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介護分野でのICT活用


 全6回に渡って、国内・海外の導入事例を解説しながら、介護分野のICT化に伴う課題や導入のポイントについてお届けします。


<執筆>
株式会社国際社会経済研究所 情報社会研究部 主幹研究員 遊間 和子 氏


第2回:介護分野のICT化のメリット

 日本も世界も、介護分野のICT活用をもっと積極的に行っていく方向に大きく舵を切っています。世の中の流れを敏感に感じ、職場で「介護の世界でも、これからは、もっとICTを活用していかなくてはいけないらしいよ」といった会話が話される機会も増えているのではないでしょうか。しかし、第1回でも強調したように、ICT導入は目的ではなく、実現したいニーズや解決したい課題があってこそのICT化です。今回は、介護の現場にICTを導入すると、どのようなメリットがあるのかを整理していきたいと思います。

ICT活用のメリット@業務の効率化

 高齢化が進むなか、介護を必要とする人は急増しています。厚生労働省・介護保険事業状況報告(年報)によれば、介護保険制度がスタートした2000年度には要支援・要介護の認定を受けた人は218万人でしたが、2014年度は約3倍の606万人にまで増えています。団塊の世代が75歳の後期高齢者になる2025年には、さらに大きく膨れ上がることになるでしょう。一方で、介護業界で働く人材の数は十分ではなく、厚生労働省が発表した2016年11月時点での介護サービス職の有効求人倍率は3・46倍で、月次集計を始めた2012年3月以降で最も高い数字となっています。
 介護人材のひっ迫は、介護事業の経営にも大きな影響を与えるまでになっています。2016年の「老人福祉・介護事業」倒産は108件と急増(図)しており、調査開始以来、最多となっています。



 倒産の原因は、同業他社との競争激化、介護報酬のマイナス改定による収益悪化や介護職員不足のなかで離職を防ぐための人件費が上昇といった理由に加え、深刻な人手不足からサービス提供が困難になり経営に行き詰ったケースもでてきています。
 一般的には、需要が供給を上回れば、サービスの価格は上昇します。しかし、介護サービスは、介護保険制度で価格が決められており、そのなかで介護職員の給与を確保しながら、経営を健全化していくためには、効率化が欠かせません。
 介護の現場でも、記録や引き継ぎ、行政への提出用とさまざまな書類作成が行われていますが、このような作業こそICTを活用し、その手間を省いていくべきです。
 例えば、訪問事業所のヘルパーが利用者宅を訪問し、介護サービスを提供した場合、通常は、一度事業所に戻り、サービス実施記録をつけていると思います。もし、ヘルパーが音声認識可能なタブレットを持参し、「入浴介助開始」と言えば、スタートした時間が、「入浴介助終了」で終了時間が記録され、サービス実施記録に自動で入力することができれば、利用者宅を出た時には記録が完成しており、ヘルパーは事業所に戻ることなく業務を終了し、自宅に直接帰宅することが可能になるかもしれません。
 データ転送ができる機能を持った体温計、血圧計、体重計などを利用者に使ってもらえば、ヘルパーが訪問している時間以外の普段の状況を、事業所のコンピュータから見守ることもできるでしょう。
 介護施設や利用者宅に、動作センサー等を設置し、行動パターンを分析することで、転倒を防止したり、夜間見回りの回数を少なくすることもできるかもしれません。
 ICTを活用することで効率化できれば、介護職員の負担は大きく軽減できます。志高く、介護の仕事についたにも関わらず、仕事は忙しく、給与も上がらない職場に疲弊してしまい、辞めてしまう。人が少なくなったので、さらに忙しくなり、ますます介護職員が定着しないという負のスパイラルに陥ってしまうことがあります。最近、「働き方改革」という言葉がニュースでもよく取りあげられ、ワークライフバランスが重要であるとの認識が高まっています。介護職員も自分自身の生活を楽しめる余裕があってこそ、仕事に注力でき、職場への定着にもつながるものと考えます。

ICT活用のメリットAスムーズな情報連携

 ICT活用の2つめのメリットは、スムーズな情報連携を可能にすることです。「地域包括ケアシステム」は、施設から在宅へといった流れを加速していますが、これを実現するためには、地域包括支援センター(行政)、医療機関、介護事業者、薬局、訪問看護ステーションといった多職種の関係者が情報連携し、患者・利用者の情報を共有していくことが重要になります。
 例えば、在宅で介護サービスを利用していたものの、体調が悪化し、一時的に病院に入院したり、退院後は、かかりつけ医の診察に加えて訪問看護も利用し、月に1度はショートステイもするといったことは普通にあることだと思います。従来のように、医療は医療、介護は介護ではなく、関係者が同じ情報を共有できるプラットフォームを利用することで、迅速かつ適切な患者・利用者情報の共有・連携を推進することができるはずです。
 スムーズな情報連携が可能になれば、メリット@にあげた効率化にも大きく貢献します。業務において、連絡や確認作業というのは、実は大きな割合を占めています。例えば、デイケアやショートステイを利用する際には、ケアマネジャーが各施設に電話をして空き状況を確認していますが、近隣のデイケアやショートステイの空き状況がデータベース化され、一覧でみることができれば、いくつもの施設に電話をするという作業が省力化できるはずです。

ICT活用のメリットBデータ活用による質の向上

 ICT活用の3つめのメリットは、データ活用による質の向上です。医療の現場でも、介護の現場でも、患者や利用者の膨大な量の情報が日々蓄積されています。紙ベースで記録されていたものは、その場限りでの利用となりがちですが、この情報がデジタル化され、保存・蓄積され、さらに関連のデータと組み合わせて分析することで、さまざまな面での質の向上につなげることが可能となります。
 患者・利用者にとっては、より自分自身の状態にあった医療や介護サービスが受けられるようになり、介護事業者にとっても、要介護度を上げないケア方法の探索やノウハウ継承などにより、効率的な経営につなげていくことが可能となります。行政機関であれば、データを活用することで、政策のPDCAサイクルを回し、よりよい政策の立案や実施につながります。研究機関では、がんや認知症といった難しい病気の新しい治療や予防法の研究に活用できるでしょう。
 すべてのモノがインターネットにつながり情報交換することで制御が可能になるIoT(Internet of Things)や人工知能AIなど、データの取得の簡便性が高まり、データ分析が高度化できる新しい技術が生まれてきており、今後の発展がさらに期待されています。

本当に残したいのは、人の手による介護

 介護分野でのICT活用に対して、「介護というのは人の手で行ってこそ」というご意見があるのは当然です。ICT業界で働く私自身も、ロボットにすべての介護をしてもらいたいとは思いません。しかし、人の手による介護を残したいからこそ、逆にICTを活用すべきだと感じています。書類作成や電話連絡といったICTが得意な部分は徹底的に効率化することで、本当に人が行うべき介護の部分にきちんと時間をかけることができるようになるのではないでしょうか。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成29年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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