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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

「特別養護老人ホーム経営セミナー」報告【東京会場】
「介護保険制度10年と特別養護老人ホーム経営 〜経営課題と将来展望〜」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、平成22年10月15日都市センターホテル・コスモスホールにおいて、特別養護老人ホーム経営者等を対象に「キャリアパスを活用した経営改革の推進」と題して、特別養護老人ホーム経営セミナーを開催しました。
 介護を社会全体で支えあうという理念のもとスタートした介護保険制度は、本年で10年を迎え、この間、ユニット型特別養護老人ホームの登場、介護保険法の抜本見直し、介護報酬のマイナス改定など、特別養護老人ホームを取り巻く経営環境も大きく変化してきました。
 特に、近年大きな経営課題となっている介護人材の確保・処遇改善に関しては、国は、昨年度、介護報酬3%プラス改定に加え、処遇改善交付金を創設するとともに、今年度からは同交付金の受給にあたってキャリアパス要件を求めることとするなど、相次いで政策を打ち出しています。
 このセミナーでは、このような経営環境や政策の変化を、新たな時代に向けた経営改革を進める好機と捉え、真に職員の確保・定着を図るためのキャリアパスとするためには、経営面においてどのような対応が必要となるのか、皆さんとともに考えることを目的としています。

特別養護老人ホーム経営セミナー風景

 はじめに、当機構経営支援室 経営企画課長の千葉正展より、本セミナーの趣旨、目的などを説明した後、増田雅暢氏(株式会社日本政策金融公庫国民生活事業本部生活衛生融資部長)から「介護保険制度10年と特別養護老人ホーム経営〜経営課題と将来展望〜」と題して、講演が行われました。
 講演内容は、最初に1963年に制定された老人福祉法から老人保健法の制定、ゴールドプラン及び新ゴールドプランの策定と推進、さらには介護保険制度の準備、実施までの高齢者保健福祉政策の流れを説明されたのち、次のとおり、これからの課題と展望について、お話しいただきました。
 『これまでの介護保険制度の経緯については、自らが高齢者介護対策推進本部事務局員としての経験、また、大学教授等の経験を踏まえ、介護保険制度の創設時のねらいから、介護保険制度の実施状況について実績データ等をもとに説明が行われた。
 要介護度別認定者数の推移では、平成12年4月の218万人から平成21年4月には469万人に増加し、特に平成17年度までは要支援や介護度1の軽度の要支援・要介護者の増加が大きい。
 実際のサービス受給者数の推移をみると圧倒的に居宅サービスの伸びが大きく、介護サービス事業所・施設数でも訪問介護事業所、通所介護事業所(デイサービス)はこの10年間で2倍以上に伸び、このほか認知症グループホーム、有料老人ホーム等が著しく増加している。
 このような増加に対して、介護保険の総費用も平成12年度の3.6兆円から平成22年度(予算)7.9兆円と2.2倍に増加し、65歳以上が支払う保険料も全国平均で4,160円まで上昇した。
 介護保険制度がもたらした成果としては、
 ・介護サービスの一般化・普遍化
 ・介護サービス提供量の大幅拡大
 ・介護サービスの質の向上に向けての取組
 ・介護事業の拡大
 ・地方自治体の特徴ある取組
 ・他の東アジア諸国(韓国、台湾)への影響
 の6点を取り上げた。
 
 介護保険制度の見直しについては、現在、社会保障審議会介護保険部会において
 ・給付の在り方(施設・住まい、在宅・地域密着)
 ・給付と負担の在り方
 ・保険者の果たすべき役割
 ・介護人材の確保と処遇の改善策
 などがテーマとして取り上げられ、検討が進められている。
 11月を目途に取りまとめが行われ、次期通常国会に改正法案が提出される見込みであるが、議論が拡散され、検討時間も短く実際にまとめるのは難しい。
 見直しに当たっての最大の課題は財政問題であり、日本の介護保険は、世界最大の介護保険、高コスト体質を持っている。公費負担の拡充も、現状の事実上の公費の割合は50パーセントであり、厳しい財政状況下で「ペイアズユーゴー原則」も示されており難しい。

 介護保険を取り巻く課題としては
 ・高齢者人口の増加(特に、今後は、第1次ベビーブーム世代が高齢者世代に)
 ・認知症高齢者の増加
 ・老夫婦世帯、高齢者単独世帯の増加
 ・地域包括ケアの推進
 ・都市部の超高齢化社会の進展
 ・介護サービスの担い手である介護従事者の確保
 が挙げられるが、特に介護従事者の確保については、労働力人口が減少する中で、2025年までに現在の倍の介護職員が必要と見込まれ、現実的問題として提供することが可能かどうか、外国人、家族介護者、ボランティアなども含めて考えていかねばならない。

 特別養護老人ホームを取り巻く当面の課題としては、介護職員の処遇の改善とキャリアパスの構築などの課題があり、現在いくつかの点については検討が進められ方向性も見えており、これらに対応する必要がある。

 最後に、地域包括ケア研究会報告書等を踏まえ、特別養護老人ホームの今後の方向性案として、
 ・介護保険施設、高齢者住宅の中での位置付け ⇒ 「生活福祉施設」としての機能
 ・地域包括ケアシステムの中での位置付け ⇒ 「地域の介護拠点施設」としての機能
 ・雇用の場としての位置付け ⇒ 「雇用拠点施設」としての機能
の重要性に言及した。
 特に、介護分野は成長分野であり、経営者は、若い介護職員を伸ばし、育成するよう経営に当たっていただきたい。』

 午後からは、キャリアパスの作成や、その活用など、経営戦略についての実際の取り組み等について、各講師から説明が行われました。

 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
 http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxです。

    【講演内容】
    プロローグ
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課長 千葉 正展

    「介護保険制度10年と特別養護老人ホーム経営〜経営課題と将来展望〜」
    (講師)株式会社日本政策金融公庫 国民生活事業本部 生活衛生融資部長 増田 雅暢 氏

    「特別養護老人ホームを中心とする福祉貸付事業のご案内」
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 福祉貸付部 福祉審査課

    「戦略的人事としてのキャリアパスの高度化に向けて」
    (講師)株式会社日本経営 戦略人事コンサルティング取締役 堀田 慎一 氏
    (全国社会福祉施設経営者協議会介護保険事業経営委員会キャリアパス作業委員)

    「キャリアパスの高度化に向けた経営改革の取組み〜人事・労務管理制度について〜」
    (講師)社会福祉法人六親会 特別養護老人ホームプレーゲ本埜 常務理事・施設長 湯川 智美 氏

    エピローグ「キャリアパスを経営戦略にする8つのポイント」
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課長 千葉 正展