活動的な生活に欠かせない、良質な睡眠
本シリーズもいよいよ最終回となりました。今回は「寝る姿勢」について解説します。
人の一生を80年とした場合、そのうち28年は眠っているというと驚かれる人もいるでしょう。つまり、人生の3分の1は寝ているのです。「寝たきり」「寝かせきり」は良くないという事実は、一般の方にも広く浸透してきました。しかし、活動的な生活には、良質な睡眠を確保することが重要です。人は眠るためだけに寝る姿勢をとっているわけではありませんが、寝ている姿勢は心身機能や良質な睡眠、日中の活動にとって非常に重要な要素となってきます。
寝返りできない方への支援
それでは、寝る姿勢について具体的に考えてみましょう。寝る姿勢は、座る姿勢や立つ姿勢や歩行に比べて支持基底面が広く、最も安定した姿勢です。安定しているということは動きづらいということですから、寝ている姿勢を変えることは意外に大変な作業となります。
寝る姿勢には、上を向いて寝る背臥位(仰臥位)と横向きに寝る側臥位、あるいは下を向いて寝る腹臥位があります。健康な方は一晩中同じ姿勢で寝ることはなく、寝返りで姿勢を変えています。しかし、身体を自由に動かすことのできない寝たきりの方や円背の方など、同じ姿勢を余儀なく強いられる方もいます。
このような方々ができるだけ快適に寝るためには、ベッドやマットレス、掛け布団、クッション、枕、照明や室温などさまざまな環境の調整が必要となります。たとえば、マットレスやクッションの場合は、身体との接触面積を大きくし、身体の一部分に圧が集中しないようにすることが大切です。圧が集中した部分は発赤(皮膚、粘膜が充血して赤くなること)や痛みにつながり、ひどくなると床ずれ(褥瘡)をつくってしまいます(図1)。
図1 圧迫を受けやすい部位
図2のように背臥位で踵部の除圧をしたい場合、ドーナツ状のクッションは足首の部分に圧が集中し、好ましくありません。下腿部の形状に合わせられるマットレスを用いると、圧を分散させることができます。背臥位、側臥位、腹臥位いずれの場合も、支える面全体で支持できるようマットレスやクッションなどを調節することが基本です。この際、マットレスやクッションの圧を分散させる機能や通気性など、さまざまな要因を配慮することが重要となります。
図2 踵部を除圧する場合のクッションの使用例
本シリーズでは主に重心、支持基底面、圧中心点の視点で、寝返り、起き上がり、座位、座位での移動、立位、歩行の動きの解説をしました。加えて車椅子、食事、排泄、寝る姿勢を解説しました。これらの人の動きや姿勢を理解し介護することは、対象者の自立を促すために必要です。介護場面で活用してみて下さい。