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社会福祉法人なゆた

地域の中でありのままの姿で当たり前に暮らせる場所

平成27 年4 月に設立した社会福祉法人なゆたは、利用者一人ひとりの特性にあった就労支援を行うことで、生きがいや人から必要とされる喜びにつなげる支援を実践するほか、障害者たちの存在をありのままに受け入れてもらえるコミュニティプレイスの創設を目標として活動している。その取り組みを取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成27年8月号に掲載されたものを更新して掲載しています。

NPOから社会福祉法人へ法人格を移行


 千葉県浦安市にある社会福祉法人なゆたは、「安心(Safety)・笑顔(Smile)・成長(Step up)」の3Sを行動指針に掲げ、個性ある障害者たちの存在を地域でありのままに受け入れてもらえるコミュニティプレイスの創設を目指すとともに、利用者一人ひとりの特性にあった就労支援を行うことで、生きがいや人から必要とされる喜びにつなげる支援を実践している。

 同法人の設立のきっかけは、理事長の井手上用子氏が自閉症の息子のために、中学校時代の特別支援学級在学時に思春期の障害児を抱える保護者の会「ガッツ」を立ち上げたことに始まる。浦安市は卒業後の福祉就労の場が不足している状況にあり、保護者の会で施設見学に訪れた船橋市の障害者就労施設に相談したところ、「サポートするので自分たちでNPO法人を立ち上げてみては」という助言を受けたことでNPOの設立を決意。保護者の会のほか、紹介を受けた団体や学校の先生のサポートを受け、平成22年12月にNPO法人を設立し、平成27年4月から社会福祉法人へ法人格を移行した。
 現在の事業は、日中一時支援(定員15人)、放課後等デイサービス(定員10人)、就労継続支援B型(定員14人)、生活介護(定員6人)、短期入所(定員3人)を運営している。

▲ 「なゆた」の外観

さまざまなプログラムを選択できる環境をつくる


 日中一時支援や放課後等デイサービスの活動では、講師を招いて音楽療法やダンス、アート習字など、さまざまなプログラムを用意するほか、外出プログラムが多いことが特徴となっている。


 ▲ 日中一時支援や放課後等デイサービスの活動では、音楽療法やアート習字など、さまざまな
プログラムを用意し、選択できる環境をつくる。

 同法人で実施する活動プログラムについて、井手上理事長は次のように語る(以下、「 」中は井手上理事長の説明)。
 「当法人の利用者は主に身体・知的障害者ですが、利用者が社会と接点をもつことを大切にしており、施設外へ出かける活動プログラムが多いことが特徴になります。公民館を借りて運動をしたり、ボウリングやカラオケなどにも毎月出かけていますし、月2回ほど福祉バスを借りて体験学習を実施しています。保護者や支援する側が『できない』と決めつけてしまうことがあるのですが、経験を積み重ねることで年齢に関係なく、利用者は成長を続けていきます。趣味や関心の幅が広がるようにさまざまなプログラムを用意し、利用者に選択してもらえる環境をつくっています」。


 ▲ 多くの外出プログラムを実施しており、ボウリングやカラオケなどにも毎月出かける。  ▲ 地域のゴミ拾い等の活動にも積極的に取り組む。

 体験学習には多くの申し込みがあり、なかにはマンツーマンで職員を配置する必要のある利用者もいるため、ボランティアなどの協力を受けて実施しているという。


工賃向上を目的に菓子の製造販売を開始


 就労継続支援B 型では、地域新聞の折り込みやメール便の配布、空き缶リサイクルなどの作業を実施しているが、平成25年4月からは利用者の工賃向上を目指し、菓子の製造販売を開始している。菓子は「えがおのおやつ」というブランド名で販売している。また、平成28年4月にはカフェをオープンさせており、地域と法人をつなぐコミュニティスペースとしてゆったりした空間を楽しんでもらっている。


 ▲ 「えがおのおやつ」

 ▲ 地域のコミュニティスペースとしてカフェを運営している。

 菓子製造における作業内容は、計量や粉を練る、焼くなどさまざまな工程に分けられるため、利用者ごとの特性により各作業をマッチングしている。例えば自閉症の人はこだわりが強い傾向にあるため、計量が得意であるというように、利用者一人ひとりの個性や長所を活かせる作業に配置しやすい面があるという。
 さらに、「えがおのおやつ」は、商品の質にもこだわっている。
 「一般的に福祉施設でつくっている菓子は、シンプルで味気ないという印象がありました。『障害者が頑張って作ったから買ってあげよう』と思われるのでは、その先につながりません。そのため、商品企画のコンサルタントに依頼し、おいしさや包装のデザインにもこだわり、リピーターになっていただける商品を目指しています。」
 また、製造だけでなく、利用者は商品の販売・納品にも携わっており、事業所の前に設置したログハウスの販売所や、駅前にある行政施設の飲食店で対面販売を行う。そのほかにも、近隣にある順天堂大学浦安病院の売店をはじめ、さまざまな場所で商品を置いている。
 「障害をもつ人たちがありのままの姿を受け入れてもらい、当たり前に暮らしていける地域を目指していますが、そのためにも利用者が働いている姿を知ってもらうことは非常に大事なことです。施設のなかだけではそのような環境をつくることはできないので、販売で地域とつながりをもつことは大きな意味があると考えています」。

 ▲ カフェも地域とのつながりづくりの場に   ▲ 製造した菓子を外販する様子。すべての利用者が職員と同行し、商品の販売・納品に携わる

 そのほかにも、平成27年7月から浦安市の「ごみゼロ課」との提携で、小型家電のリサイクル事業を開始している。公民館などに回収ボックスを設置し、各家庭から出される小型家電を回収・分解する事業で、同法人が中心となり市内の福祉事業所と連携して実施している。
 ▲ 浦安市と連携して小型家電の回収を行っている   ▲ 家電回収や菓子製造・販売の他に内職作業も行う


 なお、同法人の就労継続支援B型で支払う工賃は時給制となっており、利用者の作業能力による「できる・できない」で差をつけるのではなく、一律に分配する方式をとっている。自分で働いて収入を稼ぐことで生きがいにつながったり、人から必要とされることで自信を深めていくなど、利用者の成長を実感する場面が多くみられるという。


平成27年12月に新しい事業所を開設


 同法人はWAM福祉貸付と浦安市の補助金を活用し、平成27年12月に事業所を移転新築している。新しい事業所はバリアフリーで木の温もりが感じられる木造2階建てで、施設設計にあたっては、利用者や職員にとって心地よい空間で過ごしてもらえるようゆったりとしたつくりとなっている。
 実施する事業については、日中一時支援の定員を10 人から15人に増やすとともに、新規事業として、生活介護と短期入所を開始している。
 「よりきめ細かい支援を行うために、生活介護事業を新たに始めましたが、余暇活動を中心とする場所にするのではなく、就労継続支援B型の作業のなかで、できることは一緒に行い工賃も同じように支払う」ことを目標に日々支援している。
 短期入所は浦安市に1カ所のみであり、緊急時の受け入れのほか、将来のグループホームへの入居に向けた、自宅以外の宿泊を訓練する場として提供している。
 また、「えがおのおやつ」が、地域に少しずつ認知されてきたことで、注文を受ける機会が増えてきている。これまでは製造を担当する利用者が少ないことや厨房が狭いなどの理由から、商品の大量生産が難しい面があり対応できないケースがあることが課題であった。移転後は厨房が広くなり、利用者の定員も増えることで、多くの注文が入っても対応できている。


地域住民に向けてオープンな施設を目指す


 さらに新しい事業所では、地域住民に開放するカフェやイベント等を開催できるスペースを設けており、地域にオープンな施設にしていくとともに、積極的な地域交流を行うことを目指す。
 「カフェだけで人を呼ぶのは難しいと思いますが、地域のなかには高齢者や子育て世代などによる多くのサークル活動がありますので、その方たちにイベントスペースを貸し出したり、イベントを一緒に開催するなど、まずは地域の方に施設に足を運んでもらうことから始めていきたいと考えています。そこからさまざまなつながりが生まれていけば、地域の方のニーズも知ることができますし、互いに支えあえる関係をつくることもできるのではないかと思っています」。
 法人の課題については、リーダーとなる職員の育成とともに、情報共有を行う組織体制の構築をあげている。同法人ではこれまで事業規模が小さいこともあり、井手上理事長が見渡せる範囲で職員の教育・管理をしてきたが、職員・利用者とも増えてきたことを受け、各事業に配置したリーダーによる指導を始めたところだという。
 「障害者の就労支援では、利用者をよく知りじっくりと待つことが大切になりますが、いつまでも待てばいいというわけではなく、その見極めをしていくことが私たちの役割になります。そのためにも、職員間で情報を共有する体制を早急に整備する必要があると考えています」。
 なお、社会福祉法人へ移行する際、理事・評議員などの選定が難しいケースがある。同法人の場合、もともとNPO時代からつながっていた保護者や地域の民生委員、特別支援学校の関係者に入ってもらうことで、スムーズに組織体制をつくることができたという。


新たな仕事を生み出し工賃向上に力を入れる


 今後の目標は、地域の人に足を運んでもらう機会をつくるとともに、職員一人ひとりが”ぶれない支援“をしていくことだという。利用者・家族からは、「いつまでも同法人で働き続けたい」という声が寄せられている一方で、「毎日の積み重ねで仕事の精度があがり、一般就労へ移った方が本人のステップアップにつながるのではないか」と悩むこともあるという。
 利用者一人ひとりの特性にあった就労支援を行うとともに、障害者たちの存在をありのままに受け入れてもらえる地域を目指す、同法人の取り組みが今後も注目される。

 ▲ 多機能型事業所なゆたぐりん
    保護者参加型日帰りレクリエーション
    (ココファームにて)

地域にオープンな施設を目指す
社会福祉法人なゆた 理事長 井手上 用子氏

 当法人では、障害の種類や有無に関係なく、利用者一人ひとりの特性にあった作業を行うことで、働く喜びや人から必要とされる喜びを感じながら、笑顔で豊かな生活を送ってもらえることを目的としています。
 また、地域にオープンな施設を目指し、障害をもつ人たちのことを知ってもらうことで、ありのままの姿を受け入れてもらい、当たり前に暮らしていける地域になっていけるよう当法人から発信していきたいと考えています。  今年12 月に完成する新しい施設では、事業を拡大するほか、地域に開放するカフェや、イベントなどに貸し出しができるスペースを設けました。地域のなかには高齢者や子育て世代などのサークル活動が多くありますので、その方たちとコラボレーションしたイベントを開催することで、地域交流の機会をつくるとともに、互いに支えあえる関係性を構築していきたいと思っています。


<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人なゆた
理事長 井手上 用子 氏
法人設立 平成27 年4 月 職員数 34 人(非常勤含む)
事業および
関連施設
「なゆた」日中一時支援(定員15 人)/「なゆたぐりん」放課後等デイサービス(定員10 人)、就労継続支援B 型(定員14 人)、生活介護(定員6 人)、短期入所(定員3 人)
電話 047−325−9141 FAX 047−325−9142
URL http://nayuta.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」平成27年8月号に掲載されたものを一部更新して掲載しています。
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