5月9日にスタートした社会保障審議会福祉部会「福祉人材確保専門委員会」(座長:松原由美・早稲田大学人間科学学術院教授)は、「2040年に向けたサービス提供のあり方」検討会でまとめた中間報告をもとに、介護人材の確保・定着について論点を整理、各委員に意見を求めた。2回目となる今回(6月9日)は、関係団体、教育機関等に所属する7名にヒアリングを行い、喫緊の課題である人材の確保と定着について、さらに一歩踏み込んだ議論が展開された。
人材確保と定着を、4つの論点から掘り下げ
第1回の委員会で提示された4つの論点と、それに関する各委員からの意見は以下の通り。
論点T:高齢化や人口減少の地域差がある中での各地域における人材確保の取組
・各地域でのプラットフォーム構築や、介護助手の普及促進、多様な働き方・介護福祉人材の活用などをさらに全国的に広げ定着させることが必要。
・地域単位でフォーマルとインフォーマルな対応策を実践し、柔軟かつ分野横断的に継続できるような体制づくりが欠かせない。
・介護分野を超えた連携強化の枠組みづくりや、重層的支援体制整備事業との連携による包括的で伴走的な支援強化の継続、地域にマッチした支援体制づくりが求められる。
・都道府県として広域的な観点から市町村をサポートし、連携を強化することが必要。
・1人当たりの介護を何人の職員で対応するか、都道府県や地域によって異なる部分を分析し、施策と連動させていく。
論点U:若者・高齢者・未経験者など多様な人材の確保
・未だに介護は「3K」というイメージが払拭できていない。プラスの魅力を裏付けるデータ等を積極的に発信することが重要。
・福祉の仕事の魅力ややりがいが届いていない。普通科に在籍する高校生に魅力を発信して、福祉の専門学校・大学に導いていくことも必要。
・働きやすい環境をアピールすることも採用につながる要素となる。
論点V:中核的な役割を担う中核的介護人材の確保
・多様な介護人材の指導・育成、介護職チームによるケアのコーディネートとチームメンバーの人材マネジメントなど、中核的な介護人材が担うべき役割はさまざまある。これらの役割を担うために必要なスキルを身につける機会が十分に用意されているとは言えない。
・介護福祉士の評価のあり方について、介護人材のキャリア形成の道筋を明らかにしつつ、介護報酬や配置基準といった客観的な評価と処遇に結びつけていくことが不可欠。
・留学生について、介護福祉士養成施設卒業者への国家試験義務づけを5年前に検討したときには、特定技能で5年間働けることがそれほど知られていなかった。また、来年から施行される介護福祉士試験の「パート合格制度」もある。環境整備がずいぶんとなされており、これらをうまく活用して、経過措置延長をしないということも考えられるのでは? 一生懸命努力して資格を取得することと、残念ながら合格できないことの区別はあってしかるべき。
・経過措置が終了して、介護福祉士国家試験の一元化が進むと確信していたが、いろいろな意見があるので、委員会の十分な審議の時間が必要。多くの介護福祉士や都道府県介護福祉士会の会長から、これ以上資格の価値を下げないでほしいという声があがっている。
論点W:外国人介護人材の確保・定着
・外国人介護人材については、現場における日本人の負担増の懸念や日本語能力の課題などを踏まえれば、安定的な人材確保に向けて、まずは日本人介護職員の賃金や労働条件の改善など、環境改善に取り組むことが重要である。
・日本語教育や文化の違いの対応、生活環境整備など、事業所だけでは難しい状況がある。小規模な法人では、外国人介護人材の受入れも厳しい状況。費用面(渡航費用、月々の管理費)や更新手続の煩雑さなどを地方公共団体と協働できれば、中山間地域や僻地でも外国人介護人材の確保につながるのではないか。
・「准介護福祉士」については、国家試験に合格していない者が手にする資格であり、この委員会で廃止に結びつけていただきたい。
介護福祉士資格の「価値」を問う議論へ発展
今回(第2回)のヒアリングでは、他産業との賃金格差による人材流失、介護DXと外国人介護人材導入を併せて行うメリット、ハローワークの機能強化、潜在介護福祉士の活用、といった多岐にわたるテーマが投げかけられた。
また、その中で最も意見が多く出たのが、養成校における介護福祉士資格取得に関する内容で、卒業後に国家試験を受け合格して登録するケースと、経過措置を受けるケースが、混在している点についてだった(試験を受けなかった、あるいは受けても合格しなかった養成校卒業者については5年間介護福祉士として登録できるという経過措置が適用される。外国人留学生が多く申請している)。
この議論は、介護福祉士資格の「価値」を問う重要なもので、経過措置延長を期待する声(現場でサービスを実際に提供する関係団体等)と望まない声(職能団体や教育機関等)に二分された。
経過措置延長を望む側は、慢性的な人手不足を担う労働力として外国人材を捉える一方、望まない側は、このまま経過措置を続けることで国家資格の価値を下げかねないと懸念、介護福祉士資格取得方法の一元化を訴えた。
なかには経過措置延長を廃止して一元化することで、外国人の採用が難しくなり、養成校の廃業に歯止めがかからなくなるのでは、と不安を示す声もあった。実際のところ、養成校で教育を受けた日本人の合格率は90%前後と高いが、同じ教育を受けたにも関わらず、留学生の合格率は約30%と低い。この差が生まれるのは、専門分野の学力においてではなく、試験問題を読み解く日本語力が低いためと考えられている。こういった現状の解決策も含め、委員会での今後の話し合いの行方が注目される。
また、福祉系高校卒業者の合格率も比較的高く、高校における介護教育の質の高さが示された。さらに今年度から実施される「パート合格制度」にも大きな期待が寄せられていた。
同委員会は、夏頃までにヒアリングを重ね、秋のとりまとめを経て、福祉部会に報告される予定。