厚生労働省の社会保障審議会障害者部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)が7月24日に開催され、@地域差の是正に向けた対応、A「総量規制」等の在り方、B事業者指定に当たっての市町村からの「意見申出制度」の在り方、Cサービスの質の確保のための方策、を議題に議論が交わされた。
かねてから部会で取りざたされていた「共同生活援助(グループホーム)に総量規制を導入するべきかどうか」という論点が、この日、初めて主要議題として正式に取り上げられ、委員からは、目的と手段の整合性や懸念点、導入する場合の条件、他に検討されるべき施策、根拠となる指標の妥当性――といった様々な角度から意見が表明された。
需給バランスが悪いグループホーム
「総量規制」とは、地域のサービス供給量が需要を大幅に超過することがないように、サービス事業者の指定権者である都道府県・政令市・中核市が一定の条件下で事業者を「指定拒否」することのできる仕組みのこと。現在、障害者入所施設・障害児入所施設のほか、「生活介護」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」「児童発達支援」「放課後等デイサービス」――という5つの通所系サービスが対象となっている。
この日の部会では、事務局が100ページを超える資料を用意して、「障害福祉サービスの地域差の状況」「総量規制に関する市町村の受け止めや運用の実態」「意見申出制度の活用状況」「サービスの質の確保に向けた取り組み状況」などを詳細に説明。下記のような状況について共有したうえで、4つの主な論点を提示した。
○ 市町村に対するアンケート結果から、新たに総量規制の対象に追加するべきサービスとして最も回答を集めたのが「共同生活援助」。理由は、「他サービスと比べて事業所数の増加率が高い」「事業者の質に疑義があるケースが多い」「軽度者向けの施設が多く、重度者向けの施設が足らず、需給バランスが悪い」など。
○ 第6期障害福祉計画における見込量と実績を比較したところ、「共同生活援助」の給付実績が見込量の110%を超え、その乖離幅はすでに総量規制が導入されている「就労継続支援A型・B型」や「生活介護」を上回って、障害者(18歳以上)向けの全サービスのなかで最も大きかった。
○ 実際に「総量規制」を実施している指定権者は、全体の1割を下回っている。
○ 指定権者である都道府県が、市町村の申入れを受けて事業者指定に“条件”をつけ、これに反した事業者は勧告や指定取り消しの対象となる仕組み=「意見申出制度」(2024年4月施行)について、施行半年後の時点で「制度のことを知っている」とした市町村は半数にとどまり、制度活用の前段となる通知発信依頼を行っている市町村は1割に過ぎない。
主な論点(資料から要約して掲載)
1 地域差の是正に向けた対応について
・地域差の是正にあたり、どのような対応が必要か
2 「総量規制」等の在り方について
・共同生活援助(グループホーム)に係る総量規制の取扱いをどう考えるか
・見込量を、地域差の是正の観点も踏まえて、どう設定するべきか
・総量規制の活用促進についてどう考えるか
3 指定に当たっての市町村からの「意見申出制度」の在り方について
・更なる制度の活用促進に向けて、どのような方策が考えられるか
4 サービスの質の確保のための方策について
・実績や経験の少ない事業者が増えているなか、サービスの質をどう担保するか
・運営指導・監査の見直し(令和7年度〜)も踏まえ、さらに何をするべきか
重度知的障害や強度行動障害を中心とするホームは“別枠”で確保を
これを受けて、委員からは以下のように、必要な機能が充足されていないなかで総量規制が導入されることへの懸念が示された。
・ 現状において、重度の知的障害者や強度行動障害を併せ持つ人が、なかなか入居を受け入れてもらえない実態がある
・ 成人の知的障害者の91%は現在家族と同居していて、18歳以上の在宅知的障害者は73万人にのぼる。今後グループホームのニーズが減ることはない
・ 難病患者はなかなかサービスを利用できない。特に医療的ケアや身体介護のニーズが高い人ほど、受け入れ先が限定されやすい
・ 精神科病院から地域移行を進めるうえで、グループホームは有効な社会資源の一つ。長期入院の解消が途上にある現時点での総量規制導入は、慎重であるべき
そのうえで、仮に総量規制を導入する場合の“条件”として、「ニーズを総量で捉えるのではなく、障害種別や利用者の状態ごとの充足状況を踏まえた対応をとること」「重度障害対応部分を別枠とすること」「利用ニーズの把握方法に関して、家族同居を前提としない設問に見直すこと」などを求める声が上がった。
関連して「重度知的障害や強度行動障害を中心とするグループホームを、一般のグループホームとは別枠で確保すべき」「訪問看護などと連携強化した『医療的グループホーム』をつくっていただきたい」「グループホームはサービス提供者の層の明確化が必要。総量規制と併せて、次の報酬改定で検討してほしい」といった、新たなグループホーム類型の創設を求める意見も提起された。
初回指定を“お試し的期間”に位置づける「プロセス改革案」も
「事業者指定の在り方」全般についても議論が交わされ、委員からは「初回指定の有効期間を短縮して、その間の実地指導や市町村の評価を見て、更新するか否かを決める方法に転換してはどうか」と、プロセス改革のアイディアが提起された。また、グループホームの事業所指定の条件に「地域移行支援への協力」を加える、指定申請時に「従事者の研修受講計画」の提出を求める――といった改善案も示された。
一方で、総量規制実施の根拠となる指標=「サービス見込量」の精緻化を求める意見が、複数の委員から提起された。現行の推計方法では、「サービスの利用実績」とその「伸び」から算出しているため、供給量が増加中の地域では将来に投影する見込量もさらに上昇し、減少中の地域ではさらに下降した推計値が示される構造にある。委員からは、「潜在ニーズをどのように把握するかも含め、算出方法の再検討は必須」などと注文がつけられた。サービス見込量の算出方法が見直されれば、今後の総量規制の“かかり方”に影響が出るのは必至とみられる。