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福島県本宮市・医療法人落合会 東北病院

精神科医療・福祉・保健活動の統合的な展開・実践を目指して

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された福島県本宮市にある東北病院を取りあげます。同院は、東日本大震災の被害で施設が全壊したことから平成25年5月に病院の建て替えを行いました。完成後は地域で唯一の精神科専門病院として、医療・福祉・保健活動を統合的に展開しています。その取り組みについて取材しました。

※この記事は月刊誌「WAM」平成29年9月号に掲載されたものです。


地域で唯一の精神科病院として精神科医療を支える


 福島県本宮市にある医療法人落合会・東北病院(212床)は、昭和35年2月の開設以来、法人理念に掲げる「信頼」のもと、地域で唯一の精神科病院として地域の精神科医療の中核を担ってきた。
 同院は、児童思春期から高齢期まであらゆる精神疾患に対応し、地域に根ざした医療・福祉・保健活動を統合的に展開している。近年、精神科医療は「入院中心の医療から社会復帰の促進」が推進されているなか、ピーク時に251床あった病床数を段階的に現在の212床まで削減し、病床の適正化・機能分化を図るとともに、医療の質を高めることで患者の早期退院・地域移行を進めている。
 法人施設は、病院の敷地内に入所定員96人の介護老人保健施設や通所リハビリテーション、指定居宅介護支援事業所、地域包括支援センター(本宮市委託事業)を併設するほか、精神障害者のグループホーム(定員男・女各4人)や就労継続支援B型事業所(定員20人)などを運営することにより、退院後の患者の生活を支えている。
 なお、同院は平成23年3月に発生した東日本大震災の被害により、建物が全壊状態となったことから、仮設施設での運営を経て、病院の建て替えを行っている。
 震災当時の状況について、同法人理事の落合良二氏は次のように語る。
 「発災時は、院内に約200人の入院・外来患者がいたのですが、建物の被害のなかった隣接する老健に避難しました。スタッフの適切な判断と誘導によって一人もケガ人を出すことなく避難できたことは幸いでした。また、精神疾患を抱える患者の病状を悪化させないために、早期に運営を再開する必要がありましたので、とりあえず老健での運営を実施しながら、仮設施設を建てる申請手続きや資材等の調達を迅速に行いました。結果、震災から2カ月後には仮設施設が完成し、仮設施設と老健の一部を活用した本格的な運営が再開されました」。
 仮設施設での医療提供では、入院患者のプライバシーの確保などで苦労があったものの、患者が不安を増大させないようスタッフが一致団結してケアに努めたことで、症状を悪化させるケースはほとんどなかったという。とくに福島県は原発事故の影響から、医療スタッフの離職や避難生活などにより運営が厳しくなる施設が多いなか、同院のスタッフは1人も辞めることなく残ってくれたことで、このようなケアの提供が可能であったという。



仮設施設での運営を経て平成25年5月に新病院を完成


 その後、仮設施設での運営を経て病院の建て替えを実施し、着工から竣工まで1年2カ月の期間をかけて、平成25年5月に新病院を完成させている。
 建て替えにあたっては、震災や原発事故の影響で建築業者がみつかりにくいことや、資材の確保が困難ななか、これまで老健の建設で実績のあった地元の建設会社に受託してもらうことができた。
 「建設会社には建築だけでなく、資材やガソリンの調達などにも精力的に取り組んでいただき、再建に向けた計画をスムーズに進めることができました」と落合理事は説明する。
 完成した新病院は、RC造の地上6階建てで、施設のコンセプトとして「地域住民に力を与えることのできる病院」を目指しており、設計では明るく開放的なデザインを採用した。病棟は落ち着いた色調にすることで穏やかに入院生活を過ごしてもらうことをイメージし、多床室であっても一人ひとりのプライバシーに配慮するとともに、各ベッドサイドに窓を設けることで個室に近い環境を提供できる造りとした。


▲明るく開放的な空間のエントランスホール。窓からは四季折々の花を植栽した庭がみえる ▲多床室はプライバシーを確保するとともに、各ベッドサイドに窓を設けることで個室に近い環境をつくった

▲広々としたスペースの作業療法室


病棟を再編し早期の社会復帰を促進


 医療機能の強化については、4つあった病棟を再編し、新設した精神科急性期治療病棟をはじめ、精神科一般病棟、精神科療養病棟に機能を分け、病態に応じた治療を行うこともできる体制を整備したことで、さらなる社会復帰や早期退院を促進している。
 また、震災後の精神科患者の影響として、従来からの精神疾患だけでなく、避難生活や将来への不安などのストレスが原因で抑うつ状態になる人や、在宅療養していた患者の症状が悪化して入院治療が必要になる人が増えており、同院ではあまり関わりはないものの、県内ではアルコール依存に関する患者が増加傾向にあるという。
 さらに、平成26年4月には、児童思春期の精神疾患の診療を行う「子どものこころ・発達」専門外来を新設した。
 「子どものこころ・発達」専門外来について、同法人理事長・院長の落合紳一郎氏は次のように語る。
 「児童思春期の患者は増加傾向にあり、非常に高いニーズがあります。しかし、当地域では専門外来を実施している医療機関がなく、他地域にいかなければならない状況がありました。そのため、連携する福島県立医科大学付属病院に児童精神科専門医を派遣してもらうことで、県内の子どものこころ・発達専門外来を充実させています」。



総合相談支援室を立ち上げ、退院支援プログラムを実施


 早期退院につなげるための取り組みとしては、医師、看護師、作業療法士、臨床心理士、精神保健福祉士などの多職種で構成する「総合相談支援室」を立ち上げ、地域連携パスを用いた退院支援プログラムを作成し、各職種が専門性を活かしたチーム医療を実践している。
 退院後の在宅療養を支える体制では、総合相談支援室のスタッフが中心になり、本人と家族の意向を踏まえながら、運営するデイケアや精神科の訪問看護、グループホームの利用につなげるほか、地域の医療機関や介護施設との連携を進めている。
 併設する通所リハでは、看護師、作業療法士、精神保健福祉士を配置し、レクリエーションやSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)、スポーツなどのさまざまな集団プログラムを通じて、生活のリズムを整えたり、コミュニケーション力・協調性・自主性の向上を図り、患者が自分らしい生活を送ることを支えている。
 また、精神科の訪問看護では、総合相談支援室の看護師、精神保健福祉士、作業療法士の3職種がチームを組んで退院患者や外来患者の自宅に訪問している。それぞれの職種の視点から服薬指導や身体状態の確認のほか、生活リズムや食事などについてのアドバイスを行うことで、地域のなかで安定して生活を続けてもらうことを支援している。


▲病院敷地内に併設する老健では、通所・訪問リハビリテーションを実施 ▲食堂では、カウンター側がガラス張りで安達太良山など広大な景色を楽しみながら食事することができる

退院後の生活を支えるため就労支援に取り組む


 さらに、同院では患者の地域移行を促進していくためには、入院治療や在宅療養を支えるだけでなく、就労まで支える必要があるという考えから、以前より就労支援活動を実施しており、平成27年2月には就労継続支援B型事業所「こころの郷あだたら」(定員20人)の開設をした。
 就労支援の活動日は月〜金曜日の週5日で、同院から車で10分ほどの自然に囲まれた環境のなかで野菜や花などを栽培する畑仕事をはじめ、菓子や野菜を使った加工品の製造販売、清掃などの軽作業を作業内容として取り組んでいる。栽培した野菜や加工品は院内で販売するほか、病院で提供する食事にも使われている。
 就労支援には1日に10人を超える利用があり、同院のグループホームに入所しながら利用している人も多く、病院が直接運営することで活動中に容態に変化があっても、すぐに対応ができるため、利用者や家族からも好評だという。安定して作業に取り組むことのできる利用者に対しては、ハローワークを活用し、障害者雇用の枠内で採用につなげる流れとなっている。
 そのほかの取り組みでは、患者の「家族会」を毎月開催し、季節のイベントなどを組み込みながら、同じ立場にある家族同士が互いの経験を伝えあうことで関係性を深めたり、患者の状態について病院側と家族側が情報交換する場となっている。
 また、地域に向けた取り組みとしては、地域のボランティアが開設する認知症カフェ「あったかカフェまゆみ」(月2回)の運営に協力している。カフェの開催場所を提供するほか、老健の認知症専門医などを相談役として派遣しており、同院の患者や老健の利用者なども多く参加しているという。


▲入院治療や在宅療養にとどまらず、就労支援まで行うことを目的に、平成27年2月には就労継続支援B型事業所「こころの郷あだたら」を開設

医療スタッフの研修体制を充実させ、医療の質を高める


 医療スタッフの確保が全国的な課題となっているなか、同院ではある程度の人材を確保することができているという。医師については、落合理事長が福島県立医科大学医局との連携を密にしていることで、そのつながりから質の高い専門医の派遣要請に努力している。
 一方、看護師については、処遇や勤務環境など働きやすい職場環境をつくるほか、病院が新しくなった影響もあり、若い人材を中心に応募が集まっているという。医療の質を高めていくためにも、医療スタッフの研修体制をさらに充実させることに取り組んでいきたいとしている。
 今後の課題について落合理事長は、認知症高齢者の対応や退院後の受け皿を確保することをあげている。
 「高齢化が進むなかで認知症に関連した精神科的な対応が必要な患者は非常に増えていますが、なかには精神科病院に高齢患者を入院させることを抑制するべきという話もあります。しかし、現実的には認知症で問題行動のある患者さんは、自宅や施設では対応が難しいケースもありますので、ある程度は精神科病院が役割を担っていく必要があると考えています。また、入院治療後の受け皿は大きな課題で、ご家族も入院などで一度手が離れてしまうと、どうしても受け入れが難しくなってしまうという面があります。当法人には老健のほか、デイケアや訪問看護などを運営して在宅療養を支える体制を整備していますが、今後は地域にある施設と連携を図りながら、在宅復帰を進めていかなればならないと感じています」。
 地域で唯一の精神科病院として、地域に根ざした医療・福祉・保健活動を統合的に展開している同院の取り組みが今後も注目される。


就労まで支援することが社会復帰につながる
医療法人落合会 東北病院
理事長・院長
落合 紳一郎氏
 当院は、昭和35年2月の開設以来、地域に根ざした病院運営を心がけ、地域に信頼される病院を目指してきました。東日本大震災により建物が全壊となり、建て替えを余儀なくされましたが、平成25年5月に完成した新病院では精神科急性期治療病棟を新たに導入し、病態に応じた治療を行うことで、さらなる退院促進を図っています。
 また、精神科医療は退院後の支援が重要となりますが、在宅療養を支えるだけでなく、就労継続支援B型事業所を開設し、就労まで支援することで、本当の意味での社会復帰につながるのではないかと考えています。
 今後も地域で唯一の精神科病院として、地域のニーズを踏まえながら、よりよい医療・福祉・保健活動を統合的に展開・実践し、地域とともに歩んでいきたいと思っています。


<< 施設概要 >>
施設の概要 医療法人落合会
東北病院
施設開設 昭和35年2月
理事長/院長 落合 紳一郎氏
病床数 212床(精神科急性期治療病棟、精神科一般病棟、精神科療養病棟)
診療科 精神科、内科、神経科
職員数 264人(平成29年7月現在)
併設施設 介護老人保健施設「まゆみの里」/通所リハビリテーション/指定居宅介護支援事業所/地域包括支援センター(本宮市委託事業)
法人施設 グループホーム/就労継続支援B型事業所「こころの郷あだたら」
住所 〒969−1107 福島県本宮市青田字花掛20番地
電話 0243−33−2588 FAX 0243−33−4658


■ この記事は月刊誌「WAM」平成29年9月号に掲載されたものを掲載しています。
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