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愛媛県松山市・一般財団法人永頼会 松山市民病院

地域の信頼に応える医療提供を目指して

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された愛媛県松山市にある松山市民病院を取りあげます。同院は、耐震化整備や機能強化を図るため、約7年かけて施設整備を進めました。施設整備の内容や取り組みについて取材しました。

急性期病院として地域の医療ニーズに対応


 愛媛県松山市にある一般財団法人永頼会松山市民病院(432床)は、昭和31年6月の設立以来、「思いやりの医療をもって地域社会に貢献する」という理念のもと、地域医療の中核を担ってきた。同院の開設経緯は、戦後の復興途上にあった昭和29年当時、地域には民間の医療機関がなく、乳幼児や高齢者の医療資源が不足していたなか、「『市民の市民による市民のための病院』をつくりたい」という想いに賛同した地元の財界や有志などが集まり、松山生活協同組合を発足し、病院を開設したことにはじまる。
 その後、財団法人を経て、現在に至っており、平成28年には病院創立60周年を迎えている。松山市民病院が地域で担ってきた役割や特色について、理事長・院長の山本祐司氏は次のように語る。
 「当院は、25診療科を有する二次救急指定病院として、救急医療を中心にコモンディジーズ(有病率が高い疾患)に対し、地域の信頼に応える医療を提供することを目指してきました。診療科を充実させることにより、高度医療を含めた各領域の専門診療を提供していることが特色となっており、なかでも、がんや脳卒中、心疾患、消化器疾患、糖尿病などを得意分野としています。医療提供体制では、各科の専門医をはじめ、看護師や検査技師、薬剤師、事務職などの全職種が連携したチーム医療を実践し、緩和ケアや呼吸ケア、感染症対策、栄養サポートなど6チームを立ち上げ、各職種が専門性を活かしながらケアしています」。
 救急医療については、松山医療圏の14 病院が協力し、輪番制で二次救急医療を担っている。そのうち、小児科を標榜している病院は同院を含め2病院のみであり、小児から高齢、軽症から重症までの救急患者を受け入れる同院の役割は地域医療において不可欠な存在になっている。救急隊との連携体制を強化するため、地域の消防職員とは定期的に救急症例検討会を開催し、効率的な救急医療の提供につなげている。


約7年におよぶ大規模な施設整備を実施


 同院は、平成23年から約7年間におよぶ大規模な施設整備を実施し、昨年7月にほぼ終了させている。
 実施した施設整備について、事務長の花本雄二氏は次のように語る。
 「当院は、南棟、北棟、事務管理棟の3棟からなるのですが、老朽化の進んだ南棟の耐震化整備が必要となっていました。その計画を立てていたときに東日本大震災が発生し、患者さんや職員の安全を守るために、南棟を免震構造に建て替えるとともに、北棟、事務管理棟の改修や院内保育所の拡充などをあわせて実施しました。同一敷地内の建て替え、改修ということで、敷地内で建物を解体・建設するスクラップ&ビルド方式を採用し、3期に分けて工事を行いました。幸い当院には仮設施設を建てられる駐車場がありましたので、それを利用することができましたが、そのような空きスペースがなければ実現は難しかったと思います」。
 施設整備の計画にあたっては、現場の職員の声を反映させるため、主任以上の役職者を集めた会合を定期的に開き、職員からの要望を集約しながら進めたという。
 平成27年7月に完成した新南棟は、免震構造の地上7階建てで、1〜2階部分に受付と外来機能を集約し、3階に手術室、4階以上は病室とリハビリセンターとなっている。
 施設設計では、明るく開放的な病院にすることにこだわり、総合受付は吹き抜けで広々とした空間となっている。施設の中央に中庭を設置したことにより、自然光をふんだんに取り込むことができている。
 「中庭に設けたウッドデッキでは子どもたちが遊ぶこともでき、ガラス貼りで中庭の向こう側まで見渡すことができるので、親にとっても安心感があります。子どもたちの遊んでいる様子は院内の雰囲気を明るくしてくれることにつながっています」(花本事務長)。
 4階にはリハビリセンターのほか、四季折々の植物を眺めながら歩行訓練などに利用できるリハビリテラスを設置した。リハビリにとどまらず、入院患者やその家族の憩いの場としても活用されている。


▲リハビリセンターでは、患者一人ひとりに寄り添いながら質の高いリハビリを提供 ▲▼吹き抜けで解放感のある総合受付。中庭を設けたことで採光が良く、明るい空間になっている
▲ 4 階にはリハビリテラスを設置し、植物を眺めながら歩行訓練などを行うことができる


ERセンターやHCUを開設し、救急医療体制を強化


 医療機能の強化としては、地域医療を充実させるために、平成26年5月に亜急性期病床40床を地域包括ケア病棟に転換した。救急医療体制の強化では、ERセンターを開設したほか、平成29年6月には、既存のICU(集中治療室)6床に加え、HCU(高度治療室)8床(うち2床は感染症対応)を新設し、一般病棟の負担を軽減するとともに、重症患者の迅速な対応やより細やかな術後管理が可能となっている。
 これらの施設整備により、現在の年間救急患者数は1万人を超え、救急車搬送受入数は3513件に達している。
 医療連携の取り組みでは、多職種で構成した地域連携室が中心になり、退院支援や地域の医療機関との連携を進めている。主な医療連携としては、がん治療に特化した国立病院機構の「四国がんセンター」と連携し、互いに不足する機能をカバーしあうことに取り組んでいる。
 また、急性期病院である同院の連携先としては、回復期リハビリテーション病院や診療所などが中心となるが、同院の受診歴がある患者から承諾を受けた医療情報(個人情報を除く、画像、検査データ、投薬、書類など)をネット経由で登録医療機関が閲覧できる院内独自の医療連携システムを導入している。患者の医療情報の共有をはじめ、紹介後に入院となった患者の経過追跡などに利用することができ、患者の負担軽減や満足度の向上につなげている。
 現在は49の医療機関の登録があり、より上質で効果的かつ継続的な医療提供が可能となっているという。同時に、連携先と顔の見える関係を構築することも大切にしており、地域連携室の職員が地域の病院や診療所を訪問し、自院の医療機能を理解してもらうことにも取り組んでいる。


▲ 各職種が専門性を活かしたチーム医療を実践。緩和ケアや呼吸ケア、感染症対策など多様なケアチームを立ち上げている ▲病棟のスタッフステーションとデイルーム


院内保育所を拡充し病児保育も展開


 施設整備ではこのほか、昨年11月に職員専門の院内保育所(定員25人)の拡充を行い、企業主導型保育事業の補助金を活用して、一般保育(最大定員47人)と病児保育(定員10人)を併設した「松山リエール保育園」を病院隣接地に開設した。
 同園は、木造2階建てで木の温もりを感じられる環境のなか、病児保育では病棟の保育士や看護師を配置することで安心して子どもを預けることが可能となっている。職員だけでなく地域住民も利用できる地域枠を設けており、とくに病児保育は地域で不足していることから高いニーズがあるという。
 施設の2階には地域交流スペースを設置し、地域のNPO法人やボランティアと協働しながら、子どもを対象にした読み聞かせなどさまざまなイベントに活用している。そのほかの地域に向けた活動としては、同院の看護師が中心になり、地域の公民館やイベントなどに出向き、健康や災害支援などに関する講演活動に取り組んでいる。


▲ 院内保育所を拡張して病院敷地内に開設した「松山リエール保育園」。一般保育と病児保育を併設しており、木造2 階建ての建物では木の温もりを感じながら過ごすことができる


新たなスローガン「ハードからソフトへ」


 同院は約7年かけて取り組んだ施設整備を終えたことから、今年度の病院スローガンに「ハードからソフトへ」を掲げ、「育成・成長・貢献」をキーワードにソフト面を強化する方針を打ち出している。
 職員の育成・成長に向けた取り組みでは、新入職員には業務内容や必要なスキルを明確にし、キャリアアップできる道筋と研修機会を提供し、次世代の人材を育成する仕組みを再構築した。中堅職員には資格取得や院内外での研修を活用するとともに、研究発表などの経験を積むことで業務の質やモチベーションの向上を高めることを目指している。
 また、各専門職がセクショナリズムに陥ることなく、業務における視野を広げてもらうために、異動を積極的に行っていく方針としている。
 「これまで当院ではあまり異動を行ってきませんでしたが、配属先となる各部署でスキルを高めていき、成長していかなくては組織が硬直化してしまいますし、次世代に受け継ぐことができなくなります。もちろん、エキスパートになることは大切ではありますが、全員がなれるというわけではありません。医療スタッフの人材不足が深刻な状況のなか、職員を増やし続けていくことは現実的ではなく、さまざまな業務に従事できるジェネラリストを育成していく必要があると考えています」(山本理事長)。
 全職員の4分の3を占める女性職員に対しては、働き方に関する意識調査を実施しており、今後の就業意欲では「いつまでも当院で働き続けたい」という回答が7割を超えたという。今後は調査結果を踏まえ、さらに働きやすい環境づくりに取り組むとともに、男性と比較して割合の低い女性の役職者を増やし、定着率を高めることにつなげていきたいとしている。


地域の医療ニーズに対応した医療提供を目指す


 今後の展望について山本理事長は、より地域に密着した病院にしていくため、退院支援の強化や、安心して出産や子育てのできる社会をつくることをあげている。
 「少子高齢化が進行するなか、高齢患者の退院後の受け皿を確保することは地域の大きな課題となっています。当院では平成26年に地域包括ケア病棟を新設していますが、さらに退院支援に取り組んでいく必要があると考えています。また、少子化の部分に対しては、子育て支援として保育所をつくりましたが、安心して出産できる社会をつくるためにも、産科を立ち上げたいという強い想いがあります。当院は産科を標榜していた時期があるものの、産科医不足のために閉鎖せざるを得なかった経緯があります。地域に密着した病院として産科の復活は悲願となっています」。
 地域の医療ニーズに対応した医療提供を実践し、地域社会に貢献する同院の取り組みが今後も注目される。


ソフト面を強化し、地域社会に貢献
一般財団法人永頼会松山市民病院
理事長・院長 山本 祐司氏
 当院は昭和31年の開設以来、地域に根ざした病院として小児から成人、軽症から重症患者までを受け入れ、地域の信頼に応える医療を提供してきました。施設整備の完了に伴い、今年度の病院スローガンに「ハードからソフトへ」を掲げ、職員を育成・成長させ、地域社会に貢献していくことを目指しています。
 職員を育成、成長させていくためには、働きがいやモチベーションを高めることが大切になりますが、当院で実践している泊まりの研修合宿や学会活動なども有効な手段の一つだと考えています。学会活動には毎年、各部署から14 〜15 人くらいの職員を連れて行き、学んだ後に食事をしながら意見交換をするのですが、働く意欲にもつながります。やはり、職員に飽きさせないよう刺激を与え続けていくことが重要だと思います。


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理事長/院長 山本 祐司
職員数 816 人(平成30 年4 月現在) 法人設立 昭和31年6月
病床数 432床
診療科 内科、消化器内科、循環器内科、呼吸器内科、神経内科、心療内科、外科、呼吸器外科、脳神経外科、泌尿器科、心臓血管外科、整形外科、眼科、耳鼻咽喉科、婦人科、小児科、麻酔科、形成外科、皮膚科、放射線科、救急科、歯科、歯科口腔外科、リハビリテーション科、病理診断科
併設施設 松山リエール保育園(一般保育、病児保育)
住所 〒790-0067 愛媛県松山市大手町2丁目6番地5
電話 089-943-1151 FAX 089-947-0026
URL https://www.matsuyama-shimin-hsp.or.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2018年5月号に掲載されたものを掲載しています。
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