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◆◆ 平成22年度 ◆◆

平成22年度 福祉・医療経営セミナー報告

−「精神科病床経営セミナー」報告−【東京会場】
「精神科病院の地域移行を通して経営を考える」

 WAMNET中央センター長 長尾 恵吉

 当機構の経営支援室は、平成22年12月10日、都市センターホテル(東京都千代田区)において、精神科病院の経営者等を対象に「入院医療中心から地域生活中心へ」と題して精神科病床経営セミナーを開催しました。
 国の「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」報告書において、「地域生活支援体制の強化」等、改革の基本的方向性が示されてから1年が経過しました。
 我が国の精神保健医療福祉施策が、今まさに大きな転換期にある中で、精神科医療を提供する経営者の皆さまは、「入院医療中心から地域生活中心へ」との考え方のもとに、何を重点として経営改善の取組みを行えば良いか。このセミナーは、精神科病院を取り巻く課題と将来の展望を見据え、ダウンサイジングを進めながら地域生活を支援する実践事例のご紹介を通じて、安定した施設経営を実現していくための方策を皆さんとともに考えることを目的として企画しました。
精神科病床経営セミナー風景

 最初に、医療法人社団翠会 成増厚生病院 理事長・院長 の 新貝 憲利 氏から「精神科病院の地域移行を通して経営を考える」と題して、実践を踏まえた講演が行われました。
 午後からは、「精神科病院を取り巻く現状・課題と将来展望」と題して、独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 社会精神保健研究部長 伊藤 弘人 氏より、その後、「愛媛県南宇和郡愛南町の精神保健医療福祉〜これまで、今、これから〜」と題して、財団法人正光会 御荘病院 理事・院長 長野 敏宏 氏より講演が行われました。
 ここでは、伊藤 弘人 氏の講演内容(要旨)をご紹介します。

 (講演要旨)
 講演は、以下の構成によって進められた。
1.はじめに
2.診療報酬
3.精神保健医療福祉政策の動向「地域の中の病院」から「地域が病院」へ
4.ターゲット
5.目標(ゴール)は何か(クリニカルパス)
6.地域連携(他診療科との連携を含む)
7.モデルチェンジ(中間施設・機能分化)

1.はじめに

 現状分析として、精神科病院の収益率をみると、療養型病院と一般病院の中間に位置し、また、精神科医療費に占める65歳以上の割合が高齢化の進展の影響もあるが増加し続けており、精神科入院医療費は高齢者入院医療費に変容しつつある。
 経営に当たっては、利益を最大化する、利益率を守る、財産を守るだけでなく、人と技術を守り向上させる、顧客を守ることが重要であり、また、政策・地域特性、利用者ニーズなどの外部環境、構造・組織などの内部環境を踏まえ、戦略に基づく将来の組織づくりが必要である。
 踏み出す方向としては、地域へ踏み出す、急性期入院医療へ踏み出す、新たなニーズへの対応に踏み出すなどの方向があり、すでに踏み出している病院もある。

2.診療報酬

 これまでの精神科に係る診療報酬を見ると、1994年以降精神科「包括病棟」の動向として急性期に対する評価、改定が行われてきた。また、地域ケア推進を意図した診療報酬でも訪問看護ステーションなど訪問看護の評価や、2010年における認知行動療法、急性期デイケア(退院後1年間)、さらに連携の推進を意図した診療報酬では、2008年の救命救急入院料加算、2010年の総合入院体制加算(精神科の体制が要件)が追加されるなど、一定の方向性をもった診療報酬改定が行われてきた。

3.精神保健医療福祉政策の動向

 精神病床の統合失調症入院患者数は、患者の高齢化に伴い今後減少する。また、統合失調症患者の公の場での発言の増加など、患者の意識及び国民の意識も変化してきている。
 2004年に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」が示され、2009年には「今後の精神保健医療福祉のあり方等に関する検討会」において、中間点の評価と後半5カ年の重点施策等が取りまとめられた。
 同報告書では、「地域を拠点とする共生社会の実現」、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本理念に基づき、精神保健医療体系の再構築、地域生活支援体制の強化が示されている。
 また、新たな地域精神保健医療体制の構築に向けた検討チームが本年5月に設置され、地域精神保健医療体制や認知症と精神科医療、保護者制度・入院制度などについて検討が進められている。

4.ターゲット

 日本の医療は欧米と違い、国民皆保険と自由開業制によるフリーアクセスが特徴であるが、逆にターゲットが絞れない。来院する人がターゲットとなるが、ターゲットを意識する必要がある。

5.目標(ゴール)は何か(クリニカルパス)

 利用者の視点から見た精神科病床のゴールは、入院期間を短くして地域生活部分を長くすることである。考えられるゴールは、入院では行動制限最小化、退院では入院の短縮化、長期在院者の退院支援、社会復帰のための準備、再入院の防止・遅延、就労では一般就労を目指すことである。

6.地域連携(他診療科との連携を含む)

 医療計画において医療連携体制の構築が明示されているが、精神科について、現在「4疾病」の中に追加する方向で検討が行われている。平成20年には、精神科地域移行実施加算をはじめ診療報酬上でも評価が行われるなど、これまでにも政策的な手当てがなされてきた。
 
7.モデルチェンジ(中間施設・機能分化)

 精神科病院の担う機能は、精神科急性期医療、精神科慢性期、社会復帰・中間施設、アウトリーチ医療(外来医療を含む)、合併症・併発症医療が考えられるが、どのような要素が必要で、どの機能を担うのか考える必要がある。
 それらの機能を踏まえた施設類型として、精神科急性期・救急特化型、重装備・自己完結型、ケースミックス入院機能特化型(急・慢混在型)、慢性期特化型、一般病院精神科型、大学病院精神科型が考えられる。それらにモデルチェンジを図ってく必要がある。
 なお、重装備・自己完結型では歴史的長期入院患者数の将来的な減少への対応、ケースミックス入院機能特化型では急性期型包括病棟の基準(新規入院患者数)を満たさないこと、慢性期特化型では他施設とのネットワークと連携の在り方などが課題となる。

 最後に、残された時間は限られている。10年後を目指して踏み出すことを期待する。
 
 このほか、当機構からは、「精神科病院の経営実態からみた安定経営へのヒント」(経営支援室)及び「医療貸付事業に関する融資制度のごあんない」(医療貸付部)と題してそれぞれ説明を行いました。

 今後の福祉・医療経営セミナーの予定は、
http://hp.wam.go.jp/guide/keiei/seminar_information/tabid/667/Default.aspxです。

    【講演内容】
    精神科病院の地域移行を通して経営を考える
    (講師)医療法人社団翠会 成増厚生病院 理事長・院長 新貝 憲利 氏

    精神科病院を取り巻く現状・課題と将来展望
    〈講師〉独立行政法人国立精神・神経医療研究センター
    精神保健研究所 社会精神保健研究部長 伊藤 弘人 氏

    愛媛県南宇和郡愛南町の精神保健医療福祉〜これまで、今、これから〜
    (講師)財団法人正光会 御荘病院 理事・院長 長野 敏宏 氏

    精神科病院の経営実態からみた安定経営へのヒント
    ―平成21年度病医院の経営分析参考指標から―
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 経営支援室 経営企画課長 千葉 正展

    医療貸付事業に関する融資制度のごあんない
    (説明者)独立行政法人福祉医療機構 医療貸付部 医療審査課