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戦略的医療経営について


 全6回に渡って、経営戦略理論を用いた医療機関経営についてお届けします。


<執筆>
国際医療福祉大学大学院教授 羽田 明浩 氏


第4回:競争戦略から協調戦略へ地域医療連携の推進を考える

 第2回でも述べましたが、医療機関の経営戦略には3つの階層があり、医療法人等経営母体が立案する全社戦略、病院等の医療施設の事業戦略である競争戦略、部門の戦略である機能分野別戦略に分けられます。競争戦略をヘルスケア機関に置き換えると、病院、診療所や介護施設の経営における事業戦略が相当します。競争戦略は、医療機関経営において他医療機関との競争に打ち勝ち利益を上げることを目的としたものです。一方、地域医療構想では医療機関相互による協議と医療連携を目的としているため、医療機関間の競争よりもむしろ協調が必要であると捉えることができます。

競争戦略について

 競争戦略論の代表的研究者であるポーター(1980)は、「競争戦略とは会社が自社の市場地位を強化できるよう、うまく競争する方法の探求であり、業界内で競争している企業は例外なく競争戦略を持っている」と述べています。
 競争戦略論には、業界の構造と競争業者を分析する枠組みとしてファイブ・フォース・モデル(5つの競争要因)があります。これは、@新規参入の脅威、A代替製品の脅威、B買い手の交渉力、C売り手の交渉力、D競争業者間の敵対関係、のことです。ある特定の業界の収益率は、5つの競争要因が強い(弱い)ほどその業界の収益性は低い(高い)ことを表わします。そのため、「業界の競争要因からうまく身を守り自社に有利なポジションを業界内に見つけることが必要である」としています。そして、「競争戦略とは、5つの競争要因にうまく対処し、組織を取り巻く外部環境を計算に入れてつくりあげた戦略に他ならない」と述べています。
 そのうえで、長期的に防御可能な地位をつくり、競争相手に打ち勝つための3つの基本戦略として、コストリーダーシップ、差別化、集中化をあげています。
 コストリーダーシップ戦略は、コスト面で最優位に立つという基本目的に沿った実務政策を実行することです。
 差別化戦略は、自社の製品やサービスを差別化して、業界の中で特異だと見られる何かを創造しようとする戦略です。差別化の方法はさまざまであり、製品設計での差別化、ブランド・イメージの差別化、技術面での差別化、製品特長の差別化、顧客サービスの差別化等があります。
 集中戦略は、特定の買い手グループ、製品の種類、特定の地域等へ企業の資源を集中する戦略です。この戦略は特定のターゲットを丁寧に扱う目的で策定され、狭いターゲットに絞ることで、より効果的で効率のよい戦いができるという前提から生まれています。


バリューチェーン(価値連鎖)

 バリューチェーン(価値連鎖)とは、ある製品が最終消費者に届けられるまでの付加価値の連鎖のことをいいます。供給業者が資源を提供し、自社製品を流通チャネルを経て最終消費者にたどりつくことは相互依存する形でつながっており、連鎖において関係を最適化調整することで競争優位を得ることができます。
 ポーター&テイスバーグ(2006)は、医療提携におけるケアデリバリーバリューチェーン(Care delivery value chain)を「ある病態を持つ患者にケア・サイクルを通して診療する場合の各種業務を表すもので、バリューチェーンの始まりは特定の病態を特定する診断に始まり、次に治療行為の準備、治療行為である介入、次に回復のためのリハビリテーション、そして最後にモニタリングと管理で終了する。このバリューチェーンは、患者への医療提供プロセスの向上・修正に役立つ。そしてこれらのケア・サイクルにおいて各段階において反復することも多い」と述べています。
 社会保障制度改革国民会議報告書は、医療・介護サービスの提供体制改革を川上から川下までのネットワーク化と述べており、発症から入院、回復期(リハビリ)、退院までの流れをスムーズにしていくことで早期の在宅・社会復帰を可能にするとしています。これは、病院間等のリンケージ(連結)による関係者間の関係を最適化することで競争優位が得られるものであり、ケアデリバリーバリューチェーンと考えることができます。診療機能別の疾病の発症と診療機能別の、川上から川下へのネットワークは以下の流れになります。@健康診断、健康増進による疾病の予防と早期発見、A発症時の急性期医療と入院、B回復期におけるリハビリテーション、C慢性期医療施設での介護、D在宅支援による介護、です。地域医療ビジョンの策定による病床機能の見直しで、医療機関の自主的な機能分化と連携が推進されていますが、診療機能における川上から川下までのバリューチェーンにおいて、各医療機関間の地域医療連携はこれまで以上に高まると考えられます。


競争戦略から協調戦略へ

 競争戦略は、事業組織がうまく他社との競争に打ち勝つ方法を探求することです。しかし、同じ業界にあっては自社の行動によって競合企業も反応することになり、競争ばかりでなく時には協調することも多いものです。医療業界にあっては地域医療連携において患者を紹介する仕組みもあり、地域医療にあっては競争戦略よりも協調戦略の方が、なじみが大きいと思われます。
 ネイルバッフとブランデンバーガー(1997)は、競争と協調を組みあわせたコーペティションを唱えています。このコーペティションでは、自社以外の企業の製品を顧客が所有することで自社製品の価値が増加する企業として補完的企業の存在を指摘し、市場の拡大において補完的企業と協調した後、市場内のポジション獲得においては競争すると述べています。
 さらに、顧客、競合企業、供給業者、補完的企業をプレーヤーとみなし、互いに利益を奪いあうのではなく協調によって利益を増大することを唱えています。
 医療業界においては、地域医療連携における病床機能区分による急性期病院と回復期病院、慢性期病院の関係は互いに補完的企業であるといえます。さらに訪問看護ステーションや介護事業者も補完的企業といえます。
 地域医療構想調整会議を通して、医療機関相互の自主的取り組みと協議により病床機能分化と医療連携の推進が図られることは、これまで以上に競争戦略から協調戦略の意義が高まるものと捉えることができます。



<参考資料>
・Porter,M.E.(1998)ON COMPETITION,Harvard Business School Press.(竹内弘高訳(1999)『競争戦略論T』ダイヤモンド社)
・Porter,M.E.(1980)COMPETITIVE STRATEGY,The Free Press.(土岐坤・中辻萬治・服部照夫訳(1992)『競争の戦略』ダイヤモンド社)
・Nalebuff.B.J & Brandenburger.A.M(1997)Co-optition Linda Michaels Literary Agency,New York through Tuttle-Mori Agency,Inc.,Tokyo(嶋津祐一・東田啓作訳(1997)『コーペティション経営』日本経済新聞社)
・羽田明浩(2015)『競争戦略論から見た日本の病院』創成社
・羽田明浩(2017)『ナースのためのヘルスケアMBA』創成社」

※ この記事は月刊誌「WAM」平成29年7月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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