サービス取組み事例紹介
トップ

医療法人社団 心司会

医療と介護の一体提供で家族の生活が成り立つ在宅生活支援を構築 介護老人保健施設しょうわ

訪問日 平成25年8月12日
埼玉県春日部市の医療法人社団心司会・介護老人保健施設しょうわは、「在宅生活支援は家族の支援」という考えから、家族の生活が成り立つ介護サービスをつくることで、平均在所日数の短縮や在宅復帰率の向上などの成果をあげている。その取り組みを取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成25年10月号に掲載されたものです。

定員200人の大規模デイケアを運営


 高齢者の在宅復帰、在宅生活支援を目的につくられた介護老人保健施設は、近年在所日数が徐々に長くなる傾向がみられる。現在、国の進めている地域包括ケアシステムでは可能な限り在宅で暮らすことを目指しており、老健施設には本来の機能を果たすことが求められている。
 平成10年に設立された埼玉県春日部市にある医療法人社団心司会は、介護老人保健施設と2つのクリニックを開設。定員200人の大規模デイケアを運営し、介護老人保健施設の平均在所日数は約60日、在宅復帰率は90%を超えるなど老健のあるべき姿を実現している。


▲介護老人保健施設しょうわ外観

 同法人では、老健施設の機能で最も重要なことは在宅生活支援であるとし、「家で死ぬ」という理念を掲げている。「家」とは、その人の生きざまを指し、「その人らしく生き、その人らしく最期を迎える、家族はゆとりとよゆうを持って後悔しない介護をする」ことを目指している。そのために、これまでの介護の常識を否定し、介護を受ける側の常識で考える「非常識な介護」、生活すべてがリハビリであるという考えから「24時間365日がリハビリ」、「たのしいが前提です」、「みんな笑顔で暮らしたい」を実践してきた。
 老健を開設した経緯について、同法人理事長の佐藤龍司氏は次のように語る。
 「かつての認知症の治療は、騒げば身体拘束をするなど寝たきりにし、在宅では診られない状態をつくり出してきました。そのような本人を家族はみたくありません。しかし、医療者は介護できない状態を作っておいて在宅介護ができないことをすべて家族のせいにしていました。そこで、『これならみることができるかもしれない』と思えるようなサービスをつくりたいと考えた際に、施設のなかで一番自由度が高かった老健を開設しました」。

介護を受ける側の常識で考える


 3階建ての同施設の1階はデイケアのホールが入り、入所者も通所者も利用可能である。平成23年には、介護保険では十分なサービスを利用できない認知症の人のため、医療保険適用の「重度認知症デイケア」も開設している。2階は一般棟(旧棟44床、新棟31床)、3階は認知症専門棟(49床)で、入所者の平均要介護度は3.7、認知症専門棟では4を超えている。


▲1階のデイケアホールには大勢の利用者が集まる


 認知症専門棟には、最も介護が難しいとされ、受け入れを拒否される前頭側頭型認知症患者が多数いるという。同施設はどこに誰がいるのか見渡せる回廊になっており、利用者は自由に行動することができる。
 「従来の介護の常識で考えると、徘徊や大声を出すことはBPSDとされますが、当施設の考え方では徘徊も散歩であり、大声を出すということは腹筋や呼吸筋を使うので誤嚥に対する訓練ととらえます。排泄も定時のおむつ交換ではなく、一人ひとりの生活パターンにあわせた誘導を行います。例えば、トイレに行きたいとナースコールを頻繁に押す方がいた場合でも、トイレへの移乗動作がリハビリの訓練になること、関係を構築する重要な行為であるとして、そのたびに連れて行きます。これが『非常識な介護』の考え方で、介護を受ける側の常識にあわせた介護を提供しています」(佐藤理事長、以下同じ)。
 療養室の居室は、早く在宅に戻ることを目標にしているため、余計なものは一切置かれていない。ベッドサイドに座り替えを行う際に使用する台が設置してあるだけで、私物もできるだけ持ち込ませない方針としている。従来の施設では、利用者は居室で寝ていたり、テレビを観て過ごす光景を目にするが、同施設では日中を居室で過ごす利用者はいない。このような環境をつくるために、さまざまな楽しい活動が用意されている。

 ▲認知症専門棟でも利用者は自由に行動することができる  ▲一般棟の居室。楽しいイベントが用意されるため、利用者が居室で過ごすことはない


生活のすべてをリハビリにつなげる


 活動では、茶道、書道、陶芸、木工など20種類以上の作業療法をもとに、さまざまな活動を行う「アクティビティリハビリテーション」を実践している。利用者にとっては楽しいことが前提であり、本人にリハビリの意識はなくても、楽しく参加するだけで機能の維持・向上や脳の活性化、精神状態の安定などのリハビリ効果が期待できる。同施設では一芸職員とよばれるそれぞれの活動の専門職員がついており、陶芸では麻痺がある利用者がろくろを回していたり、木工で90歳の利用者が彫刻刀を使用している。これらの活動は、本格的な環境を用意しなければ本気にならないと考えている。なお、活動には入所・デイケアに関係なく自由に参加できる。
 ホール中央にはグランドピアノがあり、ここでも音楽の一芸職員により一日中演奏が行われている。また、毎月1回、夜にピアノなどの生演奏を聴きながらキャンドルの灯りで食事やお酒を楽しむ「しょうわバー」を開催しており、好評だという。この日はショートステイを利用し、こころゆくまで飲む利用者も多くいるという。


▲本格的なコーヒーも楽しめる喫茶コーナーでは、栄養管理も行われている  ▲茶室コーナーでは抹茶、煎茶、中国茶が楽しめる

 また、デイケアホールの一角には施設で働く職員の子どもを預かる託児室があり、90人の登録がある。職員が安心して働けるだけではなく、利用者が子どもとふれあうことで笑顔になるなど刺激を受けている。さらに、同施設では犬やニワトリ、ヤギなどを飼っていて、犬はホール内を自由に歩きまわり利用者に寄り添っている。動物にエサをあげたり、撫でたいという欲求が「立ちたい」、「歩きたい」というリハビリへの意欲にも結びついている。なお、同法人では1人の職員が、さまざまな業務に携わる事を方針としているため、託児室の保育士も利用者の食事やトイレの介助を行っている。


▲ホールの一角に職員の子どもを預かる託児室を設置。利用者と子どもがふれあっている

 ほかにも利用者と職員が一緒に料理をする「お料理会」が毎日開催され、自らがつくった料理を昼食にすることができる。同施設の昼食は「お料理会」のほか、通常の食事、バイキング形式の食事形態が用意されているが、一人ひとりの嚥下状態を確認したうえで選択が可能となる。バイキング形式では食べたい料理や量を考えるだけでも認知機能訓練になり、バランス、歩行などさまざまな機能の訓練になる。また、職員が作成した移動式の調理台を広いホールで使い、利用者の前で調理することで匂いや音を楽しんでもらう工夫もしている。


畳台に座ることで姿勢がつくられる


 同施設で印象的なことのひとつに、利用者の姿勢がよいことがあげられる。そこには普段使用しているいすに秘訣があるという。高齢者がいすに座る場合、多くは背もたれに寄りかかってしまい、移動する姿勢になっていない。この状態から身体を起こすことは難しくなる。そのため、施設内のいすは、職員が作成した畳台を使用している。後ろに倒れないように前方に重心を移すことで、足にしっかり力が入り、立つ姿勢にそのままつながるという。地面に足をつけているため筋力の保持にもなる。また、畳台は3人掛けの設計にしているが、そこにも狙いがある。他の利用者も座る際に、腰を浮かせて横にずれる動作がトイレなどの移乗と同様の動作なのだという。このように、本人に訓練と意識させない、日常の生活のなかで自然とリハビリにつながる工夫が施設のいたるところに施されている。
 「当施設では、車いすで過ごしている利用者は少数です。他の施設では、本当は歩くことや座ることができるのに車いすに座らせたままにしていることが多くみられます。例えば食べるという動作の場合、口の中だけでとらえてしまいますが、座る姿勢や立つ姿勢などができて初めて食べることができます。正しい姿勢をつくっていくことが重要であり、それができれば自然と食形態が改善し、座ることも歩くこともできるようになります」。
 また、施設での入浴は在宅介護を継続していくうえで家族の負担軽減につながる重要な要素となるが、同施設は3フロアで9セット18槽の個人浴槽が設置され、毎日入浴することも可能である。頻繁な入浴で看護師による利用者の皮膚状態の観察もでき、褥瘡などの早期発見・治療にもつなげている。

 ▲同施設で使用される畳台。座って活動するだけでもリハビリ効果が期待できる  ▲浴室は大浴場をはじめ9つ設置され毎日でも入浴可能。写真は同法人で考案した左右一対になった、麻痺があっても座って入浴可能な浴槽

 

発熱や感染症があっても受け入れ可能


 在宅介護ができない理由として、「老老介護」、「子ども世代の共働き」、「親の介護のために仕事を辞めることができない」などがあげられる。
 そのため、より利用しやすくなるよう、同法人のデイケアでは土日も開所しているほか、朝7時から夜7時の早朝・延長デイケアも導入している。発熱時だけでなくインフルエンザやノロウイルスといった一般的な感染症の発症時、夜間の入所も受け入れている。また、最低3カ月に1度はすべての利用者を診察し、体重、栄養状態や血液データを管理している。
 「体調を崩した利用者を、家族が在宅でみることは容易ではありません。さらに認知症の場合、病院に受け入れてもらえないこともよくあります。それなら医師がいる老健が代替機能として医療提供すればいいことです。『熱が出たので病院に連れていってください』といわれるのと、『熱が出たので治療しましたが、まだ下がらないので泊めてもいいですか』といわれるのでは家族の負担はまったく違います。医療と介護の連携は必要ですが、連携になるとたらい回しが起きる可能性がでてくるので、一体提供できる仕組みが必要になります。これができて初めて本人・利用者が安心することができると考えています」。


家族を身体的拘束感から解放する


 デイケアの利用者は400人以上が登録されているが、そのうちの9割近くは佐藤理事長が主治医となる。かかりつけ医の機能で病院と連携を図るといわれるが、本当は家族のニーズにあったサービスを提供していない施設側に問題があると佐藤理事長は語る。そもそも自分で診療所に行けるような人は施設を利用しないという。それなら医師が常にいて、いつでも診察ができる老健がかかりつけ医の機能を発揮すれば医療コストを抑えることも可能だとしている。また、看取りも行っており、施設・在宅をあわせて年間40人ほどを看取っている。
 「在宅介護サービスというと訪問介護、訪問看護、訪問リハ、訪問入浴、往診があげられますが、これをやっていると利用者・家族が家から出ることができなくなってしまいます。デイケアを利用すれば、外へ出る環境がありながら介護、看護、リハビリを受けることはもちろん、医師が常駐しているのでいつでも診察ができ、入浴までのすべてを済ませることができます。家族の生活が成り立つケアプランを臨機応変に立て、家族の介護による心理的負担、身体的拘束感から解放することで在宅介護が実現できると考えています」。
 医療と介護を一体提供できる仕組みを構築し、利用者・家族が安心できる在宅生活支援を提供する、同法人の取り組みから目が離せない。


在宅介護をするために老健での医療提供は必要

 医療法人社団 心司会 理事長 佐藤 龍司氏

 今までのリハビリは障害が発生したら、いかにとり除き小さくしていくかを考えるものでした。しかし、健康な人や急性期と違い、高齢者の老化や脳卒中にともなう障害は元には戻りません。当法人のデイケアは、それよりももっとできること、楽しめることを増やしていこうという発想で行っています。関節可動域訓練よりも畳台に座って楽しく会話をしたり、きちんとした姿勢で食事をとる動作の方が、リハビリテーション効果は高いと考えています。
 また、よくデイケアとデイサービスは混同されることがありますが、デイサービスはあくまでサービスであり、デイケアは医療ですから、そこには医学管理が常に必要で、何かあれば治療がついてきます。しかし、これまでの老健施設では医療提供ができるにもかかわらず、医療費が持ち出しになる等を理由に治療をしないところがありました。当施設では、発熱や一般的な感染症の発症時でも受け入れし、施設できちんと治療していますが、次の利用につながるので長い目でみれば利益は上がります。
 このように医療と介護を一体的に提供できる仕組みをつくることができれば、利用者・家族も安心して在宅介護を続けることができると考えています。


<< 法人概要 >>
法人名 医療法人社団 心司会 理事長 佐藤 龍司 氏
法人施設 介護老人保健施設しょうわ(ショートステイ・入所定員:一般棟75人、認知症専門棟49人/デイケア定員200人)/クリニックしょうわ(精神科、心療内科、老年内科、リハビリテーション科)/サテライトクリニックしょうわ(精神科、心療内科)
設立時期 平成10年 職員数 320人(平成25年8月現在) 
電話 048-718-2111 FAX 048-718-2115
URL http://www.showa.or.jp


※ この記事は月刊誌「WAM」平成25年10月号に掲載されたものです。
  月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。