2)年4月現在で 67.6 歳と、この10年で約8歳延びており、認知症に罹患する利用者も増えているとの報告があります。「認知症に罹患した重度知的障害者のなかには、身体機能の低下や意欲の低下、具体的には、歩行を嫌がったり、以前は訪問者がくると自ら積極的に近寄り、会話を楽しんでいたが、そういった行動が見られなくなったりしている人」いるなどの事例が報告されています(出典:福島ら「認知症を発症した知的障害者に有効な支援とは―ライフストーリーワークの実践をとおして―」、2020(令和2)年) そもそも、知的障害者は、一般の高齢者より加齢化が早く進行するといわれています。40代、50代くらいから老化の兆候(生活リズムの変化、体力の減退など)が徐々に現れるほか、その後は聴覚や視覚の低下、認知症症状が現れる者もいます。また、ダウン症者については、加齢が急速に進み退行現象が生じることが論じられています。 このような、高齢化問題は、障害者支援施設の運営にも影響を与えるものとなり得ます。例えば、障害者支援施設では、利用者の高齢化に伴い通院同行の件数が増加することで、本来の事業運営に支障を生じている例などがあります。また、生活介護や就労継続支援事業所では、日中、利用者が行う授産作業や創作活動の支援を行っていますが、利用者の高齢化(加齢化)に伴い、当該利用者が活動に参加できなくなっただけではなく、利用者に対する排せつや食事等個別の日常生活での介助の必要性が高まり、授産作業や創作活動に係る支援が手薄になっている例なども生じています。 (3)高齢化問題と親亡き後問題
このように、親亡き後問題と高齢化問題が連鎖することによって、課題が深刻化する例もあります。障害者の加齢の進行と親の高齢化に伴い、家庭内の「老障」介護が「まさに「老老」介護の状況を呈するのです。そうしたなか、家庭での介護等を前提としたこれまでの支援から、緊急時や家庭での介護が困難になった場合の相談支援体制、障害者の権利擁護機能の充実が求められているといえます。 U 地域生活支援拠点の整備などによる、「親亡き後」問題と障害者本人の高齢化への対応
(1)地域生活支援拠点事業の経過
国は障害者の高齢化、重度化や「親亡き後」を見据え、障害児・障害者の地域生活支援を推進する観点から、障害児・障害者が住み慣れた地域で安心して暮らしていけるよう様々な支援を切れ目なく提供できる仕組みを構築するため、地域支援のための拠点の整備や、地域の事業者が機能を分担して面的な支援を行う体制等の整備を積極的に推進していくことを目的にモデル事業を実施し、障害者の生活を地域全体で支えるサービス提供体制の構築を図ることを目的に、2015(平成27)年「地域生活支援拠点等整備推進モデル事業」を実施しました。 その結果を踏まえ、2017(平成29)年に「地域生活支援拠点等の整備促進について」を発出、全国での地域生活支援拠点の整備を進めています。 (2)地域生活支援拠点の内容
1. 事業の目的 この事業は、障害者等の重度化・高齢化や「親亡き後」に備えるとともに、地域移行を進めるため、重度障害にも対応できる専門性を有し、地域生活において、障害者等やその家族の緊急事態に対応を図るもので、具体的に2つの目的を持ちます。 @ 地域における生活の安心感を担保する機能を備えるため、緊急時の迅速・確実な相談支援の実施・短期入所等の活用 A 障害者等の地域での生活を支援するため、体験の機会の提供を通じて、施設や親元からグループホーム、一人暮らし等への生活の場の移行をしやすくする支援を提供する体制を整備 2. 地域生活支援拠点等の必要な5つの機能 地域生活支援拠点等については、前述した(1)(2)の役割を果たすため、居住支援のための5つの機能(相談、緊急時の受け入れ・対応、体験の機会・場、専門的人材の確保・養成、地域の体制づくり)を備えることとしています。 @ 相談 基幹相談支援センター、委託相談支援事業、特定相談支援事業とともに地域定着支援を活用してコーディネーターを配置し、緊急時の支援が見込めない世帯を事前に把握・登録した上で、常時の連絡体制を確保し、障害の特性に起因して生じた緊急の事態等に必要なサービスのコーディネートや相談その他必要な支援を行う機能 A 緊急時の受け入れ・対応(地域生活における安心の確保) 短期入所等を活用した常時の緊急受入体制等を確保した上で、介護者の急病や状態変化の受け入れや医療機関への連絡等の必要な対応(平日夜間や休日も含む)を行う機能 B 体験の機会・場(地域生活への移行・継続の支援) 地域移行支援や親元からの自立等に当たって、共同生活援助等の障害福祉サービスの利用や一人暮らしの体験の機会・場を提供する機能 C 専門的人材の確保・養成 医療的ケアが必要な者や行動障害を有する者、高齢化に伴い重度化した障害者等に対して、専門的な対応を行うことができる体制の確保や人材の養成を行う機能 D 地域の体制づくり 基幹相談支援センターや相談支援事業所等に配置された拠点コーディネーターが中心となって、地域の様々なニーズに対応できるサービス提供体制の確保や、地域の社会資源の連携体制の構築等を行う機能 3. 整備手法 本事業の拠点整備には次の2つの手法が挙げられます。 @ 拠点等の機能強化を図るため、5つの機能を集約し、グループホームや障害者支援等に付加した「多機能拠点整備型」 A 地域における複数の機関が分担して機能を担う体制の「面的整備型」 これらにとらわれず、地域の実情に応じた整備を行っても構わない(例:「多機能拠点整備型」+「面的整備型」) (4)障害福祉サービスの報酬見直し
地域生活支援拠点の整備は、2022(令和4)年度末までに約70%の自治体で整備される予定です。今後、整備予定のない市町村への積極的な取り組みが期待されます。加えて、こうした拠点を整備しただけではなく、「親亡き後」の支援や、障害者の高齢化に対応しうる具体的な制度とならなければ、障害者・家族の安心感は得られないものと考えます。 今後、総合支援法に規定する協議会(自立支援協議会等)を活用し、障害者や家族、相談支援事業者、障害福祉サービス事業者、関係機関及び市民等との率直な協議を通して、「親亡き後」の支援や、障害者の高齢化に係る意見交換や地域連携、よりニーズの対応した事業展開を図ることが求められます。加えて、こうした取り組みを通して、地域生活支援拠点が、ニーズに即応したものとなっているかの評価検証などに取り組み、当事者に対し安心感を与えることのできる実効性ある地域生活支援創出に取り組む必要があるものと考えます。
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