厚生労働省の地域医療構想及び医療計画等に関する検討会(座長:遠藤久夫・学習院大学長)が10月15日に開催され、「新たな地域医療構想策定ガイドライン」をめぐって、@病床等の医療需要の見込、A地域医療構想の策定・取組の進め方を議題に議論が交わされた。
現行の地域医療構想は、2025年度に照準を合わせて必要な医療提供体制の青写真を描いたものだったが、新たな地域医療構想(以下、本記事では「新地域医療構想」)は2040年度頃を念頭に将来像を打ち出すものとして、国が2025年度中に策定手順や留意事項を“ガイドライン”として示し、それをもとに2026年度から実施主体である各都道府県で策定作業に入る流れとなっている。
この日の検討会では、その主要事項の一つである「必要病床数」の推計方法について、より実態に近い値となるように、「受療率の低下」を組み込んで別途設定することを厚生労働省事務局が提案。構成員の賛同を得た。また、地域の医療資源の現状を把握する政策的手段である「病床機能報告制度」について、報告内容の客観性を担保する趣旨で、同制度の機能区分と診療報酬上の「入院料」の対応関係を“目安”として整理する案を事務局が提示。複数の構成員から運用上の注文がつけられたものの反対論はなく、検討会としては方向性を容認した格好となった。
現構想の推計値から大きく“下振れ”した入院患者数。
要因は「医療技術の高度化」「医療提供の効率化」「受療行動の変化」
現行の地域医療構想(〜2025年度)で用いられている必要病床数は、医療資源の投入量に応じて、高度急性期・急性期・回復期・慢性期に区分した延べ入院患者数で「医療需要」を見込み、これを病床稼働率で割り戻して算出したものである。ただし、年齢階級ごとの医療需要や医療提供のありようの変化は考慮されておらず(いわゆる“現状投影”の推計)、実際に2025年となった今、推計値(現状投影)と実績値の動きを比べてみると大きく下振れしていることがわかった(2013年の実績を100とした時の指標が、現状投影の推計値では「増加」と見込んでいたところ、実際には「減少」していた=図1参照)。
資料1「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(構想の策定・取組の進め方、病床等の医療需要の見込み)」34頁
こうした乖離が発生した原因として、厚生労働省事務局は、@地域医療構想の実現に向けた取り組み、A医療技術の高度化・低侵襲化、B在院日数短縮などの効率化の取り組み、C患者の受療行動の変化、D人口構成の変化といった要素が考えられると分析。そのうえで、新地域医療構想の策定に用いる必要病床数は、より実態に近い値となるように、従来の現状投影版に加えて、受療率低下や医療提供のありようの変化を想定に組み込んだ「改革モデル」の推計値も別途盛り込むことを提案した(下記参照)。
● 医療技術の進歩や医療提供の効率化の取組等の複数の要因から受療率は低下してきていることを踏まえ、改革モデルとして受療率の低下を組み込んで計算することとしてはどうか。
● また、包括期機能について急性期機能の病床にかわって高齢者等の急性期患者を受け入れることや回復期リハビリテーションの効率的な提供、医療機関の連携・再編・集約化に向けた取組による効率化等を、改革モデルとして組み込むこととしてはどうか。
あわせて、検討にあたっての参考データとして、以下のような事象を紹介した。
「資料1 新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(構想の策定・取組の進め方、病床等の医療需要の見込み) https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001578341.pdf
〇 現状投影で、日本全体としては入院患者数は増加する見込みであるものの、人口規模10万人未満の二次医療圏では半数以上で入院患者数が減少する見込みであること【資料33頁】
〇 医療の高度化・低侵襲化、在院日数短縮、在宅医療や外来医療の充実、介護への移行等を背景に、年齢階級別の入院受療率は低下傾向にあること【資料35頁】
〇 医療資源の入院初期における集中的投入の傾向が加速して、在院日数短縮など効率化の取組が進んでいること【資料36頁】
〇 脳血管疾患の患者数が年々減少しており、ADLの向上や在宅復帰を目的とした集中的なリハビリを受ける患者数の減少が見込まれること【資料38頁】
〇 回復期リハビリテーション病棟と地域包括ケア病棟とで共通した疾患があり、いずれの疾患も回復期リハビリテーション病棟の在院日数が長くなっていること【資料40頁】
〇 高齢者救急の多くを占める大腿骨近位部の骨折について、受傷後早期の手術実施が重要とされているが、欧米よりも待機時間が長いとされ、医療圏毎に入院から手術までの日数はばらつきがあること【資料43頁】
「高齢者救急」は包括期機能の病院が受け持つ?
厚労省は「一律に線引きできるものではない」との説明
こうした事務局案に対して、検討会の構成員からは「定期的な推計値見直し」を求める注文がついたほかは、軒並み賛同の意思表示がなされた。
ただ、一部「疑義の指摘」もあり、それは事務局提案の文中にある「包括期機能について急性期機能の病床にかわって高齢者等の急性期患者を受け入れる」というくだりについて、《今後、高齢者救急の受け皿は包括的機能の病床を有する病院に一本化する》ことを意味するのかを問うものであった。
具体的には、次のような意見である。「現状では高度急性期や急性期の病院も、多くが高齢者救急も担っている。それは今後どうなるのか」「救急を受けない包括期機能の病院は、包括期機能ではなく在宅医療等連携機能の位置づけになるのか」「高齢者救急のなかには急性期病院で対応したほうがよい場合もあるだろうし、そもそも回復期リハの機能中心に取り組んでいる医療機関には対応が難しいだろう。包括期機能の病床で受け持つことにしたら、現場に混乱を招くのではないか」。
これに対して厚生労働省事務局は「一律に《高齢者救急=包括期機能》という位置づけではない。今後、救急搬送が増加する中で、高齢者救急を包括期機能の病院で支えていただくことは必要だが、急性期機能と必ずしもきれいに“線引き”できるわけではない。地域ごとに、急性期・高度急性期の病院で引き続き高齢者救急も含めて対応が必要なケースもあれば、役割分担をすることが望ましいケースもあると考えられる」と説明し、理解を求めた。それに対し構成員からは、「高齢者救急」と「初期救急/二次救急/三次救急」の位置づけについて、さらに整理を求める意見が出された。
病床機能の報告に全国共通の目安を。
報告内容次第で診療報酬に「差」がつくことのないように
一方、この日は、地域の医療資源の現状を把握する政策的手段である「病床機能報告制度」も俎上に載せられた。同制度は、各病院が地域の中で自院の病床が果たす機能を「@高度急性期機能、A急性期機能、B回復期機能(現在は「包括期機能」に変更)、C慢性期機能」の中から自主的に選択して、報告する仕組みである。ただ、客観的指標に照らして@〜Cのどれに該当するかが自明となる全国共通のルールはなく、都道府県ごとにそれぞれのやり方で運用されている。結果、同じ入院料区分でも、各病院が報告した機能区分は必ずしも一様ではなく、都道府県によってその一致度に大きくバラツキが存在する事態となっている。
こうした現状を、厚生労働省事務局は資料として提示。2024年12月にとりまとめられた『新たな地域医療構想等に関する検討会報告書』において、すでに「診療報酬における届出等に応じた客観性を有する報告とし、一定の医療機関の役割を明確にする仕組みとすることが適当である」と提言されていたことも併せて紹介し、次のように提案した。
● 病床機能報告において、病床機能区分の選択にあたって客観的な報告に資するよう、入院料の種類ごとに対応する機能区分の目安を整理することとしてはどうか。
検討会では、医療関係団体を母体とする構成員から「診療報酬上の届出は、病床機能報告のあくまでも『目安』であり、参考としての位置づけであることを確認しておきたい」といった念押しや、「最終的には医療機関の自主性に基づき、地域の調整会議で話し合って決められるようにしていただきたい」と柔軟な適用を求める意見が出された。
また、現在中央社会保険医療協議会(中医協)で進められている次期診療報酬改定での議論にも言及して、「病床機能報告における報告内容を診療報酬と紐づけることは、やめていただきたい。例えば、同じ急性期一般入院基本料で、『急性期』と報告した場合と『包括期』と報告した場合とで、診療報酬に差が出るようなことがないようにしていただきたい」と釘を刺す意見が出された。
ただ、全体として事務局案への反対論はなく、検討会としては方向性を容認した格好となった。
新地域医療構想での今後の検討課題
このほか、「地域医療構想の策定・取組の進め方」に関して、地域医療構想調整会議の設置・開催にかかる資料を厚生労働省事務局が提示。新地域医療構想のもとでは、従来の入院医療のみならず、「外来医療」「在宅医療」「介護との連携」「医療従事者の確保」についても各圏域で合意形成が必要となることから、対象分野ごとに検討事項や想定される参加者を整理した(図2参照)。
資料1「新たな地域医療構想策定ガイドラインについて(構想の策定・取組の進め方、病床等の医療需要の見込み)」26頁
これに対し、構成員からは、以下のような意見が出された。
「地域医療構想調整会議の参加者として、『地域住民』『患者団体』を明確に位置づけるべき。特に人口の少ない地域で医療機能の集約化を図るには、アクセス面での課題が生じることについて地域住民とも情報を共有し、理解が得られるよう努めなければ、進めることが難しい」
「関連する会議は一緒に開催するなどして、効率化を図ってほしい」
「地域医療構想調整会議における協議内容が多様化・複雑化するなか、対応可能な人材が不足している。会議を支援し、活性化する方策が必要ではないか」
「地域医療構想調整会議はなかなかスムーズにいかないかもしれない。モデル事例で動画の教材を作成してみてはどうか」
検討会ではこうした議論を織り込みつつ、ガイドラインに盛り込むべき内容を具体化していく構えだ。