厚生労働省の「精神保健医療福祉の今後の施策推進に関する検討会」(座長:田辺国昭・東京大学大学院法学政治学研究科教授)は6月9日に第7回会合を開催し、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」(いわゆる、“にも包括”)における医療提供体制の構築・推進に向けて、@相談支援事業所、A精神保健福祉センター、B総合病院精神科に所属する構成員・参考人からヒアリングを行った。
同検討会は、令和4年の精神保健福祉法改正(主に令和6年4月施行)で導入された「医療保護入院の入院期間上限および更新制度」「入院者訪問支援事業」「精神科病院における虐待防止措置」などについて取り組み状況をフォローアップするとともに、精神科病院における行動制限の最小化や、非自発的入院のあり方、さらには“にも包括”の構築・推進に向けての体制確保や人材確保――などについて幅広く検討する目的で、令和6年5月に設置された。
令和4年精神保健福祉法および障害者総合支援法改正でうたわれた「施行後5年を目途とした見直し」(改正法附則に規定)や、第8次医療計画(令和6年〜11年)の中間見直しに反映させる狙いであり、ここまでのところ、第3回〜第6回までテーマ設定のうえヒアリングを重ねており、この日は“にも包括”に関する2回目のヒアリングが行われた。
交換する情報の「質・価値・鮮度・精度」が大事
「相談支援事業所」の立場から、岡部正文構成員(日本相談支援専門員協会理事/社会福祉法人ソラティオ理事長)が、「基幹相談支援センター」「市町村障害者相談支援事業(委託相談)」「計画相談支援」という3層の相談支援のプレーヤーがどのように“にも包括”に関わっているかについて報告。課題として、医療・保健・福祉の各職種による「情報連携」にあたっては、関係者同士の“顔の見える関係性”を出発点として、共有・交換する情報の「質・価値・鮮度・精度」が大事であると指摘した。
また、相談支援事業所として医療機関と連携するうえでハードルと感じる点を問われ、「メールが使えない医療機関が多く、電話も17時過ぎに止まってしまうなどの現状がある。連絡を取り合う“ツール”の環境が整えば、もっと連携がとりやすくなるのではないか」と答えた。
精神保健福祉センター=「役割は拡大するも不十分な人員配置」
「精神保健福祉センター」の立場からは、辻本哲士構成員(滋賀県立精神保健福祉センター所長)がその機能と役割について報告。@市区町村に対する技術的・人的支援、A医療アクセスの紹介や診療導入を含めた精神科医療機関との協力・連携、B「精神保健に関する課題を抱える者」(治療契約困難者、依存症、ひきこもり、自殺ハイリスク者、精神科救急受援者等)への直接支援や専門プログラムの実施などを担いつつ、精神障害者保健福祉手帳の判定、精神通院医療の支給認定、精神医療審査会の審査に関する事務、人材育成、普及啓発に至るまで、広範な業務を所掌しているとコメントした。
そして、「精神保健に関する課題を抱える者」は、支援体制からこぼれ落ちて潜在化し、課題が複雑困難化し、多分野にわたる多様な支援が必要となる一方で、常勤職員数が10人以下のセンターが23.1%、常勤専任精神科医不在のセンターが20.2%というように、人員配置が不十分であるとの現実を指摘。「期待される責務は今後ますます増加すると見込まれる。その精保センターで精神科医が減っていることの困り感を知ってほしい」と訴えた。
精神身体合併症=「必要かつ適切な医療が受けられる体制を」
「総合病院精神科」の立場からは、田中裕記参考人(国立病院機構九州医療センター精神神経科/合併精神センター)が、精神病床を有する総合病院で、どのような患者のどのような状態に対応しているかを報告。
「精神障害に伴う身体合併症」(アルコール依存+肝硬変・肝性脳症など)、「精神障害を有する者に持続する身体合併症が生じる事例」(統合失調症+がんなど)、「精神の問題か身体の問題かの鑑別」(急性一過性精神症→検査により抗NMDA受容体抗体脳炎と鑑別)など、パターン別に事例を掲げて紹介し、専門性の高い治療も含めて精神・身体双方をカバーする役割を果たしていることを示した。
そのうえで、医療計画や地域医療構想の策定にあたって、精神疾患のあり・なしに関わらず、必要かつ適切な医療が受けられる体制が確保されるよう、検討を求めた。