サービス取組み事例紹介
介護

社会福祉法人松涛会

利用者思いの建物、サービスを展開  フロイデ彦島

山口県下関市にある「フロイデ彦島」は、これまでの介護福祉施設のイメージをくつがえす施設設計で、景観や利用者の居心地、スタッフの働きやすい環境などが評価され、福祉施設では快挙となる建築業協会賞を受賞したことで知られている。施設概要や取り組みについて取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年6月号に掲載されたものです。

病院を中核に医療・介護福祉サービスを展開


 山口県下関市にある医療法人・社会福祉法人からなる松涛会グループは、「医療・介護・福祉の連携により地域社会に貢献する」ことを理念に掲げ、地域に根ざしたケアを提供してきた法人である。278床の安岡病院を中核に、地域のニーズにあわせて、医療・介護福祉サービスを中心に56事業を総合的に展開し、地域包括ケアシステムを進めている。また、運営する施設においては“癒しと安らぎの環境づくり”に取り組んできた。
 平成17年10月に社会福祉法人松涛会が開設した「フロイデ彦島」は、これまでの介護福祉施設のイメージをくつがえす施設設計が評価され、建築業協会賞や日本医療福祉建築賞を受賞したことでも知られている。とくに日本を代表する建物に贈られる建築業協会賞を介護福祉施設が受賞したことは快挙であった。


▲ 社会福祉法人松涛会 フロイデ彦島の外観。 ▲ グループホームのリビング。大きな窓から自然光がふんだんに入るため、明るく開放的な雰囲気がある。

 施設のコンセプトについて、同法人常務理事・「フロイデ彦島」施設長の斎藤英樹氏は次のように語る。
 「当施設は、『自分たちが住みたい施設』をコンセプトに、これまで当グループが長年培ってきた“癒しと安らぎの環境づくり”を体現したもので、海を一望できる環境のなか、明るく開放的な施設になっています。施設名のフロイデは、ドイツ語で”歓喜“を意味しますが、入居者さんの第2の人生を心豊かに過ごしてもらいたいという想いが込められています」と語る。


 景観のよいロケーションで心豊かに生活


 「フロイデ彦島」は、下関市南西端の関門海峡を見下ろす丘陵地にあり、景観のよいロケーションは心豊かに生活できる環境にある。対岸は福岡県北九州市で、近年、夜景スポットとして人気の高い工場群を望むこともできる。
 複合施設である同施設は、ケアハウス、グループホーム、デイサービス、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所、防災拠点型地域交流スペースを併設。敷地面積は約4000平米で、当初の計画では5階建てを構想していたが、周辺環境への配慮から、2棟からなる地上3階建てとした。ケアハウスは個室と夫婦部屋を設けた定員50 人で、9室を1ユニットとして形成。グループホームは9人×2ユニットの定員18 人となっている。各居室のバルコニーからは海を眺めることができる。ケアハウス・グループホームは開設から常に満室となっており、入居者の家族が東京都など遠方に住んでいるケースが多いことも特徴だという。


▲ ケアハウスの居室。トイレやシャワー、ナースコールを完備し、バルコニーから海を眺めることができる。 ▲ 2棟をつなぐ渡り廊下は喫茶スペースになっており、利用者は読書やお茶を楽しむ。

 複合施設のメリットについて、同法人事務長の川瀬英盛氏は「複合施設にすることで事業所間の連携がとりやすく、利用者さんの安心につながります。例えば、夫婦のご主人はケアハウス、奥さんはグループホームにそれぞれ入居されるケースがありますが、一緒に食事ができる環境にするなど、利用者さんの求めるニーズに対応することも可能になります」。
 入居者の健康管理については、近隣にあるグループの診療所と連携し、定期受診や医療相談を行う。また、健康管理を行ううえで口腔ケアを重要視しており、グループの中核を担う安岡病院の歯科医や歯科衛生士から協力を得ている。


 自然光を取り込み、明るく開放的な空間


 施設設計においては、施設外観は白を基調にした洗練されたデザインで、癒しと元気をもたらす効果があるといわれる弁柄色(落ち着いた感じの赤茶色)を建物のアクセントとして使用している。壁面で建物を支える壁構造を採用しており、柱や梁がないことでゆとりのあるスペースを確保している。天井が高く廊下も広い圧迫感のないつくりは、スタッフにとっても余裕をもって業務に取り組むことにつながっている。
 また、壁一面に大きな窓を多く用いているほか、建物内に自然光を採り入れるために光庭と呼ばれる中庭を設置しており、日中は照明を使用しなくてもやさしい自然光がふんだんに差し込む。4カ所ある光庭はそれぞれに趣の違った植栽がされており、見た目にも美しいつくりである。

                
 ▲ 1 階にあるラウンジは、天井が高く広々とした空間。ケアハウスの入居者の食堂にもなっている。 ▲ 施設内に4 カ所ある光庭はそれぞれに違った趣があり、日中は照明をつけなくても十分な明るさがある。

 「大きな窓や光庭を設けることで、ただ明るいだけでなく、ガラス張りの廊下の向こう側も見渡すことができ、施設内のどこにいても常に人の気配や動きを感じることのできる開放的な設計となっています。人の気配を感じることは入居者さんに安心感を与えますし、転倒など事故の起きた際に早期に発見しやすいといったメリットもあります」(川瀬事務長)。
 施設内には至るところにテラスを設置しており、入居者ごとにお気に入りの場所があるという。海を眺めながら気のあう入居者同士で会話を楽しんだり、読書する光景が日常となっている。なお、施設から見える関門海峡は国際航路で、1日700隻もの船が行き交うという。潮風にあたりながら、時間の経過とともに変わりゆく景色や船を眺めているだけでも心が和む。

                    
 ▲ 施設内の至るところに設けられたテラス。心地よい潮風にあたりながら時間ごとに変わる景色や、海峡を行き交う船を眺めるなど、ゆったりとした時を過ごす。 ▲ 海側に面した階段はガラス張りで見晴らしもよい。

 入居者が自然と歩きたくなる施設設計


 このような心地よい空間であることは、利用者にさまざまなよい影響を与えている。
 「広い施設内には景色を楽しむポイントがたくさんあるほか、120点におよぶ絵画がいたるところに飾られています。利用者さんはその場所まで歩いていくので、自然とリハビリになっています。入居時には歩行器を使用していた方が、1年後には歩行器なしで歩けるようになったり、なかには要介護度が改善し、自宅に帰られたというケースもあります。また、当施設は地域住民へ施設を全面開放しているほか、全国からの視察・見学も積極的に受け入れており、年間1000人もの見学者が訪れます。外部の人から見られる機会が多いことで、入居者さんは自然と身なりに気を遣い、姿勢がよくなることは、当施設ならではだと思います」(斎藤常務理事)。
 入居者にとって大きな楽しみとなる食事にもこだわり、「真空低温調理」システムを導入している。真空低温調理法は食材や調味料を真空包装し、低温加熱する調理方法で、真空状態で調理するため衛生的であるだけでなく、素材本来のうまみを引き出しながら栄養素も損なわず、柔らかくジューシーに仕上がるという。調味料の浸透率もよいため、塩分や糖分を控えることもできる。松涛会グループのセントラルキッチンで調理し、各施設で仕上げを行っており、地元の食材を使ったおいしい食事を提供している。


 防災拠点型地域交流スペースではイベントを定期開催


 施設内には災害時に地域住民の避難場所となる防災拠点型地域交流スペースがあり、災害時以外には多目的ホールとして使用している。
 「当法人の理事長はクラシック音楽に造詣が深いこともあり、ホールには世界的に名高いピアノや高品質の音響設備を備えており、入居者の映画鑑賞会や職員研修に使用しています。現在、社会福祉法人には、地域交流・地域貢献活動が求められていますが、当施設では開設当初から施設開放をしており、地域住民に向けたコンサートやイベント等を定期的に開催するなど、地域の文化的拠点としても親しまれています」(斎藤常務理事)。
  そのほかにも開設当初からの地域貢献の取り組みとして、利用者に美しい景色を楽しんでもらうとともに地域の景観を守るため、毎週木曜日に海岸清掃を行ってきた。海が時化ると国内はもとより海外からのゴミや流木、海草が打ち上げられるのだという。周辺環境との調和や清掃活動が評価され、下関市景観賞特別賞も受賞している。
 さらに同施設は遠方からの家族やボランティアの来所が多いことから、面会に来た家族等が宿泊できるゲストルームも設けている。リビング、和室、キッチン、バス、トイレなどを完備し、まるでリゾートホテルのような造りとなっている。入居者と一緒に泊まることも可能で、宿泊料金は1人2980円とリーズナブルな設定のためリピーターも多い。また、入居者のお祝い会や同窓会も行われる。このようなゲストルームをつくることで頻繁に家族が泊まりの面会に訪れ、それが入居者の喜びにつながると考えている。家族からも「自分が施設に入るならここに入りたい」という声が寄せられる。


                
 ▲ 災害時の避難場所となる防災拠点型地域交流スペース。世界的に名高い「スタンウェイ」のピアノや高品質の「タンノイ」の音響設備を備え、地域住民に向けたコンサートや入居者の映画鑑賞会を行うなど、さまざまなイベントに使用する。 ▲ 入居者の家族が宿泊できるゲストルームを設置。リゾートホテルのような設えになっており、入居者と宿泊もできる。

 「おかげさまで『フロイデ彦島』は、ご利用者やご家族から、非常によい評価をいただいていますが、当グループの施設運営の理念である“癒しと安らぎの環境づくり”を実践しているのに過ぎません。 “癒しと安らぎの環境づくり”の原点は、基本的なことですが、徹底した清掃を行い、まずは匂いをなくすことから始まります。どんなに家庭的な雰囲気や、おいしい食事を提供したとしても施設や病院特有の匂いがあっては意味がないのです。施設運営の理念は、グループのすべての施設に浸透し実践していますが、このような環境がないと本当の施設運営はできないと考えています」(川瀬事務長)。
 さらに、地域のニーズにあわせて事業展開する同法人は、昨年12 月に市内の金毘羅地区に「フロイデ金毘羅」を開設した。特別養護老人ホーム、小規模多機能型居宅介護事業所、グループホーム、サービス付き高齢者向け住宅を併設しており、「川上から川下までの多機能複合施設」をコンセプトに、元気な高齢者から多様な介護サービスを必要とする人のケアと、同一建物での住み替えも可能な施設となっている。
 「自分が住みたい施設」、「癒しと安らぎのある環境づくり」を実践する同法人の取り組みが今後も注目される。


常に向上心をもって質の高いサービスにつなげる
社会福祉法人松涛会 常務理事 フロイデ彦島 施設長 斎藤 英樹氏

 平成17 年に開設したフロイデ彦島は、松涛会グループが長年培った医療・福祉サービスへの想いや“癒しと安らぎの環境づくり”のノウハウを注ぎ込んだ施設となっています。建築業協会賞を受賞するなど、よい評価をいただいていますが、常に向上心をもって当施設から情報発信できるようにしていきたいと考えています。
 複合型施設のメリットには、連携が図りやすいことで利用者さんの安心につながるだけでなく、スタッフ同士が助けあいながら担当外の業務を経験できることがあげられます。当法人では事業所間の積極的な配置転換も行っていますが、さまざまな経験をしたスタッフはケアに対する視野も広がり、新しい取り組みにも挑戦できるので、それが結果的に利用者さんへの質の高いサービスにつながっています。
 今後も現状に満足することなく、社会福祉法人の役割として地域の求めるニーズに対応し、地域とともに歩んでいきたいと思います。

<< 法人概要 >>
     
法人名 社会福祉法人松涛会
理事長 斎藤 正樹 氏施設長 斎藤 英樹 氏
施設開設  平成17年10月
(WAM福祉貸付事業利用)
職員数 1053人(グループ全体)
併設施設・入所定員 ケアハウス(定員50人)/グループホーム(定員18人)/デイサービスセンター(定員30人)/ホームヘルパーステーション/居宅介護支援事業所/防災拠点型地域交流スペース
関連法人 医療法人社団松涛会
電話 083−261−5539 FAX 083−267−1188
URL http://www.syoutoukai.or.jp/freude_hikoshima/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年6月号に掲載されたものです。
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