長年作り続けた焼き肉のたれの作り方を教える仁川さん=3月1日、福井県越前市府中1丁目のLAMP
福井県大野市内で焼き肉店を長年営みながら4人の子どもを育て上げ、現在は越前市内の老人ホームで暮らす高齢の女性が3月1日、施設近くのコワーキングスペース(CS)で若者らに“秘伝”の焼き肉のたれの作り方を教えた。最近は体調を崩していたが、当日が近づくと自ら買い出しするほど元気を回復。施設外の人との交流を通じて「10歳若返った」と明るい笑顔を見せていた。
女性は大野市出身の仁川菊江さん(89)。30歳のころに同市内で数人で満員になる焼き肉店を始め、最後は席数約100人の大型店にまで成長させた。店は子どもたちの成人とともに、約40年前に閉じた。腰の持病が悪化して2012年からは越前市の老人ホーム「サンライフ小野谷」で暮らしている。
まちなかににぎわいの場を作ろうと、多様な職種の人たちがオフィスを共有するCS「LAMP」をオープンしたのは昨年10月。徒歩数分にあるサンライフ小野谷のスタッフとの間でお年寄りが輝く機会をつくろうと交流が始まり、昨年の施設の秋祭りで手作りの焼き鳥のたれを披露し活躍した仁川さんを講師として招くことになった。
この日はCSを利用する30〜40代を中心に12人が参加。仁川さんは「目分量でしか作れない」と照れながらも、大きなボールでしょうゆ、酒、鶏がらスープなどを手際よく混ぜ込んだ。特製たれで漬け込んだ焼き肉を試食した参加者は「おいしい、おいしい」と目を丸くしていた。
焼き肉の煙で白くなった会場で「懐かしい香りがする」と目を細めた仁川さん。「みんなに喜んでもらえて満足。自分が長年かけて身に付けたことを“置いていけて”うれしい限り」と声を弾ませた。笑顔で見守った三女も「こんなに大きな声を出している母は久しぶり」と話した。
サンライフ小野谷の谷口和正事務長は「施設内でもいろいろなレクリエーションはしているが、お年寄りたちは与えられるよりも与える立場になった方がよほど元気になる」と話す。今後もCSとの連携を深めていくという。