目次:
・障害福祉サービスをめぐる今日的な課題に対応
・グループホームにも総量規制適用、個別ニーズに対応した柔軟な運用を求める
・新規指定や指導・監査の適正な実施、自己チェックを通じた「質の確保」
・委員からは「ニーズの質・量の精緻な把握」を求める声 営利企業にみられる“利用者選別”の動きに「対策が必要」
・中山間・人口減少地域のサービス提供体制維持で「新たな類型」創設へ 条件つきで配置基準を弾力化、訪問系は定額払いを選択可
・令和8年“期中改定”、臨時応急の見直しで「持続可能性」確保 4サービスの新規事業者の基本報酬引き下げ
厚生労働省の「社会保障審議会障害者部会」(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)と、こども家庭庁の「こども家庭審議会障害児支援部会」(部会長:有村大士・日本社会事業大学社会福祉学部教授)の合同会議が1月19日に開催され、令和9〜11年度を計画期間とする次期「障害福祉計画及び障害児福祉計画」策定に向け、基本的考え方・掲載事項・留意点・数値目標の目安などを掲げた「基本指針」をめぐって、内容を詰める最終の総括的質疑が行われた。
これまでの両部会での審議内容を反映して、基本指針(案)は、総量規制の対象拡大や必要サービス量算出方法の一部見直しなど、「地域差の是正」へ向けた方策を含む内容として、厚生労働省・こども家庭庁事務局から提示された。これを受け、部会では、事業者指定や指導・監査のあり方、報酬改定で検討するべき事項なども含めて、委員から広範な注文が相次いだが、基本指針(案)に関してはおおむね了承され、部会長預かりで一部修文等の対応がとられることとなった。
このほか、「2040年に向けた障害福祉サービスの提供体制」や「障害福祉サービス等報酬の令和8年度“期中改定”」についても議論が交わされた。
【用語解説】障害福祉計画及び障害児福祉計画
都道府県や市町村が、3年ごとに域内の障害福祉サービスの必要量を見込んで基盤整備等の目標を設定し、提供体制の確保を図る計画のこと。「障害福祉計画」には障害者総合支援法に基づく18歳以上の障害者向けサービスのことが記載され、「障害児福祉計画」には児童福祉法に基づく18歳未満の障害児向けサービスのことが記載される。現在、障害福祉計画は第7期(令和6〜8年)、障害児福祉計画は第3期(同)の計画期間にある。
いずれも障害福祉サービス等報酬改定と同じ年度に改定される。その際、国が示した方向性・留意点・数値目標の目安(基本指針)に沿って改定する必要があるため、国は毎度、都道府県や市町村がその改定プロセスに入る前に、基本指針に盛り込むべき内容を検討し、改定年度の前年3月下旬メドに告示する流れとなっている。
障害福祉サービスをめぐる今日的な課題に対応
基本指針(案)には、前述の「地域差の是正」以外にも、就労系サービスやグループホームにおける「ガイドライン」を踏まえた質の確保の取組や運営指導・監査の適正な実施(“不適切な事業運営”を行う事業所をなくす対策)や、入所施設における「居室の個室化・ユニット化・日中活動の場と住まいの場との分離」および地域移行にかかる入所者の意向確認の取り組みの推進、さらには令和7年10月に創設された新サービス「就労選択支援」の利用促進など、新たな記載が追加されている。
また、障害福祉サービスをめぐる今日的な課題に対応する形で、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(いわゆる“にも包括”)の構築」「インクルージョン(障害の有無に関わらず全てのこどもが共に育つことができる環境整備)の推進」「のぞまないセルフプラン(身近な地域に相談支援事業所がない等のために、やむをえず障害当事者自身や保護者がサービス等利用計画を作成せざるをえない状況)の解消」「強度行動障害を有する障害児者への支援の拡充」――を具体化する事項も盛り込まれている(図表@、A)。
【資料1-1】「障害福祉サービス等および障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針」改正後概要(案) 2頁
【資料1-1】「障害福祉サービス等および障害児通所支援等の円滑な実施を確保するための基本的な指針」改正後概要(案) 3頁
グループホームにも総量規制適用、
個別ニーズに対応した柔軟な運用を求める
「地域差の是正」に関しては、共同生活介護(グループホーム)を総量規制※の対象に加えるとともに、総量規制の対象サービス(グループホームを含めて8サービス)が地域のニーズに対して過剰とならないように、新たな仕組みを設けることとしている。具体的には、サービス利用者が特に集中している市町村(過疎市町村を除く市町村のうち、人口に占めるサービス利用者割合が上位25%の市町村)を対象に、障害福祉計画/障害児福祉計画に盛り込む「必要な量の見込み」について“全国平均の伸びを上回らない”ように設定することを国が要請する――というものである。
そうして立てられた見込量にすでに達している場合、事業者からの指定申請があっても新規指定を控えるように市町村から都道府県に意見具申し(意見申出制度)、それを受けて都道府県が事業者指定を拒否できる(総量規制)枠組みを積極的に活用して、“地域の実情に応じた提供体制”を確保するよう求めるものとなっている。
ただし、それによって地域で不足するニーズ(強度行動障害や高次脳機能障害を有する障害児者、医療的ケアを必要とする児者等の個別ニーズ)に対応する新規事業所の参入が阻害されることのないよう、地域の実情を丁寧に勘案して一部を総量規制の例外として扱うなどの運用を可能としている。
【用語解説】総量規制
地域のサービス供給量が需要を大幅に超過することがないように、サービス事業者の指定権者である都道府県・政令指定市・中核市が一定の条件下で事業者を「指定拒否」することのできる仕組みのこと。現在、障害者入所施設・障害児入所施設のほか、「生活介護」「就労継続支援A型」「就労継続支援B型」「児童発達支援」「放課後等デイサービス」――という5つの通所系サービスが対象となっている。今回、これに「共同生活援助」が加わることとなる。なお、実際に総量規制を実施している自治体は1割程度にとどまっている。
新規指定や指導・監査の適正な実施、自己チェックを通じた「質の確保」
「サービスの質の確保」に関しては、特に就労継続支援とグループホームについて、令和7年度に発出されたガイドラインを踏まえた取組を求めている。
就労継続支援については、事業所の新規指定及び指導にあたってのポイントや手順を指定権者(都道府県等)向けに整理した「指定就労継続支援事業所の新規指定や運営状況の把握に関するガイドライン」が、令和7年11月28日に発出されている。これは、「先々の運営に疑問が残る場合でも、指定申請書および関係書類が揃っていれば、指定申請自体を不受理にできない」「専任的な担当者が少なく、制度理解や書類審査に難しさを感じる職員が多い」といった課題に対応したものであり、同ガイドラインを踏まえた指定、運営指導・監査などを通じて、適切な事業運営の確保に向けて取り組むべきことが強調されている。
グループホームに関しては、共同生活介護の運営や支援内容にかかる“最低限の基準”を事業者向けに指南する「共同生活援助における運営や支援に関するガイドライン」が令和8年2月に発出された。同ガイドラインでは全69項目の「自己チェックシート」を用いて事業者が自身で「支援の質」を確認できるようになっている。厚生労働省は過去の障害者部会で「ガイドラインに基づいた自己評価を基準省令の解釈通知に位置づける」との方針を示しており、これら一連の施策を通じて「支援の質の確保」を図る考えだ。
また、営利法人運営による事業所数が急増中のサービス5類型(就労継続支援A型、就労継続支援B型、共同生活援助、児童発達支援、放課後等デイサービス)について、3年に1回以上の頻度での運営指導実施を徹底するとした「指定障害福祉サービス事業者等指導指針」「指定障害福祉サービス事業者等監査指針」(いずれも令和7年3月31日付で改訂版発出)に基づいて、指導・監査の適正な実施が必要である旨、明記されている。
委員からは「ニーズの質・量の精緻な把握」を求める声
営利企業にみられる“利用者選別”の動きに「対策が必要」
こうした基本指針(案)及び関連施策に対し、委員からは地域差是正に関して「地域診断・地域分析に基づいた需要推計による提供体制構築が図れるよう取り組むべき」「当事者のニーズを正確かつ具体的に把握する努力を重ねる必要がある。サービスの量だけでなく質も含めた検討が求められる」など、ニーズの質・量の精緻な把握を求める声が相次いだ。
また、営利企業の拡大傾向に関連して、「営利企業において、支援に手間のかかる障害者の受入れ拒否や退去勧告の問題が指摘されている。今後報酬改定の議論の中で、営利企業への捉え方を区別する必要があるのではないか」「かたや営利企業では利益率やアウトカムを良くする目的で利用者の“選別”を行う一方で、かたや重度障害者に丁寧な支援を提供している事業所は利益を確保できない状況が起こっている。『利用者を選別することなく、必要な人に必要なサービスを提供しているか?』という観点から評価する必要があるのではないか」といった意見が出された。
基本指針(案)そのものに関しては、反対論はなく、大筋で了承され、部会長預かりで一部修文等の対応がとられることとなった。ちなみに、1月31日付で同案は、パブリックコメント募集に付されている。
中山間・人口減少地域のサービス提供体制維持で「新たな類型」創設へ
条件つきで配置基準を弾力化、訪問系は定額払いを選択可
この日の部会では「2040年に向けた障害福祉サービスの提供体制」として、中山間・人口減少地域におけるサービス提供体制の確保のため、条件つきで配置基準を“弾力化”し、訪問系サービスについては安定的経営に資するべく月単位の定額払いを選択可能とする「新たな類型」を創設する案を、厚生労働省/こども家庭庁事務局が提示した(図表A、B)。
対象地域の範囲は、現行の特別地域加算の対象地域(特定農山村法や山村振興法、離島振興法等によって指定された中山間地域等)を基本としつつ、市町村の意向を確認して都道府県が対象地域を決定することを想定。新たな類型が適用されるための要件については、「詳細は次期報酬改定の検討の中で検討」としながら、以下の3点を掲げている。
・自治体が人材確保や業務効率化など他の必要な施策を講じた上で、それでもなおサービス維持のためにやむを得ない場合とすること
・職員の負担等への配慮の観点から、ICT機器の活用や、同一法人の併設事業所間などサービス・職種間で必要な連携体制が確保されていることを前提として、管理職や専門職の常勤・専従要件を緩和すること
・サービスの質の確保の観点から、市町村の適切な関与・確認や、配置職員の専門性への配慮を行うことを前提とすること
【資料2】「2040年に向けた障害福祉サービスの提供体制について」4頁
【資料2】「2040年に向けた障害福祉サービスの提供体制について」6頁
これらの提案に対して部会では、「地方におけるサービス体制維持のために、包括的な月額払いは必要。時期を逃すことなく議論していただきたい」と歓迎の声が上がる一方で、「ケアの質の低下に繋がることのないよう、現場の課題に即した基準緩和としてほしい」と釘を刺す意見も出された。「運用開始後、制度の趣旨や地域の実態に沿ってサービスが適切に提供されているか、検証していく必要がある」と、事後チェックを求める意見も出された。
令和8年“期中改定”、臨時応急の見直しで「持続可能性」確保
4サービスの新規事業者の基本報酬引き下げ
あわせて、厚生労働省の「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」で検討を進めている令和8年“期中改定”について、事務局が検討状況を報告した。
第一に、「処遇改善等の課題」への対応として、令和7年12月の大臣折衝の結果、改定率「1.84%」が決定し、福祉・介護職員のみならず、障害福祉従事者を対象に、幅広く月1万円の賃上げを実現する措置を実施すること、さらに、生産性向上や協働化に取り組む事業者を対象に、福祉・介護職員を対象に月0.3万円の上乗せを措置すること――などを説明した。
第二に、「令和6年度報酬改定後の状況を踏まえた課題」として、総費用額が急伸し(+12.1%)、かつ、人材確保が引き続き課題であるなかで、制度の持続可能性を確保する観点から、“臨時応急的な見直し”を検討中である旨、説明した。
ここでいう臨時応急的な見直しとは、具体的には、@「就労移行支援体制加算」について算定対象となる年間の就職者数に上限を設定、A就労継続支援B型について、令和6年改定における平均工賃月額の算定方式の見直しにともなう基本報酬の“上振れ”の是正(基本報酬区分の基準の見直し)、B「就労継続支援B型」「共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)」「児童発達支援」「放課後等デイサービス」の4サービスについて、新規参入の事業者を対象に基本報酬を引き下げ――という3点からなる。
これら3点の措置について厚生労働省事務局は、「あくまでも臨時応急的な見直し。令和9年改定については、実態調査のうえ、結果を踏まえて関係者の皆様方と改めて議論して設定していくということを予定している」と強調した(図表C)。
資料5「障害福祉サービス等報酬改定検討チームの議論の状況について」44頁
事務局の説明を受けて部会では、4サービスの新規事業者にかかる基本報酬引き下げについて、「『事業所数や利用者数が増えたから報酬を抑制する』とは、乱暴に過ぎる」「自治体が行う指定の“結果責任”を、基本報酬の引き下げという形で事業者が負わされる形であり、大いに疑問を感じる」といった批判的意見が相次いだ。障害福祉サービス等報酬改定検討チームでの検討プロセスについても「対面でのヒアリングが限られていたうえ、書面で提出された現場の意見が十分議論に反映されていないように感じる。もっと丁寧な説明や議論があってしかるべきではなかったか」と難じる声が上がった。
また、新規事業所の報酬を引き下げる理由に「人材確保の難しさ」が掲げられていることについて、「既存の事業所へ就職するはずの人材が新規に流れてしまったとか、既存の事業所から新規事業所に職員が引き抜かれて人材確保が難しくなった――というエビデンスがあるなら示してほしい」と、新規参入と労働需給ひっ迫の関係性の“裏付け”を求める意見が出された。