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特別養護老人ホーム高浜安立荘

職員の働きがいにつながるターミナルケアや「おむつ外し」への取り組み 特別養護老人ホーム高浜安立荘

特別養護老人ホーム高浜安立荘は、平成5年の開設当初からターミナルケアを実践するほか、利用者の尊厳を守るために自立支援介護を強化し、平成23 年に県内第1 号のおむつゼロ施設として認定を受けるなど、本人の立場に立ったケアを実践している。職員のやりがいにもつながっているその取り組みを取材した。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年5月号に掲載されたものです。

回想法として昭和20年代の風景を再現


 愛知県高浜市にある社会福祉法人昭徳会・特別養護老人ホーム高浜安立荘は、平成5年に開設した。入所定員100人の従来型の特養で、ショートステイ(20人)、デイサービスセンター(定員40人)、居宅介護支援事業所を併設する。
 同施設は「ケアの3原則(@寝たきりにしない・させない、A生活習慣を大切にする、B個性・主体性を引き出す)」を掲げ、ターミナルケア、回想法、学習療法、個人浴のほか、利用者の尊厳を守るために、平成23年に利用者のおむつを外し、トイレでの排泄を実現するなど、本人の立場に立った取り組みを実践してきた施設である。


▲ 特別養護老人ホーム高浜安立荘

  回想法は、平成19年から認知症予防のために導入しており、パソコンのモニターを活用した映像により記憶を呼び起こす”パソコン回想法“を実施している。
 回想法について、特別養護老人ホーム高浜安立荘施設長の中村範親氏は、「実際に触れることでより思い出しやすくするため、施設の一部を昭和20年代の風景を再現した居間や駄菓子屋に、浴室を富士山の壁画のある銭湯のイメージに改築し、利用者には懐かしい空間のなか精神的に落ち着いて過ごしてもらえるような環境をつくっています。個人やグループで行う回想法の一つとして、実際にかまどでご飯を炊いたり、洗濯板で衣類を洗うなど作業を行いますが、利用者が生き生きとした表情で若い職員に対してやり方を教える、といった光景がみられます」と語る。


 ▲ 回想法では、中央にあるモニターに映し出された懐かしい映像をみながら利用者同士が語りあう  ▲ 昭和20年代の風景を再現した施設内。駄菓子屋では実際に菓子を販売している

ターミナルケアプロジェクトを立ち上げ、施設方針を明確化


 また、同施設は開設当初から看取りケアを実践してきたが、利用者に、より安らかな最期を迎えてもらいたいという思いから、平成16年にターミナルケアプロジェクトを立ち上げ、看取りについての施設方針や書式を明確化した。
 介護施設での看取りについて、同ホーム次長の小西由香里氏は、「ターミナルケアプロジェクトでは、施設方針や書式を明確にし、その人らしい生き方を最期までお手伝いできるようにマニュアル作成を進めました。また、医療設備が整っておらず、常勤医師のいない介護施設の看取りにおいて、一番の問題となるのは介護職の意識統一だと考えました。利用者に一番身近な存在である介護職が、一緒になって取り組まなくてはよいケアを実践することはできません。看取りに対する専門的な知識があまりない介護職が、どのようなことに不安を感じているのかを知ることから始めました」と語る。
 プロジェクトで実施したアンケートでは、「亡くなるまでにどのような経過をたどるのかわからない」、「自分たちに何ができるのか」といった意見が多くあったという。そのため、命の尊さや亡くなることは自然なことであるといった死生観を養う研修を実施したという。
 「話しあいをするなかで、ターミナル期に入ったからといって、私たちのケアが急に変わるわけではないため、利用者に出会ったときからがターミナルケアなのではないか、ということに職員は気づいてくれました。後追いのケアでなく、元気なうちから、その人らしい生活を提供することが一番大切だという考えに行き着きました」(小西次長)。

外出援助で家族とのつながりを保つ


 同施設は、利用者の外出を積極的に実施しており、散歩だけでなく居酒屋やレストランなどで外食することも頻繁に行っている。また、施設に入所したことで家族とのつながりが途切れてしまわないように、家族との連絡を密にして外出や自宅への宿泊の提案をしている。
 その際、職員が家族をサポートし、家族に負担をかけないようにすることで、次の機会をつくれるようにしている。宿泊が難しい場合にも、外出援助として毎月自宅に帰る利用者も多くいるという。 なお、元気なうちに死を連想させることを避ける慣習があるなか、”亡くなることは自然なことである“という考えから、同施設では死について語ることを避けたりはしないという。どういう経緯でターミナル期に入り、その前後でどのようにケアを実施したのか、という具体的な事例を施設内に掲示している。事例を作成する職員は、自分の実施したケアの振り返りを行うとともに、利用者・家族にもどのような最期を迎えたいのかを考えてもらう機会にしている。また、利用者が施設で亡くなり出棺する際には、館内放送を入れて正面玄関から職員、利用者で見送るという。
 「以前は利用者に動揺を与えてしまうのではないかと、亡くなったことを伝えない時期もありました。しかし、私たちが思っている以上に高齢者の方は死を身近に感じており、いらない心配によりお見送りできなかったことを後悔させてしまいます。見送りをした入所者から『施設にいれば安心だな』、『私もあの人みたいにここで見送ってもらいたい』と言ってもらえたときは、全員で見送ってよかったと思います」(小西次長)。


利用者の自宅での看取りにも対応


 同施設では、利用者・家族の約9割が施設での看取りを希望していることから、延命を目的とする入院をやめ、年間約20人を施設で看取っている。それが可能になったのも、平成18年から市内で開業するつばさクリニック院長の石川亨氏が嘱託医を引き受けてくれたことが大きいという。施設のターミナルケアについての考えに理解・協力が得られることで、スムーズに実践することが可能となった。
 また「最期は自宅に連れ帰ってあげたい」と希望する家族への対応も行っている。スタッフは看護師と介護職がオンコール体制で対応し、夜間に急変があれば嘱託医が駆けつける体制となっている。「自宅で介護することができない事情があって入所されているので、最期を看取ることは特養の機能としてもっていなくてはいけないものだと思っています。なかには徹底的に医療を尽くすことを望んで入院する方もいますが、それはご本人・ご家族が決めることなので、われわれは利用者の希望に応える多くの選択肢を準備しておくことが、ターミナルケアの一番大事なところではないかと考えています」と中村施設長は語る。

 ▲ 館内にはターミナルケアの事例を掲示し、利用者に“どのような最期を迎えたいのか”を考えてもらう機会をつくっている

利用者の尊厳を守る「おむつ外し」への取り組み


 そのほかの取り組みでは、利用者の尊厳を守る排泄ケアを提供しようと、平成21年から利用者のおむつ使用をなくすことに取り組んでいる。自立支援介護の実現を目指すカリキュラムが盛り込まれた公益社団法人全国老人福祉施設協議会の「介護力向上講習会」を受講し、ケアのベースにしている。
 講習会で得た知識・理論をもとに実践する基本的ケアは、@1日1500ミリリットルの水分摂取、A1日1500キロカロリーの食事、B下剤を使わず自然排便を促す、C毎日の歩行訓練の4つである。
 認知症の症状は脱水状態と関連することが多いといわれ、脳の覚醒水準を高くするためには、一定の水分摂取が必要になるという。1500キロカロリー以上の食事を摂ってもらうためにミキサー食などを廃止し、食欲がわくソフト食を導入しており、最終的には普通食を摂れるようになることを目指していく。また、寝たきり状態で入所した人や要介護4、5の人であっても、5秒間つかまり立ちが可能であれば、歩行器を使用して歩行訓練を行う。毎日一定の水分や食事をとることで腸の働きを活性化し、排便のリズムを整えて、トイレで用が足せるようにするために歩行訓練を習慣づけることで、ほぼ決まった時間にトイレでの排泄ができるようになるのだという。
 これらの基本的ケアを実践するために、利用者の家族への説明・理解を求めるとともに、「介護力向上委員会」を立ち上げて、全職員に理論や知識を浸透させたという。はじめは効果に半信半疑であった職員も、取り組みを進めるにつれて、車いすだった利用者が歩行器で歩けるようになったり、表情が豊かになるといった変化がみられたことで、多職種がより一丸となり取り組みを進めたという。
 「800ミリリットルであった水分摂取量を倍近くに増やすのは、非常に難しいことでした。飽きがこないようにさまざまな飲み物を用意したり、頻繁に散歩に出かけたり、たくさん会話をして喉が渇いたときに飲み物を差し出すなど、職員はさまざまな工夫をして取り組んでくれました」(中村施設長)。


職員のやりがいにつながり離職者が減少


 これらのケアを実践することで、同施設は取り組み開始から2年半を経て、平成23年に利用者のおむつゼロを達成した。当時、全国老人福祉施設協議会から認定を受けた県内で第1号の施設であった。精神的負担が大きいおむつ使用をやめることで、高齢者も前向きになり、在宅で暮らし続ける可能性を広げることのきっかけにもつながるという。
 「当施設はターミナルケアにしっかり取り組んでいますが、本当は特養に入らなくてもよい方や、少し訓練することで自宅に帰れる方を、介護の力によって元気にするという両方のケアをする施設となっています。特養だから最期を看取る場所と考えるのではなく、介護老人保健施設のように中間施設のような力があってもよいのではないかと考えています」(中村施設長)。
 また、おむつを使用しない取り組みは、利用者だけでなく職員にとっても大きなメリットがあったという。  「当施設の介護職員の平均年齢は27歳前後と若いのですが、自らが率先して取り組んだ『おむつ外し』を達成できたことは大きな自信になり、自分の意見や想いをはっきり伝えてくれるようになりました。年間10人近くいた離職者も減少し、一昨年度は1人もいませんでした。取り組み前に比べて業務量はむしろ増えているのですが、やりがいをもって働けるということは、人材確保においても重要であることをあらためて実感しています」(中村施設長)
 なお、若い職員が多い同施設であるが、80歳になる介護職員も在籍する。施設の取り組みに共感し、「働いてみたい」との申し込みから採用しており、入職直前に介護福祉士の資格を取得したという。若い職員の刺激になるとともに、同施設が実践する回想法では、自らの実体験をもとに利用者と大いに盛りあがるという。
 利用者の尊厳を守るターミナルケアと自立支援介護の両方のケアを実施する同施設の取り組みが、今後も注目される。


後悔しないケアに取り組む
社会福祉法人昭徳会 特別養護老人ホーム高浜安立荘 次長 小西 由香里 氏(看護師/介護支援専門員)

 介護施設の看取りでは、医療関係者と連携をとることと、介護職の不安を聞き出してあげることが重要になります。とくに若い職員は、死に対して“怖い”と感じているので、“亡くなることは自然なことである”と死生観を学んでいく機会は設けるべきだと考えています。
 また、施設で看取りを行った際には、利用者を担当したグループでケアについて振り返りをしています。“利用者へのケアでよかったこと”、“学んだこと”、“後悔していること”をアンケートで集約し、皆で話しあいます。介護職は、一番身近な存在で利用者への思い入れが強いので、落ち込みますが、自分たちの行ったケアを振り返ることで心が整理されていきます。そこで感じたことを、次に担当する方へのケアにつなげていくことが一番大切なことになります。
 看取りを経験した職員は、命に限りがあることを実感しているので、後悔しないように今しかできないケアに取り組んでくれるなど、ケアにもよい影響がでています。

特養のもつ機能を地域に出していく
社会福祉法人昭徳会 特別養護老人ホーム高浜安立荘 施設長 中村 範親 氏

 当施設のある高浜市は、地域の高齢者の居場所をたくさんつくり、介護保険を使わずに元気な高齢者を増やしていこうという、今まさに国が提言していることに早くから取り組んでいます。そのような場所は「健康自生地」として認定されますが、当施設も認定を受け、回想法を地域の方に経験していただいています。特養のもっている専門的な機能を外に出していくことは、われわれにできる地域貢献だと考えています。
 また、平成23年に利用者のおむつゼロを達成していますが、ひとつの通過点に過ぎません。元気になっていただくケアを実践するのと同時に、利用者の方が亡くなられるときには自宅でご家族に看取っていただきたいという想いがあり、そのためにもできるだけ食事や排泄を自然なかたちで行えるようにしなければならないと考えています。
 介護職にとっても、“おむつ交換が毎日の仕事”となれば、働き続けたいとは思えないでしょう。おむつを使わないケアはそうさせないための必要な取り組みでもあります。本来あるべき介護の仕事に魅力を感じて働いてくれるようにしていなくてはいけないと思います。
 他施設からの見学や体験研修の希望が増えてきましたが、職員が実践しているケアを言葉にして伝えていくことで成長し、質問に的確に回答するためにさらに勉強をするというよいスパイラルで回っています。

<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人昭徳会
理事長 鈴木 正修 氏 施設長 中村 範親 氏
法人施設 児童養護施設(駒方寮、名古屋養育院)/児童自立援助ホーム慈泉寮/障害者入所施設小原学園/障害者支援施設(小原寮、泰山寮)/障害福祉サービス事業授産所高浜安立/特別養護老人ホーム(安立荘、小原安立)/養護老人ホーム高浜安立/ケアハウス(高浜安立、大阪安立)/高齢者生活支援ハウス高浜安立/老人短期入所施設いこいの宿高浜安立/保育所(駒方保育園、光徳保育園、天王保育園)
併用施設 デイサービス(定員40人)/ショートステイ(定員20人)/居宅介護支援事業所
施設開設 平成5年
職員数 53人(常勤換算)
※平成27年11月現在
入所定員 100人
電話 0566−52−5050 FAX 0566−52−5599
URL https://tokuyo.anryuso.org/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成26年5月号に掲載されたものです。
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