【今回の介護保険部会のポイント】
・社会福祉法等の改正法成立を報告。中山間・人口減少地域で柔軟な介護サービス提供を可能とする仕組みなどを創設
・第10期介護保険事業(支援)計画では、2040年度を見据えた中長期の介護サービス見込量を推計
・「特定地域」は、75歳以上人口密度などを基準とし、全国356市町村が該当するとの試算
・人員配置基準の柔軟化については、職員負担やサービスの質への影響を懸念する意見もあり
社会福祉法等の改正法が成立〜人口減少地域のサービス維持に新たな仕組み
厚生労働省は令和8年6月29日の社会保障審議会介護保険部会で、「社会福祉法等の一部を改正する法律」の成立を報告。改正法は、福祉サービスの安定的な提供体制の確保などを目的とし、原則として令和9年4月1日に施行される。
介護分野では、中山間・人口減少地域で、地域の実情に応じた配置基準や包括的な評価の仕組みを導入できる「特定地域サービス」を創設する。また、サービス提供主体が少ない地域では、市町村が事業として実施できる「特定地域居宅サービス等事業」を創設。
このほか、介護サービス量等の中長期推計を盛り込む介護保険事業(支援)計画の見直し、介護人材確保や生産性向上・経営改善への支援、ケアマネジャーの研修受講を要件とした資格更新の仕組みの廃止、介護福祉士養成施設卒業者の経過措置の見直し、などが盛り込まれた。
今回の部会では、こうした法改正をふまえ、第10期介護保険事業(支援)計画の基本指針案と、「特定地域」の具体的な考え方が議論された。
第10期計画は2040年まで見通す〜地域の実情に応じたサービス提供体制へ
第10期介護保険事業(支援)計画(令和9〜11年度)では、3年間の計画期間だけでなく、その先の2040年度も見据え、都道府県と市町村が中長期の介護サービス見込量を推計し、地域の関係者とサービス提供体制のあり方を検討する方向が示された。
背景には、地域によって大きく異なる今後の人口動態がある。介護需要が増え続ける地域がある一方、中山間・人口減少地域では高齢者人口やサービス需要が減り、事業所の維持そのものが課題となる。このため、「中山間・人口減少地域」「大都市部」「一般市等」といった地域類型を念頭に、実情に応じた体制を構築する。
また、都道府県が主体となって介護人材確保のプラットフォームを構築するとともに、生産性向上等を進める協議会を設置する。テクノロジーの活用や事業者間の協働化・大規模化などによる経営基盤の強化も進める方針である。
「特定地域」の基準案を提示〜75歳以上人口を指標に
今回、具体的な基準案が示されたのが、中山間・人口減少地域を対象とする「特定地域」である。
厚生労働省は、既存の特別地域加算や離島等相当サービスの対象地域を基本とした上で、介護サービス利用の中心となる75歳以上人口に着目する考えを示した。
新たな基準は、「75歳以上人口密度が1km2当たり5人未満」、または「75歳以上人口が1000人未満で、かつ減少している」とする。既存の対象299市町村に、新たに57市町村が加わり、計356市町村、全国の20.5%が該当するとの試算である。
ただし、人口基準だけで機械的に対象を決めるものではない。市町村内の一部地域の指定も可能とし、人口基準に該当しない場合でも、事業所が存在しない、事業所が少なく廃止が検討されているなど、サービス基盤の維持が困難な地域を対象とすることも想定している。市町村が指定の必要性を検討し、その意向をふまえて都道府県が対象地域を定める(表)。
厚生労働省は、実際の指定にあたっては、住民基本台帳など直近の人口データを用いることも可能との考えを示した。
表:「特定地域」の対象となる地域の考え方
| 区分 |
考え方 |
| 既存の対象地域 |
特別地域加算や離島等相当サービスの対象地域 |
| 新たな基準@ |
75歳以上人口密度が1km2当たり5人未満 |
| 新たな基準A |
75歳以上人口が1000人未満、かつ減少 |
| その他 |
事業所が存在しない、廃止が検討されているなど、サービス基盤の維持が困難な地域 |
| 指定の範囲 |
市町村全域のほか、一部地域も可能 |
| 指定主体 |
市町村の意向をふまえ、都道府県が指定 |
基準に該当する試算:356市町村(全国の20.5%)
※厚生労働省「第135回社会保障審議会介護保険部会」(令和8年6月29日)資料3「特定地域(中山間・人口減少地域)の考え方について」をもとに作成
委員からの主な意見
・人口指標だけでは地域の実情を十分に反映できない場合がある。介護サービスの提供状況や事業者数なども総合的に勘案できる仕組みが必要。
・特定地域の一部地域への適用がなし崩し的に広がらないよう、対象範囲や運用ルールに十分な歯止めを設ける必要がある。
・特定地域の指定にあたっては、市町村だけでなく、サービス事業者など現場の声も十分に反映し、透明性と納得感のある手続とすべき。
・人員配置基準の柔軟化によって介護従事者の負担が増えたり、サービスの質や安全性が低下したりしないよう慎重な検討が必要。
・75歳以上人口が減少する地域でも、85歳以上人口や要介護認定者が増える場合があり、人口減少だけで介護ニーズの減少を判断すべきではない。
特定地域サービスの人員配置基準や報酬など、具体的な制度設計は今後、介護給付費分科会等で議論される。対象地域の指定方法とあわせ、これらをどのように具体化するかが焦点となる。