2040年以降に照準を合わせて各都道府県で来年度以降に策定する「新たな地域医療構想」。本構想について、策定手順や留意事項を“ガイドライン”としてまとめるべく、厚生労働省は「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会」を設置し、7月24日に第1回会合を開催した。
検討会は、診療側・保険者側の関連団体、患者支援団体、自治体担当者、学識者によって構成され(全23人)、座長には遠藤久夫氏(学習院大学長)が就任。新地域医療構想以外にも、医師確保対策や医師偏在是正策の実施に向けた検討、第9次医療計画(2030〜2035年度)の策定などに向けた検討も行い、年末から来春にかけて報告書を取りまとめることとしている。
検討会の冒頭、厚生労働省医政局の森光敬子局長が挨拶に立ち、「今後2040年頃を見据えると、医療介護の複合ニーズを抱える85歳以上の人口の増大、現役世代の減少が見込まれ、医療機関の役割分担の明確化、医療機関の連携・再編、集約化を推進する必要がある」とコメント。専門的見地からの議論に期待を表明した。
「ガイドライン」を今年度中に発出 ⇒ 2026年度から都道府県で策定作業へ
「地域医療構想」は、中長期的な人口構造や地域の医療ニーズの質・量の変化を見据えて、今後どのような医療提供体制に見直していくかを都道府県ごとにまとめた、いわば“医療提供の将来像”である。現行の地域医療構想(2016年度〜2025年度)は、もっぱら入院医療(病床の機能分化・連携)に焦点化した内容だが、「新構想」ではこれを「外来医療・在宅医療」「介護との連携」「人材確保」まで広げて、医療提供体制全体の将来ビジョンへとアップグレードすることが、2024年12月の「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」(新たな地域医療構想等に関する検討会報告)で決定している。
新構想策定までの段取りは、国が「区域の分け方」や「需要の推計方法」など、策定作業に欠かせない手順・仕様を、「ガイドライン」として2025年度末までにとりまとめ、それをもとに、2026年度から各都道府県で策定作業が始まる流れとなる。本検討会では、ガイドラインに盛り込む内容を詰めることが、主要なミッションとされた。
あわせて、新地域医療構想と連動して策定される2027年度からの「第8次医療計画(後期分:外来医療、医師確保、在宅医療)」や、2030年度からの「第9次医療計画」に盛り込む各論の課題についても検討を行うこととして、検討会の下部に4つのワーキンググループを設置し、同時並行で議論を進めることとされた。
人口減少への対応――「広域化」は避けられない
この日の検討会では、事務局から「構想区域の設定のあり方」や「医療機関機能」に関する資料が配布された。
「構想区域」とは、地域医療構想で必要な医療資源量を見積るために区分けされた単位圏域(全国に339区域)のことで、通常は医療計画で用いられる「二次医療圏」と重なっている(ちなみに「二次医療圏」とは、エリア内で入院医療が完結するように、人口20万人以上を目安として、地理的条件・日常生活の充足状況・交通事情を加味して定められた区域のことで、2024年4月現在「330」の二次医療圏が設定されている)。
ただし、人口減少が進んだ区域では、医療ニーズの縮小が進む一方、医療従事者の確保が困難となって供給面の制約が生じ、「医療提供体制を完結させる単位」として必ずしも機能しているとは言いきれない側面がある。地域医療構想の策定にあたっては、この区域設定の在り方について、「既存の区域のままでよいか、再設定が必要か」、判断が求められることとなる。
この区域設定の在り方に関して、厚生労働省事務局はこの日、以下の2項目の論点を提示した。
○ 二次医療圏や構想区域について、今後の人口の減少等を踏まえながら、一定数の医師を確保し急性期の拠点機能等を確保していくため、他の圏域との統合を含む二次医療圏・構想区域の見直し(広域化)の検討が必要。
○ ただし、人口が少ない二次医療圏等においては、高齢者救急・地域急性期の機能の確保や搬送手段の確保等を行うことが前提であり、離島などのアクセスに特段見直しが困難な事情がある場合があることに留意が必要。
あわせて、区域見直しの例として、@隣接する区域との合併による広域化、A隣接する医療圏や県をまたいでの連携による対応――という2通りの方法を図で示した(図1・図2)。
図1 人口の少ない地域における構想区域の見直しの例@(圏域の広域化)
(資料2「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会及びワーキンググループの議論の進め方等について」, 52P)
図2 人口の少ない地域における構想区域の見直しの例A(隣接する都道府県との連携)
(資料2「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会及びワーキンググループの議論の進め方等について」, 53P)
急性期拠点機能の病院に求められる「医師派遣」の役割
「医療機関機能」とは、新構想から組み込まれることになる医療機関の「機能類型」のこと。@急性期拠点機能、A高齢者救急・地域急性期機能、B在宅医療等連携機能、C専門等機能――の4機能があり、現行の構想で用いられている「病床機能」とあわせて、各都道府県が構想区域ごとに必要な機能を定量的に推計するとともに、医療機関には自院に該当する機能を1項目ないし複数項目選んで報告を求め、地域内の関係者による協議を通じて適切な機能・役割分担および連携を図るものとされている(ただし、医療機関機能報告制度の創設を定めた医療法等改正案が先の第217回通常国会で成立に至らず、継続審議の状態)。検討会では、こうした「医療機関機能」の報告項目や報告方法などの細部を詰めることとなる。
この日は、厚生労働省事務局が、それぞれの医療機関機能のイメージを具体化するために、「大都市」「地方都市」「人口の少ない地域」という立地ごとに、具体的にどのような役割が期待されるかをマトリクスで示した図を提示した(図3)。
たとえば、急性期拠点機能を掲げる病院の役割としては、大都市・地方都市の区域については「都道府県からの依頼等を踏まえ、地域の医療機関へ医師を派遣する」と医師派遣機能の具備を求める一方で、人口の少ない地域については、「手術等の医療資源を多く投入する医療行為について集約化し、区域に1医療機関を確保する」という具合に、機能集約の方向性を示すものとなっている。
図3 医療機関の役割のイメージ(案)
(資料2「地域医療構想及び医療計画等に関する検討会及びワーキンググループの議論の進め方等について」, 80P)
「必要な医療が受けられる」ために何が必要か
構成員からは、構想区域の設定に関して、「二次医療圏で完結させるという前提で医療提供体制を組み立てるのは限界」と柔軟な見直しを求める意見が相次ぎ、「人口が減っていく中では『戦略的な再編をどう進めるか』が大きなテーマだ」との指摘も出された。
医療機能の確保の在り方に関しては、「急性期拠点機能を持つ病院を絞り込まないと、構想区域によっては共倒れになったり、中途半端な機能しか果たせないようなことになりかねない」と集約化を求める意見が出される一方、地方での集約化に対しては、「人口が少ないからといって、地域住民への医療提供がなくならないように、アクセス面も含めて検討してほしい」と配慮を求める声も上がった。
また、「利便性という観点から『集約化されたら困る』と考える人が多いかもしれないが、結果、必要な医療が受けられなくなっては元も子もない。地域医療をめぐる課題はなかなか国民に伝わっておらず、メディアも巻き込んでのわかりやすい発信が急務ではないか」と丁寧な情報提供が不可欠とする意見も出された。