第607回「中央社会保険医療協議会」総会(会長:小塩隆士・一橋大学経済研究所特任教授)が、4月23日に開催された。前回4月9日の総会(令和8年度診療報酬改定に向けた事実上のキックオフ)と同様、冒頭に開かれた診療報酬改定結果検証部会では、積み残された1項目「在宅医療、在宅歯科医療、在宅訪問薬剤管理及び訪問看護の実施状況調査報告書(案)」について説明があり、部会全員の同意を得た。そして続く総会で、次の5つの議題について話し合われた。
医療機関を取り巻く経営状況は、物価の高騰、人件費の増加により危機的状況に瀕しており、さらに新たな地域医療構想も含め医療提供体制改革の動きも進んでいる。そのことを踏まえると、従来の改定時と次の令和8年度改定では状況が大きく異なっているといえる。こうした背景から、キックオフ後2回目となる今回の議論では、支払側・診療側を含め、踏み込んだ議論展開となった。
1.費用対効果評価専門組織からの報告
エプキンリ皮下注の費用対効果について評価案が提示され、質疑なしで承認された。
2.入院・外来医療等の調査・評価分科会からの報告
令和6年7月3日の中医協総会で了承された令和6年度入院・外来医療等の調査概要に基づき、令和7年度調査の具体的設計を行った。従来、診療報酬改定を行う年度は、療養病棟や障害者病棟については調査対象施設としていなかったが、同会での議論を踏まえ、本年度よりこれらの施設に対しても新たに調査を行う。
調査項目は、前年度と同様の内容に加え、「医療資源の少ない地域における保険医療機関の実態について」が新たに加わった。また、DPC/PDPS(診断群分類に基づく包括払い方式)についても特別調査を実施予定だ。
診療側より、「現在、医療機関の経営が非常に厳しい状況にあるため、医療機関の経営悪化のエビデンスを明示できるような調査内容を検討していただきたい」という意見が出た後、承認を得た。
3.歯科用貴金属価格の随時改定
3か月ごとに見直しを行っている歯科用貴金属価格の見直し(今回は6月に予定)について事務局より報告があり、質疑なしで承認された。
4.診療報酬改定結果検証部会からの報告
令和6年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査は、以下4項目(Aは本総会冒頭に承認)となり、その内容と調査方法について説明がなされた。
@ 精神医療等の実施状況調査
A 在宅医療、在宅歯科医療、在宅訪問薬剤管理及び訪問看護の実施状況調査
B 長期処方やリフィル処方の実施状況調査
C 後発医薬品の使用促進策の影響及び実施状況調査
これらについては、診療側と支払側(健保組合)から多くの意見が出された後、総会の承認を得た。主な意見は次の通り。
○ 診療所や訪問看護ステーションと連携している歯科医療機関が少ないなど、依然として課題があるので、こういった連携を推進するための方策について検討してもらいたい【診療側】
○ リフィル処方箋について、保険者として患者の認知度を高める取り組みを行う必要があると認識しているが、一方で医療機関側の認知度を高めることも課題だ。これらを踏まえ医学的な判断を前提としつつ、可能な限り患者の希望に沿い積極的に活用してもらいたい。また長期処方の期間をより長くすることで、患者の通院負担を軽減する点もある【支払側】
○ 後発医療薬品の安定供給についてこれまでも繰り返し課題視されてきたが、現場では使用促進、選定療養に大きな努力を払っている。次回改定に向け引き続き実効性のある対策を検討してほしい【診療側】
○ 統計学的には有効な調査であるが、有効回答率が残念ながら高いとは言い難い。回答率の向上に向けていっそう取り組みが必要ではないか【支払側】
5.医療機関を取り巻く状況
事務局(保険医療企画調査室長)より、課題として次の3点が提示され、それに基づき診療報酬改定の核心部に触れる議論が各委員の間で交わされた。
〈課題〉
〇 近年の医療機関の経営状況の実態やその要因について、どのように考えるか
〇 特に病院においては、収益の増加を超える費用の増加に伴い収支の悪化がみられるが、人件費や材料費、委託費などの各費用項目が増加していることやその要因について、どのように考えるか
〇 今後、医療機関の収支を踏まえた診療報酬の評価の検討を行うに当たって、更にどのような分析を行っていくことが考えられるか
〈主な意見〉
○ 現在、医療機関の経営状況は危機に瀕しており、賃金上昇と物価高騰、さらに日進月歩する医療の技術革新への対応ができていない。このままでは患者さんに十分な医療が提供できず、ある日突然地域から医療機関が無くなってしまうなど、地域医療が崩壊しかねない状況にあることを知っていただきたい【診療側】
○ 診療報酬は公定価格で、コストの上昇を価格に転嫁できないことから、純粋な形で診療報酬引き上げを行うべき状況と認識している【診療側】
○ 資金繰りについても苦しんでいる医療機関が多いため、もっと詳細に実態を分析すべきではないか。また、経常利益データの出し方についても、補助金を除いた医療利益で出せないものか。国としてしっかり精査したデータを示してもらいたい【診療側】
○ インフレが進むなか、医療経営が厳しい状況であることは理解するが、過去のデフレ下においてどうだったかを振り返ると、診療報酬が引き上げられた結果、医療費が膨らみ、医療費を支える現役世代の負担が限界に達しているという状況がある。このような点も鑑みて、診療報酬改定の議論を進めるべきではないか【支払側】
○ 本日の資料にはないが、保険者の立場としては、医療費を支える保険料やそのベースとなる被保険者の報酬レベルが、医療費単価の水準と乖離していることも考慮すべきである【支払側】
今後の中医協のスケジュールであるが、5〜6月に医療機関を取り巻く状況と医療提供体制について確認を行い、7〜9月に総論的議論、10〜12月に個別具体的議論を経て、12月に令和8年度の予算編成、来年2月頃に答申を行う予定となっている。