トップ背景

トップ

高齢・介護

医療

障害者福祉

子ども・家庭

知りたい

wamnetアイコン
検索アイコン
知りたいアイコン
ロックアイコン会員入口
トップアイコン1トップ |
高齢アイコン高齢・介護 |
医療アイコン医療|
障害者福祉アイコン障害者福祉|
子どもアイコン子ども・家庭
アイコン



勤怠管理システム・勤務シフト作成支援システム
福祉医療広告

高齢・介護
医療
障害者福祉
子ども・家庭

研究成果
トップ

平成21年の都道府県別自立調整健康余命の算出とその活用

瀬上 清貴

1.はじめに

 この度、平成21年10月の都道府県別要介護(要支援)認定者数、平成17年国勢調査日本人人口、平成18,19,20年都道府県別日本人死亡数平均値を用いて、都道府県別自立調整平均余命 [1] を算出したので報告する。平成14年4月の介護保険要介護者数、平成12年国勢調査日本人人口、平成11、12、13年都道府県別日本人死亡数平均値を用いて算出された数値との比較検討も加えた。方法論等の詳細は、先行拙著(2004)ライフ・スパン17号を参照されたい。因みに、この「自立調整健康余命(HALE: Health-adjusted Life Expectancy)」とは、国民の健康状態を自立度と言う視点から、死亡率を含む包括的健康指標(Summary Measures of Population Health) [2] の一つのモデルとして提唱された概念を基に、要介護度に応じて自立度が異なっていることに着目して、要介護度(要支援度)別年齢階級別の重みづけ係数を加味して策定されたものである。

 自立調整健康余命は、ある特定年齢から完全に自立して生活できる残余年数を示すものである。つまり、要介護度別の自立度の研究に基づき、1年を完全な自立状態の方であれば自立1年とし、例えば、75-79歳で要介護度1の状態であれば自立0.7年、要介護度4であれば自立0.25年等として、地域の性年齢階級別人口と要介護度別の認定者数から、生命表の理論を用いて、要介護度により重み付けされた自立残余年数が算出されている。よって、自立調整健康余命は、死亡率を標準化した平均余命の要素を有すると共に、介護度別の自立性を標準化した要素を有する。例えば、同一年齢における健康余命の改善とは、適切な健康施策の結果として死亡状況が改善されたことと共に、要介護度間の移動、つまり、要介護状態になられた方々がリハビリや適切な介護等の結果として、要介護度が改善できたり、あるいは完全健康状態に復帰できたりしたことを意味している。

 この結果を基に、大きく3つの検討が可能である。一つは、都道府県間の格差の検討であり、次いで、各都道府県において前回の数値との比較により、その間の健康福祉施策の有効性の検討、評価に資することである。いま一つは、年齢(階級)をまたいだ場合における健康余命の減少率を地域間で比較することにより、要介護度間の改善あるいは悪化という移行程度を比較検討することである。

 不適切な結果の出た都道府県にあっては、計算の基となっている要介護度別認定者率の変化そのものを比較検討し、問題点を発見し、その解決策を講じることが求められる。

 なお、同時に「介護を要しない平均余命(DFLE:Disability-Free Life Expectancy)」も算出しているが、目的とする健康福祉施策の評価に用いることには限界があるので、数表上で結果を示すに留めておく。関心のある方々は、2回の結果を比較検討されたい。

 

2.結果

1)            全国値(表1)(参考1)

 平成21年10月の要介護者認定数によって、算出された自立調整健康余命は65歳男性が16.9年、女性が20.2年であった。平成18,19,20年の人口動態統計年齢階級別死亡者数及び平成17年日本人人口に基づく平均余命は65歳で男性が18.1年、女性が23.0年であったので、自立調整健康余命を分子に、平均余命を分母とした自立お達者度は65歳男性が93.6%、女性が87.7%であった。平成14年の推計と比較して7年間で、65歳における自立調整健康余命は、男性が0.42年、女性が0.28年延長している。

 このように、全年齢層で女性が男性を上回っていた。

(表1)
表1

(注)自立お達者度は、この表に表示されていない小数点以下第3位までの数字で算出後に小数点以下第2位を四捨五入しているので、表示された数値で計算した場合、結果が多少異なることがある。

(参考1)
参考1

2)            都道府県値

(ア) 平均値と最大値、最小値(表2)

 65歳男性の47都道府県の平均値は、16.89年であり、最小値の15.59年と最大値の17.60年との間は2.01年の開きであった。 70歳男性では、平均値が13.04年、最小値の11.86年と最大値の13.65年との間は1.81年の開きであり、75歳男性では、平均値が9.61年、最小値の8.57年と最大値の10.11年との間は1.54年の開きであった。

 一方、65歳女性では、平均値が20.31年、最小値の19.29年と最大値の21.08年との間の開きは1.75年であった。70歳女性では、平均値は15.84年、最小値は14.86年、最大値は16.59年であり、その差は1.73年であった。そして、75歳女性の平均値は11.66年、最小値が10.72年、最大値は12.40年であり、その差は1.68年であった。

 平均余命が各年齢で低下した都道府県はなかったが、自立調整健康余命では低下したところがあり、男性は70歳で3府県、75歳で10府県であり、女性は75歳で8県であった。

 男女ともに各年齢における差が平成14年に比べ拡大している。

(表2)
表2

(イ) 良かった都道府県

(表3)
表3

(ウ) 悪かった都道府県

(表4)
表4

3)           全データの概要

 今回の結果は、各都道府県別に全年齢階級で計算した。また、比較しやすいように、平成14年と同様の数表となっている。その全データは添付した「健康余命(平成21年男性).xls」、「健康余命(平成21年女性).xls」を参照されたい。エクセル表の元表を公開するのは、追試を容易とすること、ある程度(10万人程度)の人口規模を持つ市町村レベルでも、人口や3年間の死亡数、要介護認定者数を入力すれば同様の結果が算出できることによる。

 今回の推計結果を平成14年と比較するため、平成21年の推計に当たって、要支援1と要支援2とを合計した数値を要支援者数とした。このことによって自立調整健康余命の推計結果への影響は、小数点以下3位レベル以下の変化であった。その理由はウェイト値および認定者数の規模による。

 

3.考察

1)自立調整健康余命の延伸

 自立調整健康余命の延伸は、65歳男性で平均が0.51年、最大0.96年、最小0.10年であり、65歳女性で、平均が3.08年、最大3.54年、最小2.31年であった。70歳男性では平均が0.34年、最大0.77年、最小マイナス0.04年であり、また70歳女性で、平均が2.58年、最大2.97年、最小1.88年であった。そして、 75歳男性では平均が0.16年、最大0.54年、最小マイナス0.18年であり、75歳女性で、平均が1.98年、最大2.38年、最小1.37年であった。いずれの年齢でも男性は幅が小さい。また、男性の70歳及び75歳で、女性の75歳で自立調整健康余命の最小値が負になっていること、つまり値が低下した府県があることに注目したい。

次に、上位10位まで及び下位10位までの都道府県名を示す(表5)。参考として平均余命の延伸も示す。なお、数値は添付ファイルを参考にされたい。

(表5)
表5

2)自立調整健康余命と平均余命の延伸の総合評価:総合余命延伸距離と移動角、逸脱角

 自立調整健康余命をY(縦)軸に、平均余命をX(横)軸に取り、今回の平成21年推計を緑点、平成14年推計を赤点にしたグラフを示す。左側に男性、右側に女性、上から65歳、70歳、75歳と6枚配置した(図2〜7)。全体として右上方へシフトしていることが分かる。これは、自立調整健康余命も平均余命も概ね同じ比率で延伸していることを示すものである。各年齢で男性は密集しており、女性はばらけている傾向にある。これは、男性では自立調整健康余命の幅が小さくなっていること、女性の方が、平均余命に比べて自立調整健康余命の分布にばらつきが大きいことが示されている。各都道府県ごとにこの2回の推計点を結んだ線をここで「余命延伸線」とする。

 自立調整健康余命は、その数値の増減の中に、既に平均余命の要素を含んでいる包括指標である。よって、それだけで評価することが可能なわけであるが、問題点の所在を一層はっきりとさせるため、両者を更に合成して、X-Y座標上での移動距離(余命延伸線の長さ)を評価することとし、とりあえず総合余命延伸距離とする。 √((自立調整健康余命の延伸年)2+(平均余命の延伸年)2)で求めた。

 また、移動の方向も重要な要素である。X軸の方向に対する傾きを移動角(ラディアン)とし、ArcTan(自立調整健康余命の延伸年/平均余命の延伸年)で求めることができる。

 全都道府県の余命延伸線の移動角の平均をもってその性年齢における延伸傾向線とする。65歳女性の平均余命−自立調整健康余命図を例に示す。移動角の平均は0.47ラディアン(26.9°)であることから、その角度をもってその年齢の延伸傾向線とした。延伸傾向線の角度よりも大きいところは、自立調整健康余命の延伸割合が大きかったことを示す(図1)。このように性年齢別に延伸傾向線の角度が異なるのが、特徴となる。

(図1)
図1

 65歳男性の総合余命延伸距離の平均は0.76年、最大 1.36年、最小0.26年であった。移動角の平均は 0.72R (ラディアン、以下Rと表記)、最大0.92R、最小0.40Rであった。一方、女性では、総合余命延伸距離の平均は0.70年、最大1.25年、最小0.24年であった。また移動角の平均は 0.47R、最大0.97Rであったが、最小がマイナス0.52Rと負の数値となった。自立調整健康余命が低下したことを示す。

(図2) (図3)
図2   図3  

 70歳男性の総合余命延伸距離の平均は0.51年、最大 1.07年、最小0.09年であった。移動角の平均は 0.66R 、最大1.05R、最小マイナス0.45Rであった。一方、女性では、総合余命延伸距離の平均は0.54年、最大1.02年、最小0.24年であった。また移動角の平均は 0.66R 、最大1.05Rであり、最小マイナス 0.45Rであった。

(図4) (図5)
図4   図5  

 75歳男性の総合余命延伸距離の平均は0.30年、最大 0.79年、最小0.01年であった。移動角の平均は 0.44R 、最大1.41R、最小マイナス1.54Rであった。一方、女性では、総合余命延伸距離の平均は0.39年、最大0.74年、最小0.13年であった。また移動角の平均は 0.10R 、最大1.37Rであり、最小マイナス1.51Rであった。

(図6) (図7)
図6   図7  

次に、上位10位まで及び下位10位までの都道府県名およびそれぞれの総合余命延伸距離を示す(表6)。なお、掲載されていない都道府県は必要な数値を添付ファイルから拾い上げていただきたい。

(表6)
表6

2)延伸傾向線からの逸脱角(ラディアン)

 都道府県別に2回の結果を結ぶと、その傾きにばらつきが出る。先にこれを余命延伸線の移動角と名づけたが、延伸傾向線の角度とそれぞれの都道府県の移動角の差分を「逸脱角」とする。

 移動角が±1.57Rを超える場合は、平均余命が減少したことを示す。また、逸脱角が正値であれば、その地域の平均余命に対する自立調整健康余命の伸び率が全国平均を上回っていることになる。負値であれば、下回ったことを意味する。

(表7)
表7

 

4.健康福祉施策の検証にあたって

 「はじめに」でも述べたとおり、不適切な評価となった都道府県におかれては、実行されている健康福祉施策の適切性を個々に検証することが望まれる。参考までに検討するべき施策についていくつかの例を挙げておきたい。

1)予防段階の検証

 自立を損なわせる最大の問題は、脳卒中である。その発症予防対策が量的にも質的にも適切に行われてこなかった可能性が高い。その検証が必要である。その視点を挙げる。

 健康教育プログラムが単に知識の普及に終わっていないか。メタボ予備群対策で示された「行動変容プログラム」への転換が行われているか。行動変容プログラムは必要とする対象者に地域を問わず、適切に機会が保証されているか、またそのプログラムは有効に実践されているか。

 高齢者に対する脱水予防対策が適切に実践されているか。

2)発症直後の対策の検証

 発症後対策は発症者に初期医療が時間的にも質的にも適切に提供される地域医療体制を整えることに尽きる。よって、発症後対策の詳細が地域医療計画に適切に記載され、その実行に向けた支援策が講じられることが必要である。

救急搬送システムが適切に機能しているか。搬送所要時間の短縮に向けた対策としてどのようなものがあり、どの程度実行されてきたか。

 t−PAを投与できる医療施設が地域に適切に分布しているか。候補医療施設がt−PAを投与できる医療施設認定を受けるためには、専門医、従事医師及び看護師の養成確保、診断装置の配置が必要であり、採算性を度外視する必要がある。このため、行政による助成等の支援が必要であり、そうした支援を行ってきたか。脳外科手術・血管内手術が適切に行える医療施設が地域に適切に分布しているか。

 こうした高機能の施設が次に出てくる発症者のためにその機能を十分に発揮するためには、生命危機を脱した患者が次の段階の治療を受けることのできる病棟や他の施設に適切に移ることのできる連携システムが機能する必要がある。このような施設内連携、施設間連携システムが地域医療計画に記載され、適切に実行されているか。

3)リハビリ対策の評価

 脳卒中発症後に行うべき第1段階である救命措置に続く第2段階は、リハビリテーション措置である。超早期から、回復期、維持期という段階に応じたリハビリが病院、介護老人保健施設、介護老人福祉施設、診療所、居宅を通じ、必要な方にその必要度に応じ、適切に提供されるシステムを構築し、その機能が適切に発揮し続けることができるよう支援策を講じることが必要である。

 医療施設にあっては、担当するべき段階の中で、患者の一般病状に応じた限界時間まで十分な時間、質の高いリハビリを提供できる体制となっているか。自立性を低下させるようなことがないか検証することが必要である。

福祉施設にあっては、施設居住者やデイケア利用者に対し、レクリエーション等を通じ、自立性を高めるためのサービスが提供できているか、自立性を悪化させるようなことがないかについて検証する必要がある。

 また、自宅生活者や居宅系施設生活者に対し、在宅訪問診療・看護サービスや訪問リハビリサービスが適切に提供できるようになっているか。

 

5.おわりに

 本報告の趣旨は、各都道府県の順位付けを目的とするものではなく、それぞれの健康福祉施策を検証する機会を提供し、より良い施策の実行へと転換されることを促進することである。もって、国民がより自立的な生活が少しでも長くできるようになることが望まれる。自立調整健康余命が将来を語るための健康指標として用いられることを期待したい。

 今回全てのデータ及びエクセル表上の数式を公開するに至ったのは、拙著「21世紀に向けた健康指標集−達成可能な長寿社会へ向けた目標値(SALT)の提案−」(2000) [3] を上梓した後、多くの都道府県・政令市、中核市等から独自のデータ分析をしたいとしてデータ解析の方法論等に関する沢山の質問をお寄せいただいたことへの反省と感謝がある。



[1] 瀬上清貴(2004). 都道府県別「自立調整健康余命」の策定. ライフ・スパン, 17:1-107. (ISSN-0916-0485)

[2] Segami K (2002) In: Summarry Measures of Population Health Concepts, Ethics, Measurements and Applications. Murray CJL, Salomon JA, Mathers CD, Lopez AD, eds. World Health Organization. Geneva. (ISBN92-4-154551-8)

[3] 瀬上清貴(2000). 「21世紀に向けた健康指標集−達成可能な長寿社会へ向けた目標値(SALT)の提案−」.厚生統計協会.東京.(ISBN4-87511-133-9)

結果一覧データ : ダウンロード ZIP:82KB

連絡先:segami−k@umin.ac.jp

ページトップ