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社会福祉法人高原福祉会

子どもの発達から将来までを見通し、保小の連携を行う 村山中藤保育園「櫻」

訪問日 平成24年3月13日
平成21 年の保育所保育指針の改定で、就学前の子ども一人ひとりの「保育要録(小学校への申送り事項)」を、保育所から小学校へ送ることが義務づけられた。今回は、約40年間小学校と連携し、現在の保育要録が作られるもととなる活動を行ってきた村山中藤保育園「櫻」を訪ね、その効果等を聞いた。

※ この記事は月刊誌「WAM」平成24年4月号に掲載されたものです。

子ども自身が持つ「育つ力」の発揮を目指して


 昭和41年に無認可でスタートした村山中藤保育園は、昭和43年に社会福祉法人高原福祉会として結成・認可され、昭和44年には東京都の認可保育所となった。平成9年には地域子育て支援センター、一時保育事業を、平成17年には夜間一時預かり事業を開始し、長年地域の保育ニーズに応えてきた法人である。 また、平成19年には、地域と自治体の要望を受けて、2kmほど離れた場所に村山中藤保育園「白樺」(定員110人)を新設(同時に、これまでの村山中藤保育園は、同園「櫻」に改称)。 平成21年には、武蔵村山市子ども家庭支援センターの運営を委託され、市民総合センター内の建物で実施している。


▲村山中藤保育園「櫻」外観

 開設当初、障害等がないにも関わらず保育士が声をかけても無表情・無反応であったり、体重が11sあるのに寝返りをしない、他人との関わりを求めず自己防衛力が非常に強い、といった10カ月児が複数いた。家庭環境も保護者も一見普通であったが、面談をしていくうちに、家庭では別室のベビーベッドに子どもを寝かせたままで、授乳やオムツ替え等が必要なときにしか子どもと触れあわない等のケースがあったという。
 同法人理事長の高橋保子氏は、こうした子どもたちに対し、健やかな育ちのために療育的な支援ができるかどうか、日々の仕事をしながら、専門家を訪ねたり大学の研究室に通うなど、保育の真髄を求め続けた。その当時、幼児教育と生涯学習との関連について研究者間で盛んに討議が行われており、「乳幼児期に必要な学習とは何か」、「子どもの育ちと適切な関わりについて」等のテーマのなかで、同氏は「人間が人間らしく育つ」という保育理念を見い出していった。そのために、とくに乳児期からの機能発達を重視し、子ども自身が持つ「育つ力」の発揮を目指した保育を展開してきた。
 同法人では、保育所としてスタートした当時から、小学校との連携に取り組んできたが、当時の議論のなかで保育園での生活・遊びと小学校の教科との関連等についても話題にのぼったことが、地域の小学校への訪問・連携につながっていくこととなった。

 
▲のびのびと過ごす子どもたち

 「連携にあたり、まず最初に行ったのは、子どもたちが入学する予定の小学校長を訪ね、保育園での生活・遊びがどのように小学校の教科(国語、算数、理科、社会)に関連していくのか、についての話しあいです。何度も通いました。小学校の先生方にとって、幼児期に育っていてほしいのは、例えば理科の場合は“観察力”ということでした。かつては、朝顔等の植物栽培が一般的によく行われていたと思いますが、植物栽培は小学校入学後にも行うため、園のときに体験してしまうと新鮮味がなく、子どもの興味が薄れてしまうので、できればやめてほしいという意見をいただきました。そこで何が適切なのかを考え、当園では5歳児クラスの保育に毎月1回、“草花観察”を行うこととし、40年ほどたった現在も続けています」(高橋理事長)。
 同園で行っている“草花観察”は、身近にある草花(主に雑草)を園外保育の際に1人1本ずつ採取し、園に持ち帰ってから絵に描くというもの。画用紙の左側に採取した草花を置き、よく見ながら右側に色鉛筆で丁寧に描いていく。「産毛みたいな細い毛が生えている」「葉っぱに細かい模様がついている」など、子どもたちの観察力には目を見張るものがあるという。また、回を重ねるごとにさらに細かいところまで目が向くようになり、観察力・集中力が養成されているのがよくわかるそうだ。30分程度集中して取組み、その後は押し花に。乾燥した草花をセロテープで貼り付けて完成させる。
 このほか、国語については生活用語の使い方と意味を理解しのびのびと話せる、算数は、遊び道具などで数の概念を10までしっかり区分できる、体育や音楽は、リズム感と平衡した全身的な動きができるようにしてほしい等の要望が寄せられ、これらを念頭に置いた保育を行っている。こうした取組みは、小学校の教師に異動があっても新任教師に伝えられ、双方の教育に生かす連携が続けられている。


▲楽しく食べながら、食事のマナーを身につけさせることも大切にしている


保育園の運動会はあえて小学校の校庭を借用


 そのほかに連携の一環として行われていることとして、保育園の運動会を開催するときに、必ず小学校の校庭を借りていることがある。 まず、借用の手続きや当日のトイレの準備等、細かい点は保育園の担当者が学校や市役所に出向いて行う。 運動会当日は、小学校の視聴覚・体育担当の教師のほか校長・副校長も参加するほか、小学校のブラスバンド部の生徒が入場行進曲を演奏して迎える。学校の教師にとっては、園児の姿から乳幼児の発達を具体的に確認できることで児童観が変わり、とくに1年生への対応に変化が現れるという。
 保育園側の利点としては、終了後に職員全員で清掃を行い、「お借りした場所を心をこめてきれいにして返す」というマナーや社会人としての責任感向上に役立っているという。
 夏休み期間には、近隣小学校の総合学習授業の一環として行われる「保育体験学習」に協力している。学校側のねらいは、「子どものために働く多くの人をみつめ、自分も多くの人の世話になったことに気づく」、「園児とふれあうことを通して、自分の幼かった頃を振り返り、世話になってきた人々に感謝の気持ちをもつ」の2点。毎年7月下旬から8月20日前後までの間に、小学5年生と希望する6年生から計80〜90人(1日あたり5〜6人)ほどが参加する。7月中旬には保育園長または主任が小学校に出向き、参加生徒に事前のオリエンテーションを行う。毎年伝えるのは、@大切な命を預かる仕事であることの自覚をもつこと、A表情に気をつけ、笑顔で過ごすこと、B言葉遣いや行動は、園児たちの手本であること、の3つのポイント。そのほか、乳幼児との関わりのなかで戸惑うと予測されることについて、事例をもとに伝える。
 保育体験の1日は、教師とともに午前8時過ぎに生徒たちが来園する。体験したいクラス(1〜5歳児)の希望を聞いて担当を決め、手洗い・うがいを済ませてから、子どもたちとの遊び、着替えの手伝い等の体験を進めていく。昼食・午後食も一緒に食べ、午後4時で終了となる。

 
▲広い園庭と、ステンドグラスが美しい別館の体育館。運動遊びもしやすい

 兄弟姉妹がいない家庭の生徒は、乳幼児に関わる機会が少なく、最初はぎこちないが、幼い子どもたちとふれあうことで優しさを自然に表現していくという。「学校生活とは違う、素直で優しい一面をかいま見ることができた」という教師からの感想も寄せられるそうだ。また、保育園児にとっては、単に遊んでもらって楽しかったという経験だけでなく、「お兄ちゃん・お姉ちゃんのように何でもできるようになりたい」という意欲がわき、遊びや生活によい変化が生まれていく。
 そのほか、年長児の学校見学会、上級生との交流会などで、スムーズな就学につなげている。


小学校教師の新任研修を園で実施、連携の素地をつくる


 また同園では、特別な支援が必要な児童について、新入学児童健康診断後もしくは保護者が就学に向けて教育相談に行ったあと、各学校長から連絡が入り、担任教師が日常の保育の様子をみるために来園することもしばしばある。観察後に、主に受け持っていた担当保育士と園での生活全般、関わり方、配慮が必要なことを伝えながら就学に向けた打ち合わせを行う。
 「就学後に担任教師が再び来園して、関わり方の相談にくることも少なくありません。状況にもよりますが、教室になじむまでの7〜10日間ほど、園で担当していた保育士が学校に出向き、朝の教室で様子を見守ったり、不都合な部分を少しでも改善できる方法、関わり方のヒント、配慮すること等を担任教師と一緒に考えていくことも行っています。どの子も新しい環境を恐れず、喜んで行けるようになることが何より大事ですから」(高橋理事長)。
 このような連携がスムーズにできる背景には、小学校教師の新任研修の場として、園でのボランティア研修を受け入れていることが影響している。保育実習を3日間行うなかで、子どもの意欲を引き出し、その気にさせていく保育士の関わりが参考になるという。以前の参加者には、アスペルガー症候群のある生徒との関わりで悩んでいたときに研修にくることとなった教師もいた。その生徒が同園の卒園生であったことから、在園中に担当していた保育士と話しあいの時間をとった。関わり方のヒントが得られ、事後のレポートでは、「ほめることの大切さを再認識させられた。生徒の小さな変化も見逃さずにたくさんほめることを実践していきたい」等と書かれていたそうだ。
 小学校教師が保育園で研修をする取組みは、保小連携の素地をつくるうえでも有意義なものとなっている。


日頃の交流があってこそ生かされる保育要録


 保育所保育指針の改定に伴い、平成21年から「保育所児童保育要録」(以下、保育要録)を各園が小学校へ送付することが義務づけられたが、同園では認可施設となって以来、就学先の小学校に児童一人ひとりの「児童票抄本」を作成して届けてきた。この内容を参考に、現在の保育要録の書式が作られていったという。
 現在、「櫻」では9校ほど、開設間もない「白樺」では2〜3校ほどに保育要録を届けているが、市内や近隣市の小学校には、すべて園長の若山剛氏が直接出向いて手渡している。
 「一人ひとりの子どもに対して言葉を選び、よりその子らしさが伝わるよう労力を割いて作る書類ですから、やはり生かしてほしい。そのためには、『あの保育園からきた書類だから』と、放っておくわけにもいかなくなる信頼関係を、日常の交流のなかで育てていくことが大切です」(若山園長)。


▲社会福祉法人高原福祉会 村山中藤保育園「櫻」
 園長 若山 剛氏

 実際に、ある小学校が保育要録を参考にしないで入学後の組み分けをしたところ、教師の呼びかけに対して非常に活発に反応するクラスと静まり返っているクラスに分かれてしまい、翌年からは必ず保育要録に基づいたクラス編成がされるようになった例もあるという。
 「交流や連携は、『大変だ』と思ったら終わりなので、覚悟をもって取り組むことも必要でしょう。当園ではすでに伝統になっていますが、私も最初は、負担をかける学校の先生方に気兼ねがありました。でも、学校の先生方も交流すると子どもたちをみる目が変わって、交流会等を楽しんでくださるようになっていきました」(高橋理事長)。
 このほか、18歳まで対応する子ども家庭支援センター(武蔵村山市委託事業)では、養育環境に問題がある家庭や虐待事例への対応も行っている。
 「学校のなかでは普通に過ごしていても、学校外で問題を起こす子どももいます。道を踏み外さないよう、保護者や教師等の関係者と話しあう場を持ち、改善するよう指導していきます。18歳までは絶対見放しません。そのために子ども家庭支援センターを運営しているともいえます。預かっている時間だけ子どもに対応していればよいわけではなく、子どもたちが将来、自分の人生をどう生きていくのかを考え、人間としての基礎をつくっていくのが社会福祉法人の仕事だと思っています」(高橋理事長)。
 教育と保育が一体化した実践を長年行い、また青少年期まで子どもたちの育ちをフォローしていく同法人。保育制度やシステムが変わっていったとしても、不変の価値をもち続けることだろう。

 ▲地域子育て支援センターには和室も備えられ、24 時間対応のショートステイ事業(利用は1 週間以内)も行っている。養護施設等にはよくあるが、保育園にあるのは珍しい  ▲園庭開放日には、保育園に入っていない地域の子どもと保護者が集う地域子育て支援センター


良質な保育のためには直接雇用を 社会福祉法人高原福祉会 理事長 高橋 保子氏

 どこの保育園でも、カリキュラムに沿った指導や遊びを行っているかと思いますが、これはあくまでも大人が企画したものであり、子どもの関心があってもなくても一律に行っている面があることは、認識しておく必要があるでしょう。子どもが関心をもっているかどうか、関心をもっていない子にどう呼びかけるか、保育士にはいつでも個別対応できる力が必要になってきます。
 保育士のそうした力量を育てるには、それなりの処遇や継続的な雇用体制が必要ですが、ここ4〜5年は、保育士養成校の卒業生を人材派遣会社が先に確保してしまい、直接採用することが困難になってきています。
 一方で、「1年程度であちこちの園に派遣されるため、本腰を入れて仕事ができない。継続的な保育を行いたい」ということで、ご自分で探して当法人に応募してくる人も出てきています。長く勤務することを望まない人にはよいのかもしれませんが、保育に真剣に取り組みたい場合には、本人のよい保育をする力を伸ばしてあげたいと考えています。これは、栄養士にもいえることです。
 人を育てる仕事ですから、働く保育士にとっても、働いてもらう園側からしても互いに相手を選びにくいのは問題があると思います。よくいわれる「保育士不足」も事実なのでしょうが、人材派遣会社の参入も影響しているでしょう。最近は、保育士資格と幼稚園教諭の両方の資格をもち、一度は幼稚園に勤務した人が応募してくる例も出てきているので、今のところ採用できないということは当園ではありませんが、派遣会社に紹介料を払うより、職員に直接還元することでより良質な保育につなげていきたいと考えています。


<< 法人概要 >>
法人名 社会福祉法人高原福祉会 理事長 高橋 保子 氏
法人施設 村山中藤保育園「櫻」(定員:250人)/村山中藤保育園「白樺」(定員:110人)/地域子育て支援センター/武蔵村山市子ども家庭支援センター(武蔵村山市委託事業)
設立時期 昭和43 年11月 職員数 35人(平成23年末現在)
電話 042-562-3141 FAX 042-562-3142
URL https://nakatou.jp/overview/sakura/


※ この記事は月刊誌「WAM」平成25年10月号に掲載されたものです。
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