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介護報酬と3つの関連トピックス 〜介護職員の処遇改善、テクノロジーの活用、福祉用具貸与における上限価格の取り扱い〜介護報酬と3つの関連トピックス 〜介護職員の処遇改善、テクノロジーの活用、福祉用具貸与における上限価格の取り扱い〜
T 介護保険制度下のサービスと「介護報酬」
40歳以上(被保険者)で、介護が必要な人が利用する各種介護サービスの料金(介護報酬)を、市区町村(保険者)が税金・介護保険料で補助(給付)し、定率1割または2割・3割の自己負担にする「介護保険制度」。2000(平成12)年4月の創設以来、利用者は右肩上がりで増え続けており、厚生労働省の「令和3年度 介護給付費等実態統計の概況(令和3年5月審査分〜令和4年4月審査分)」によると、「年間実受給者数(4月から翌年3月の1年間において一度でも介護〔介護予防〕サービスを受給したことのある者の数)」は、2021(令和3)年度に約638万人で、2000(平成12)年度の約256万人と比べて、約2.5倍となっています。 これだけ多くの人が利用している介護保険制度下のサービスは、以下の通り、いろいろな種類があります。なお、各種サービスの概要は、「サービス一覧/サービス紹介」を参照してください。
これら各サービスの料金は、サービスを提供する事業者(所)・施設が決めているのではなく、国(厚生労働大臣)が定める基準によって決められています。いわゆる「公定価格」と呼ばれるもので、介護保険制度においては「介護報酬」といいます。「介護給付費」と表記される場合もあります。サービスを提供する事業所・施設にとっては、売上となります。 U 介護報酬の仕組み
介護報酬は、1単位を10円とする「〇〇単位」という数値で規定されています。 例えば、自宅やサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホーム、ケアハウスなどの居宅に住む利用者が利用できる、訪問介護(ホームヘルプ)において、食事や入浴、排せつの介護など、身体介護が中心となるサービスを、1時間未満(30分以上1時間未満)で提供すると、396単位という介護報酬になります。 介護報酬は、1単位を10円で換算する仕組みとなっていますので、上記の例の場合、基本的には、396単位×10円=3,960円となり、利用者(被保険者)は、その1割または2割・3割を自己負担します(この場合、1割自己負担の額は396円。「サービス一覧/サービス紹介」にある各サービスの画面には、1単位を10円とした場合の、1割自己負担の額を紹介しています)。 一方、同じサービスを提供するにしても、地域によって、職員の人件費や物価が異なります。特に、都市部においては、人件費が比較的高く、ともすれば経営を圧迫します。そのような状況を考慮して、例えば、特別区(東京23区)で開業している訪問介護事業所の場合には、1単位は10円ではなく、11.40円という数値が設定されています。(この数値を単位数単価といい、事業所・施設がある市区町村ごとに〔言い換えると、全国の市区町村が、8つの「地域区分(1級地〜7級地およびその他)」に振り分けられており、その地域区分ごとに〕、かつ、サービスの種類ごとに設定されています)。すなわち、特別区(参考までに「1級地」)にある訪問介護事業所における介護報酬は、上記の例の場合、396単位×11.40円=4,514円(小数点以下は切り捨て)となり、利用者は、その1割または2割・3割を自己負担します(この場合、1割自己負担の額は452円。参考までに、計算式は「1割自己負担の額〔円〕=介護報酬〔円〕―介護報酬〔円〕×0.9〔小数点以下は切り捨て〕」と規定されています)。 サービスを提供する事業所が、どの種類のサービスを、どこの市区町村で開業しているかによって、利用料(介護報酬。サービスを提供する立場でいえば、売上)、そして利用者が支払う自己負担の金額が、同じサービスであっても、地域によって異なる場合があるのです。なお、介護報酬の支払いに関する仕組みは、以下の図の通りです。詳しくは、市区町村の担当窓口や地域包括支援センター、担当のケアマネジャーに問い合わせてください。 図 介護報酬の支払いに関する仕組み
V 介護報酬の改定と関連トピックス
ところで、介護報酬は、3年に一度の介護保険制度の改正に合わせて、改定してきました(過去には、それ以外の時期での改定もあります)。直近は、2021(令和3)年度の改定となります。改定に際しては、その時々の注目ポイントがあります。ここでは、近年、注目されてきた、次の3つの事柄について紹介します。 (1)介護職員の処遇改善 サービスの利用者が増える中、現場では常時と言っていいほど、人材不足の問題を抱えています。厚生労働省が公表した「令和4年版厚生労働白書」によると、介護関係職種(介護職員、介護支援専門員等)の有効求人倍率は、2021(令和3)年に3.64倍。同じ年の全職業計の有効求人倍率1.03倍を、大きく上回っています。背景の一つには、介護職員の処遇、すなわち給与面に、改善の余地があるとされてきました。厚生労働省の「平成21年度介護従事者処遇状況等調査結果(概要)」から、介護保険制度下の各種サービスに従事する職員(介護従事者)における、2008(平成20)年の主な職種別の給与を、以下に示します。なお、給与とは、基本給に各種手当を加えたものです。 表 介護従事者における主な職種の1か月の平均給与額(2008〔平成20〕年)
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、または機能訓練指導員 上記を見ると、利用者の介護生活を支援する“介護”サービスでありながら、その中心的な役割を担う介護職員の給与は、他職種よりも低い状況にあります。 また、厚生労働省の「平成20年賃金構造基本統計調査」によると、全産業の平均賃金に近似する、(常用労働者のうち短時間労働者以外の)一般労働者の賃金(月額)は、299,100円となっています。「賃金が最も高い産業は、男が金融・保険業(463,500円)、女が教育、学習支援業(294,500円)。最も低い産業は、男女とも飲食店、宿泊業(男277,600円、女188,400円)」との結果も見られました(この調査の産業別には「医療、福祉」はありますが、「介護」はありません)。 一般に、仕事の魅力やモチベーション、職業選択などの点で、給与が一定水準にあることは大事です。上記に引用した2つの調査は、集計方法などが異なるため、一概には言えませんが、他の産業や産業全体と比べても、介護職員の給与について、改善できるのであれば、人材は集まりやすくなるはずです。 そこで、2009(平成21)年度から、介護報酬の体系に、介護職員の給与水準を上げることを目的とした、介護職員処遇改善加算(当初は交付金。2012〔平成24〕年度から加算扱い)を導入しました。その後の介護報酬改定の都度、変更・改良を重ね、現在の加算の仕組みは、2021(令和3)年度に改定されたものです。参考までに、介護報酬は、事業所・施設の人員配置や運営形態、提供するサービス内容などによって、「基本報酬+加算−減算」という仕組みとなっています。 サービス提供事業所・施設が、介護職員処遇加算を取得するためには、賃金改善に関する計画策定や、計画の介護職員への周知と都道府県等への提出、賃金改善の実施と都道府県等への実績報告、介護職員の資質向上を支援する計画作成と計画に沿った研修の実施、介護職員の経験や資格等に応じて昇給する仕組みまたは一定の基準により定期昇給を判定する仕組みなど、種々の算定要件を満たさなければなりません。 ここで、厚生労働省の「令和3年度介護従事者処遇状況等調査の概要」から、上記の表と同様に、2021(令和3)年の主な職種別の給与を、以下に示します。 表 介護従事者における主な職種の1か月の平均給与額(2021〔令和3〕年)
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、または機能訓練指導員 上記の給与額は、介護職員処遇改善加算を取得(届出)している事業所・施設のものです。介護職員の額を、2008(平成20)年と比べると、他の職種と同様に、月給の者は30万円台、時給の者は10万円台に上がりました。他の職種との差も縮小しました。また、「令和3年賃金構造基本統計調査」を見ると、一般労働者の賃金(月額)は、307,400円となっており、介護職員(月給の者)において、2008(平成20)年に約50,000円あった差が、数字の上では解消されました。基本報酬や最低賃金制度の改定、事業所・施設の経営努力など、さまざまな要因がある中で、加算による一定の効果も現れたといえます。以下は、「令和4年版厚生労働白書」からの引用です。 ![]() 留意すべきこととして、加算を取得していない事業所・施設があること、夜勤が無いサービスは相対的に低いなど、サービスの種類によって給与額に差があること、そして何より、加算の財源は、限られた税金・介護保険料および利用者の1割または2割・3割の自己負担金であることです(加算があることで、利用者の自己負担も増えます)。なお、関連加算として、経験・技能のある介護職員に重点化を図る、介護職員等特定処遇改善加算もあります。 「2025年問題」「2040年問題」などを見据え、今後一層、介護職員を必要とする中、本加算の動向が注目されます。 (2)テクノロジーの活用 「令和4年版厚生労働白書」によると、日本の人口が、2008(平成20)年をピークに減少し続けている中、2020(令和2)年に6,938万人(全人口の55%)だった、20歳から64歳までの現役世代は、2040(令和22)年には5,543万人(全人口の50%)となり、約1,400万人減少すると見込まれています。高齢者の就業促進なども進められていますが、人材不足は、あらゆる産業で問題・課題となっており、上記の処遇改善加算のような、人への投資だけでは、充足できない状況といえます。そこで、近年の介護報酬改定では、「テクノロジーの活用」という視点が盛り込まれています。以下に、2021(令和3)年度の改定における「基本的な考え方」を抜粋します。 〇介護人材の確保・介護現場の革新 また、人材確保対策とあわせて、介護サービスの質を確保した上での、テクノロジーの活用や、人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担の軽減を推進していくことが必要である。文書負担軽減や手続きの効率化による介護現場の業務負担軽減を推進していくことも必要である。 上記をふまえて、以下のような仕組みが導入されています。 〇見守り機器等を導入した場合の夜間における人員配置基準の緩和 ・対象サービス: 介護老人福祉施設、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、(介護予防)短期入所生活介護 ・要件: @利用者の動向を検知できる見守り機器を全利用者に設置、A夜勤時間帯を通じて、夜勤を行う全ての介護・看護職員が、(耳に装着して会話ができるインカムや、スマートフォン、タブレットなどの)情報通信機器を使用し、職員同士の連携促進が図られている、B見守り機器等を活用する際の安全体制およびケアの質の確保、ならびに職員の負担軽減に関して、委員会を設置の上、介護・看護職員、その他の職種と共同して必要な検討を行う等 要介護3以上の介護度の重い利用者の生活を支える、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)と、併設することが多い短期入所生活介護(ショートステイ)に配慮したものといえます。通常、人員基準を満たさなければ、介護報酬は減算されますが、上記の緩和にあたっては、減算の対象にはなりません。また、人員基準よりも手厚く配置した場合に取得できる、夜勤職員配置加算についても、上記と同様の要件を満たすことで、取得要件が緩和されました。なお、「見守り機器」については、こちらの記事も参照してください。 テクノロジーの活用という点では、2021(令和3)年度の介護報酬改定にて、以下のような仕組みも導入されました。 上記をふまえて、以下のような仕組みが導入されています。 〇居宅療養管理指導における薬剤師による情報通信機器を用いた服薬指導の評価の新設 訪問診療により交付された処方箋に関して、利用者に対して、情報通信機器を用いて服薬指導を行い、訪問診療を行った医師に、服薬指導の結果について必要な情報提供を行うことで、介護報酬を得ることができる。 〇定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護における人員配置基準の明確化 オペレーターにおいて、夜間・早朝(18時から8時まで)に必ずしも事業所内にいる必要はないが、その要件として、ICT(情報通信技術)等の活用により、事業所外でも利用者情報の確認ができるとともに、電話の転送機能等を活用することで、利用者からのコールに即時対応できる体制を構築し、コール内容に応じて必要な対応を行うことができること。 〇地域密着型通所介護のうち、難病等の重度要介護者や、がん末期の者で、常に看護師による観察が必要な者が対象となる、療養通所介護における、利用者の状態確認におけるICTの活用 運営に関する基準にて、常に利用者の心身の状況を的確に把握することが求められている中、長期間・定期的に事業所を利用し、状態が安定した利用者について、ICTによる状態確認が可能であり、利用者・家族の同意が得られている場合に、看護職員は介護職員と連携してICTを活用し、通所できる状態であることや、居宅に戻った時の状態の安定等を確認することを可能とする。サービスの初回利用時は、ICTの活用は不可とする。 ICTの活用については、厚生労働省が発信している「介護現場におけるICTの利用促進」も参照してください。 上記の他にも、「介護サービスの質の評価と科学的介護の取り組みの推進」として、科学的介護推進体制加算というものがあり、@利用者ごとのADL値、栄養状態、口腔機能、認知症の状況などの心身の状況等にかかる情報を、厚生労働省に提出、A@に規定する情報など、サービスを適切、有効に提供するために必要な情報を活用し、サービスを提供すること、を取得(算定)要件としています。対象サービスは、通所系をはじめ、(介護予防)小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護、(介護予防)認知症対応型共同生活介護、介護保険施設(介護療養型医療施設を除く)、地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護、(介護予防)特定施設入居者生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護。上記にある厚生労働省の提出先を、LIFE(科学的介護情報システム)といい、現場の情報を収集・蓄積して、分析した成果を現場に戻し(フィードバックし)、現場が活用することで、科学的裏づけ(エビデンス)に基づいた介護を推進します。 テクノロジーの活用・導入は、介護報酬に反映する・しないに関係なく、今後ますます進んでいくことでしょう。関連した記事として、「介護ロボット関連情報」も参照してください。 (3)福祉用具貸与における上限価格の取り扱い 前述で、介護報酬は、国(厚生労働大臣)が定める基準によって、1単位を10円とする「〇〇単位」という数値で規定されていると、紹介しました。しかし、(介護予防)福祉用具貸与、特定(介護予防)福祉用具販売については、具体的な数値が規定されていません。理由として、福祉用具には、さまざまな機能や性能と、それらを有した数多くの商品があり、基準を定めにくいこと、事業者の規模や営業範囲により、福祉用具の導入や輸送にかかるコストに差があることなどがあります。そのため、福祉用具の貸与・販売価格は、事業者が自由に設定でき、一般の市場と同様に、需要と供給のバランスによって、価格が決定されています。 そのような中で、一部の福祉用具について、極端に高額な貸与価格、いわゆる「外れ値」が発生していました。そこで、福祉用具の給付の適正化を図るため、国が、「全国平均貸与価格」を公表し、2018(平成30)年10月から、貸与価格の上限(上限価格)を設定することになりました。厚生労働省による、以下の資料を参照してください。 ![]() 今後、全国平均貸与価格と上限価格は、介護報酬の改定に合わせて、3年に1度の頻度で見直します。 なお、福祉用具に関しては、福祉用具の安全かつ効果的な利用を促進し、高齢者および障害者の福祉の増進に寄与することを目的として設立された、公益財団法人テクノエイド協会が、さまざまな情報等を発信しています。上限価格の取り扱いにかかる厚生労働省の「福祉用具貸与価格適正化推進事業(令和4年度)」も担当しています。 利用者の自立支援と介護者の負担軽減のために、ニーズ(必要性)に応じた福祉用具が、介護保険制度下の適正な価格のもとで貸与されることは、介護が必要な利用者が、居宅で安心して生活し続けていくためにも、大切なことです。
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