サービス取組み事例紹介
トップ

東京都渋谷区・社会福祉法人至誠学舎立川 代々木至誠こども園

子育て支援の拠点として、地域とともに育ちあう施設を目指して

 福祉医療機構では、地域の福祉医療基盤の整備を支援するため、有利な条件での融資を行っています。今回は、その融資制度を利用された東京都渋谷区にある代々木至誠こども園を取りあげます。同園は平成25 年4 月に開設し、地域の子育て支援の拠点として地域とともに育ちあう施設を目指しています。施設概要や地域に向けた取り組みについて取材しました。

地域福祉の向上を使命に幅広い社会福祉事業を展開


 社会福祉法人至誠学舎立川は、創立から100年以上の歴史をもち、法人本部のある東京都立川市を中心に児童福祉、高齢福祉、保育など、幅広い社会福祉事業を展開している法人である。法人理念に「まことの心」を掲げ、より高い福祉サービスの開発と地域福祉の向上に貢献することを使命とし、地域とともに成長することを目指している。
 同法人は、性格の異なる社会福祉事業と複数の施設を運営していることから、児童事業、高齢事業、保育事業の3部門の事業本部があり、各本部が地域に密着し、専門性の向上を図りながら事業を展開している。
 現在の法人施設は、児童事業では児童養護施設3カ所、就労継続支援事業などを運営し、高齢事業では特別養護老人ホーム、ケアハウス、グループホーム、在宅サービスなど24施設・事業所を総合的に展開している。保育事業では、立川市を中心に日野市、調布市、世田谷区で11カ所の保育所(分園を含む)を運営している。
 平成25年には、渋谷区の保育所型認定こども園の公募事業の採択を受け、法人としては初の認定こども園「代々木至誠こども園」を開設した。
 都心部における保育施設の新設は、地域住民の反対などで整備計画が進まないケースも少なくないが、同園においても地域住民の理解を得るまでに苦労があったという。
 開設に至るまでの経緯について、園長の稲永裕子氏は次のように語る。
 「渋谷区は、待機児童の解消に向け、積極的に認定こども園(幼保一体型施設)の整備計画を打ち出し、25年度は当園含め、5園を新設していますが、当園の開設地はマンションの立ち並ぶ地域ということもあり、開設に向けた住民説明会では、隣接するマンションの管理組合から騒音や景観に関する問題のほか、調理室から出る匂いを危惧する声があるなど、子どもの施設の開設に好意的な方ばかりではありませんでした。そのため、管理組合と区内にある他園の見学を行いながら、認定こども園がどのような施設であるのか、丁寧な説明を繰り返すことで、理解していただけました」。


子どもが主体的に生活できる環境を整備


 平成25年4月に開設した「代々木至誠こども園」の定員は、長時間保育115人、短時間保育20人の計135人となっている。小田急線と東京メトロ千代田線の最寄駅からそれぞれ徒歩7分に位置し、都内で働く保護者にとっても交通アクセスがよく、近隣には代々木公園や代々木八幡宮があるなど、都心でありながら豊かな自然に恵まれた環境にある。
 地上3階建てで、1階に0歳児と1〜2歳児、2階に3〜5歳児の保育室があり、3階にはさまざまなイベントに活用できるホールを設置した。
 施設設計のコンセプトとして「都心にあらわれた、『森の中』」をイメージし、家庭的な雰囲気を大切にしながら、一人ひとりの子どもが主体的に生活できるよう保育環境を整備した。また、施設に隣接するマンション側は、音で迷惑がかからないよう開口部を少なくし、主な採光は施設上部から確保している。
 「園庭が敷地面積の関係で狭い分、さまざまな活動ができる環境をつくり、各階にはウッドデッキを敷いた幅の広いテラスを設け、植物を育てたり、子どもたちの遊びの場になっています。3階にはステージのある広いホールを設置し、運動や季節行事などのイベントで活用しており、仕切り戸によって広さを変えられるため、安全を確保しながら、用途によって使い分けができるよう工夫しました」(稲永園長)。
 また、幼児(3〜5歳児)の保育室は、明るく開放的な空間となっており、子どもたちの目線では気にならない高さの窓ガラスで部屋を区切ることで、保育スタッフは隣の子どもの様子を感じながら、スタッフ同士がコンタクトをとりやすい設計としている。


▲モンテッソーリ教育の教具をはじめ、子どもたちの興味や関心を引き出す環境を用意 ▲1〜2歳児の保育室
▲3階には広いホールを設置。仕切り戸によって用途に応じて広さを変えられる設計とした ▲明るく開放的な幼児(3〜5歳)の保育室


モンテッソーリ教育を実践し自主性の成長につなげる


 教育・保育の方針は、渋谷区の幼児教育プログラムに基づき、同法人が長年培ってきたモンテッソーリ教育による「個別活動」、集団意識を育て一定のテーマの習得や感性を伸ばす「一斉活動」、自然に親しみしっかりとした体づくりを目指す「戸外活動」、身辺自立と思いやりの心を育てる「生活活動」の4本柱を掲げている。
 実践する教育・保育の特色について、副園長の森脇純子氏は次のように語る。
 「モンテッソーリ教育を取り入れていますので、異年齢の縦割り活動を基本としています。職員は全面に出るのではなく、子どもたちの内発の力を大切に、1人でできるように手伝い、見守ることで子どもの自主性や自発性の成長につなげています。そのなかで、子どもたち同士で育ちあい、生活に根ざした教育・保育を実践しています。2歳児が上のクラスに上がる頃には担当のお兄さん、お姉さんがつき、上の子はお世話することで思いやりの心やリーダーシップを身につけ、下の子は憧れをもって新しいことを学び吸収していく環境にあります」。
 さらに、年長児に対しては、卒園後の小学校生活にスムーズになじめるように、聞く力・考える力・発信する力を引き出す楽しいセッションを行い、子ども同士で協調性や社会性を育みながら、学びの興味や好奇心の土台となる活動に取り組んでいる。


▲ホールで開催するサマーフェスティバルの様子
▲施設の各階にはウッドデッキを敷いたテラスを設置。植物を育てたり、子どもたちの遊び場になっている


子育て支援の拠点として「コミュニティひろば」を開設


 認定こども園には、地域の子育て支援を行う機能が求められており、同園では子育て支援として、一時保育「どんぐりのいえ」(定員10人)と、コミュニティひろば「ぴあーの」を併設している。
 「一時保育は、主に保護者のリフレッシュなどに活用され、子どもたちは一時保育の部屋で過ごすだけでなく、散歩にも行きますし、在園の子どもたちとも交流して過ごしています。一時保育のニーズは非常に高く、毎月1日にその月の予約をメールで受け付けているのですが、数分で予約が埋まる状況にあるため、保護者を支えるためにも、対応を考えていかなくてはならないと感じています」(稲永園長)。
 コミュニティひろば「ぴあーの」は、渋谷区在住の親子を対象に、子育ての情報提供や自由に活用できる交流スペースとして、平日の10〜16時に開放している。
 さらに「ぴあーの」では、食育講座やベビーマッサージ、リトミック、創作活動など、さまざまなイベントを定期的に開催し、保護者同士の出会いの場にすることを目指している。イベントの講師は、職員を中心にしながら、趣味や得意なことをもつ利用者に講師になってもらい、そのような人たちが企画者と参加者が互いに情報をわけあい、つながりあう関係性を築いているという。
 そのほかにも、地域に向けた活動では「おもちゃ・絵本ライブラリー」の開催を予定している。
 「『おもちゃ・絵本ライブラリー』は、法人内の他園で実施している取り組みで、良質なおもちゃや絵本を子どもが一番興味のある時期に出会えるようセレクトして地域の方に貸し出しています。施設へ足を運んでもらうきっかけになり、そこで子育ての相談を受けることにつながっているので、当園でもぜひ実施したいと考えています」(森脇副園長)。


▲コミュニティひろば「ぴあーの」では、さまざまなイベントを企画し、保護者の出会いの場になっている ▲一時保育「どんぐりのいえ」の保育室


事業本部が主導し保育人材を確保


 保育士の人材確保が全国的な課題となっているなか、同園も新設にあたって多くの保育士を確保する必要があったが、同法人では保育事業本部で職員を採用し、各園に配属させるかたちをとっている。
 「当園の開設時は、法人内で異動した職員と採用した新人職員が半数ずつとなっていました。採用活動の取り組みでは、11園の園長が集まる人事委員会があり、通年で10回を超える就職説明会を開催しているほか、学校訪問などの地道な活動を行うことで、毎年25人を採用することを目標にしています」(稲永園長)。
 人材育成の取り組みでは、保育事業本部が主導し、新人研修をはじめ、中堅、リーダー層など役職に応じた研修や人的交流を行うほか、外部研修も積極的に活用している。
 人的交流は、主に中堅職員を対象に法人内の他施設で約3週間の交換研修を行っている。中堅職員になると、施設の課題などもみえてくるため、課題に対して他施設ではどのように対応しているのかを確認するとともに、自分たちの施設のよいところを再認識する機会となっている。
 同法人のように複数の保育所を運営しているメリットとしては、日頃から研修等を通じて施設間の人的交流をもつことで異動などをしやすくするという面もあるという。また、複数の施設があるということは、それだけ役職のポストがあり、役職が人材を育てる面もあることから、職員の成長にもつながりやすいと稲永園長は説明する。


給与体系の一本化により保育スタッフの処遇が改善


 現在、保育士の処遇改善が図られているなか、同法人では平成29年4月から法人内の各部門の給与体系を一本化したことが、保育スタッフの処遇改善につながったという。
 「給与体系の一本化は、それぞれの事業部の職員に不利益が起こらないよう配慮しながら進め、昨年4月に導入しました。それまで保育スタッフの給与は他部門と比べ、少し差がありましたが、一本化したことにより、とくに若い保育士の給与は大幅に上がりました。当園は開設から5年が経ちますが、新人として入職した12人が1人も辞めずに働いています。これも法人が職員のことを大切にしていることを示し、職員も法人・施設に愛着をもってくれているからこそだと感じています」(稲永園長)。
 現在、就業規則についても法人内で一本化に向けた調整を行っており、将来的には導入していく予定だという。
 地域の子育ての拠点として、地域とともに育ちあう施設を目指す、同園の取り組みが今後も注目される。


保護者と共感しあえる関係性を構築
社会福祉法人至誠学舎立川
代々木至誠こども園
園長 稲永 裕子氏
 認定こども園の運営は法人としても初めてでしたので、開設当初は事務作業の面で苦労することがありましたが、渋谷区は認定こども園を含めた保育所の職員を集めて、事務に関する説明会の開催やマニュアルを作成するなどフォローアップしてくれるので非常に助かりました。
 今後の目標としては、子どもたち自身のもっている力が発揮できるよう、さらに環境を整えていくとともに、保護者に「働き続け仕事と子育てを両立」と思っていただけるように安心感を与えることができればと考えています。そのためにも、ただ子どもをお預かりするのではなく、共感しあえる関係性をさらに構築していきたいと思います。


<< 施設概要 >>
理事長 橋本 正明 施設開設 平成25 年4 月
園長 稲永 裕子 定員 135 人(長時間保育115 人、短時間保育20 人)
職員数 42 人(平成30 年4 月現在)
住所 〒151− 0053 東京都渋谷区代々木5 −14 −16
TEL 03−3485−2466 FAX 03−3485−2477
URL http://yoyogi.shisei-hoiku.jp/


■ この記事は月刊誌「WAM」2018年6月号に掲載されたものを掲載しています。
  月刊誌「WAM」最新号の購読をご希望の方は次のいずれかのリンクからお申込みください。