「障害者総合支援法」制定までの経緯と概要について
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(1)障害者総合支援法の制定までの経緯

 2009(平成21)年の政権交代後、障害者制度の集中的な改革を行うために、同年12月には内閣総理大臣を本部長とする「障がい者制度改革推進本部」が内閣に設置されました。またその下では、障害者施策の推進に関する事項について意見を求めるために、障害当事者や障害者福祉に関する事業に従事する者及び学識経験者等で構成される「障がい者制度改革推進会議」が開催され、障害者制度の見直しに向けた検討が始められました。この会議では、障害者に関するさまざまな制度の改革について議論が行われ、その意見として「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」が取りまとめられました。そして、この意見を踏まえ、政府は「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」を、2010(平成22)年6月29日に閣議決定しました。
 この閣議決定では、「応益負担を原則とする現行の障害者自立支援法を廃止し、制度の谷間のない支援の提供、個々のニーズに基づいた地域生活支援体系の整備等を内容とする『障害者総合福祉法』(仮称)の制定に向け、第一次意見に沿って必要な検討を行い、2012(平成24) 年の通常国会への法案提出と、2013(平成25) 年8月までの施行を目指す。」こととされました。この障害者総合福祉法(仮称)については、2010(平成22)年4月に障がい者制度改革推進会議の下に設置された「障がい者制度改革推進会議総合福祉部会」(以下「総合福祉部会」という。)において、新法制定への検討が始められました。

  総合福祉部会障がい者制度改革推進会議障がい者制度改革推進本部

 総合福祉部会では、2011(平成23)年8月までに18回の議論が行われ、同月30日に「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言−新法の制定を目指して−」が取りまとめられました。また、この議論が行われている間に、障がい者制度改革推進会議での議論等を踏まえ、障害の有無にかかわらずすべての国民が共生する社会を実現するため、個々の障害者等に対する支援に加えて、地域社会での共生や社会的障壁の除去を始めとした基本原則を定めること等を盛り込んだ、「障害者基本法の一部を改正する法律」が2011(平成23)年7月に成立しました。

 総合福祉部会による提言や改正障害者基本法等を踏まえ、厚生労働省において新たな法律の検討が進められ、与党での議論も経て、2012(平成24)年3月13日に「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律案」が閣議決定され、同日国会へと提出されました。
この法律案は、衆議院において政府案に一部修正が加えられたのち、同年4月18日に衆議院厚生労働委員会で、同26日に衆議院本会議でそれぞれ可決されました。なお、衆議院での修正のポイントは、@障害程度区分を障害支援区分に見直すこと、A障害者の意思決定支援を明確化すること、B地域生活支援事業に関し都道府県と市区町村の役割分担を明確にすること等でした。
 その後、同年6月19日に参議院厚生労働委員会で、翌20日に参議院本会議でそれぞれ可決され、「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」が成立し、同27日に公布されました。

(2)障害者総合支援法のポイント

 2012(平成24)年6月27日に公布された「地域社会における共生の実現に向けて新たな障害保健福祉施策を講ずるための関係法律の整備に関する法律」(平成24年法律第51号)により、従来の障害者自立支援法は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」(通称:障害者総合支援法)となりました。その主な内容は次のとおりです。

@目的・基本理念

 目的規定において、「自立」という表現に代わり「基本的人権を享有する個人としての尊厳」と明記され、障害者総合支援法の目的の実現のため、障害福祉サービスよる支援に加えて、地域生活支援事業その他の必要な支援を総合的に行うこととなります。また、2011(平成23)年7月に成立した障害者基本法の改正を踏まえ、新たな基本理念が法律に規定されました。

A障害者の範囲の見直し

 障害者自立支援法では、支援の対象が身体障害者、知的障害者、精神障害者(発達障害者を含む)に限定されていましたが、障害者総合支援法では一定の難病の患者が対象として加えられました。一定の難病とは、「難治性疾患克服研究事業」の対象である130疾患と関節リウマチとしています。難病の患者への福祉サービスにつきましては、これまでは補助金事業として一部の市区町村での実施にとどまっていましたが、障害者総合支援法の対象となることにより、すべての市区町村での実施が可能になりました。

B障害支援区分への名称・定義の改正

 現在の「障害程度区分」が知的障害、発達障害、精神障害の状態を適切に反映していないとの指摘を踏まえ、障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示すものとして「障害支援区分」へと改正されました。
 特に、知的障害及び精神障害につきましては、コンピューター判定(一次判定)で低く判定される傾向がありました。そのため、新法では区分の制定にあたり適切な配慮その他の必要な措置を講じています。

C障害者に対する支援の見直し

 障害者の高齢化・重度化に対応するとともに、住み慣れた地域における住まいの場の確保の観点から、「共同生活介護(ケアホーム)」は「共同生活援助(グループホーム)」に一元化されました。また、グループホームにおける新たな支援形態としまして、外部サービスの利用によるサービスが可能な「外部サービス利用型」が設定されました。「重度訪問介護」及び「地域移行支援」は、それぞれ利用対象が拡大されました。重度訪問介護は、これまでは重度肢体不自由者が対象のサービスでしたが、新たに重度の知的障害者及び精神障害者も利用可能となりました。地域移行支援につきましては、これまでは施設に入所している障害者及び精神科病院に入院している精神障害者が対象のサービスでしたが、「地域における生活に移行するために重点的な支援を必要とする者」も対象に追加されています。

D地域生活支援事業の見直し

 法律の目的に、地域生活支援事業による支援を行うことが明記されたことを受けて、市区町村及び都道府県が行う地域生活支援事業の必須事業に新たな事業が追加されました。
 市区町村が実施する地域生活支援事業の必須事業としては、

  • 障害者に対する理解を深めるための研修・啓発
  • 障害者やその家族、地域住民等が自発的に行う活動に対する支援
  • 市民後見人等の人材の育成・活用を図るための研修
  • 意思疎通支援を行う者の養成(手話奉仕員の養成を想定)

が追加されました。
 都道府県が実施する地域生活支援事業の必須事業としては、

  • 意思疎通支援を行う者のうち、特に専門性の高い者を養成し、または派遣する事業(手話通訳者、要約筆記者、触手話及び指点字を行う者の養成または派遣を想定)
  • 意思疎通支援を行う者の派遣に係る市区町村相互間の連絡調整等広域的な対応が必要な事業

が追加されました。

Eサービス基盤の計画的整備

 障害福祉計画に必ず定める事項に「サービス提供体制の確保に係る目標に関する事項」と「地域生活支援事業の種類ごとの実施に関する事項」を加えるほか、いわゆるPDCAサイクルにそって障害福祉計画を見直すことを規定する等、サービス提供体制を計画的に整備するための規定が設けられました。
 また、自立支援協議会の名称につきましても、地域の実情に応じて定められるようにするとともに、当事者や家族の参画が法律上に明記されました。

F検討規定

 障害福祉サービスのあり方や支給決定のあり方等幅広い内容について、法律の施行後3年を目途に検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずることが規定されます。具体的には、

  • 常時介護を要する障害者等に対する支援、障害者等の移動の支援、障害者の就労の支援その他の障害福祉サービスのあり方
  • 障害支援区分の認定を含めた支給決定のあり方
  • 障害者の意思決定支援のあり方
  • 障害福祉サービスの利用の観点からの成年後見制度の利用促進のあり方
  • 手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援のあり方
  • 精神障害者及び高齢の障害者に対する支援のあり方

等について検討が行われます。また、検討に当たっては、障害者等及びその家族その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずることとされています。

出典:厚生労働省資料



監修者 山本雅章 調布市 子ども生活部部長
      鈴木雄司 東京福祉大学社会福祉学部 保育児童学科教授