平成12(2000)年に施行された成年後見制度を抜本的に見直す民法改正案が、令和8(2026)年4月に閣議決定し、6月参議院本会議において可決・成立した(令和8年6月24日公布)。今後、令和10(2028)年秋ごろの施行に向けて検討が行われるが、その第一歩として、令和8年7月13日に第21回成年後見制度利用促進専門家会議(委員長:菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)が開催された。本会議では、成年後見制度を取り巻く状況(報告)と、第三期成年後見制度利用促進基本計画(次期基本計画)の進め方について議論が進められた。
<厚生労働省>社会福祉法の一部改正も一体的に行われる
冒頭、厚生労働省から、民法改正と一体的に行われた社会福祉法の一部改正(2026年6月成立)に関する報告がなされ、成年後見制度を取り巻く状況について以下2点の説明があった。
新たな支援事業を第二種社会福祉事業として新たに位置付ける
頼れる身寄りがいない高齢者等が、地域で安心して自立した生活を継続するための支援事業を、新たな第二種社会福祉事業として位置付け、あわせて相談体制等の整備を図る。具体的には、日常生活支援や入院等の手続き、死後事務等の支援を行い、資力の要件に該当する利用者に対してはこれらを無料または定額の料金で提供するという内容である。
居宅介護支援事業所でやむなく法定外業務(シャドーワーク)となっている生活ニーズについても地域全体で対応し、市町村の包括的支援体制の中の新たな支援事業として位置付け、地域包括支援センター、生活困窮者自立相談支援機関、社会福祉法人、互助組織等との連携も含め、各所で適切な役割分担を行う。また、社会福祉協議会においても現行の日常生活自立支援事業における取り扱いや実態も踏まえ、新たな事業への段階的移行を進める。
地域権利擁護相談支援センターの設置
成年後見制度や地域における権利擁護事業を適切に利用するために、支援の中核的役割を担う地域権利擁護相談支援センターが設置される。民法改正後は、成年後見制度の必要がなくなったときに終了が可能となるが、その後も判断能力が不十分な人が地域における権利擁護事業等を適切に利用できるように、相談支援や地域の関係機関・民間団体の連携体制の整備をさらに進めていく。
<法務省>成年後見制度を見直す民法改正について
続いて法務省より、成年後見制度に関する民法改正の内容について報告がなされた。特に法定後見は、本人の意向や家族の希望に沿った制度とは言い難い点が指摘され、使い勝手の悪さについても以前から言及されてきた。26年ぶりとなる今回の見直しにより、権利擁護の観点からも、本人の意思を尊重する内容に大きく改正された。改正事項の主な内容は以下の通り。
「補助の制度」に一元化
改正事項の中でも特筆すべきは、従来の「後見・保佐・補助」の3類型を廃止して、原則として「補助の制度」に一元化した点である。本人に必要な事項について代理権・取消権を付与し、必要な範囲での制度利用を可能とするもので、自己決定が必要以上に制限されることを防ぐ。また、利用開始にあたっては原則として本人への同意が必要となる。
必要がなくなったときに制度利用を終了することが可能に
事理弁識能力(いわゆる判断能力)が回復していない場合でも、制度利用の必要がなくなったと家庭裁判所が認めるときは、制度を終了することができる。以前より課題視されてきた、一度成年後見制度を利用すると事理弁識能力が回復しない限り一生制度利用を終了することができないといったデメリットに対し、大きな見直しがなされたことになる。
本人の自己決定のさらなる尊重を図る
福祉や医療の現場で提起されている「意思決定支援」の取り組みを、新たな「補助の制度」にも取り入れ、補助人の選任時に「本人の意見」が重要な考慮要素であることを明確化。また、成年後見人の交代が困難であり、本人がニーズにあった保護を受けることができないという課題に対しても、「本人の利益のために特に必要があるとき」と認められれば家庭裁判所の判断で補助人を解任することが可能となる。
任意後見制度の柔軟な利用を可能にする
「補助の制度」の利用を開始しても、任意後見契約の存続が認められる。受任者が亡くなった場合、次の後見人を誰にするかを、本人と受任者の間であらかじめ決めることが可能となった。また任意後見人は、従来、親族または任意後見受任者に限定されていたが、改正法では本人が公正証書により指定した人も、任意後見契約を発行させる裁判手続の申立てができるようになる。
上記を踏まえ、次期基本計画の進め方について各委員より以下の意見が示された。
第二種社会福祉事業について
〇頼れる身寄りのない方の支援策としてこの事業が設けられた、と狭い観点で受け止められがちだが、もともと本会議においては、判断能力が不十分な方への地域福祉の取り組みとして検討されてきた経緯がある。この点への理解と認識も含め、市民後見人の活躍支援の枠をさらに広げ、市民全体による意思決定支援の関わりづくりを行うことが必要ではないか。
〇民間事業者の本格参入に備えたさらなる検討が必要。高齢者等終身サポート事業者によるガイドライン遵守はもちろんのこと、現在の契約締結審査会のような仕組みの整備が必須となる。消費者委員会や消費者庁とも連携しながら高齢者等終身サポート事業の公的監督のあり方や立法的対応の検討に踏み込むことが求められる。
〇市民後見や第二種社会福祉事業など権利擁護支援に興味を持つ地域住民が一定数いる。その人たちが担い手として活躍していくことのできる場が、地域権利擁護支援センターを中心に整理されていくべき。また、その際に地域格差が生じないような政策も必要だ。
〇多くの人からの関心が高い死後事務について丁寧な整理が必要。
〇市町村の包括的な支援体制の中に組み込み、縦割りとせずに高齢・障害・生活困窮等の支援機関、社会福祉協議会、家庭裁判所と一体となって、地域のハブ的役割を果たしてもらいたい。
地域権利擁護相談支援センターの設置
〇現在の中核機関が、地域権利擁護相談支援センターとして法制化されるにあたり、円滑な運営のための継続的財政支援が不可欠だ。現在の交付金制度には、本事業専用の財源枠がなく、市町村は縦割りの補助金をかき集めるか、一般財源を持ち出さざるを得ない状況だ。そのため自治体の財政格差がそのまま支援格差へと直結しかねないのが実情。財政の複雑さを解消し、継続的で安定した財源確保を要望したい。
「補助の制度」に一元化
○補助の制度になって補助人の役割が大きく変化したが、関係法令においては抜本的に整備、見直しがされたわけではない。次期基本計画が実施される今後の5年間において、運用の見直しも含め解決が求められる。
○補助終了後の支援について、第三者による意思決定支援を担保した入所施設等による簡易な日常的金銭管理の仕組みを整備する必要がある。あわせて金融機関や金融庁の取り組みとして、意思決定支援を受けた本人が自ら管理できる日常生活費のための少額口座の商品化が望まれる。
必要がなくなったとき制度利用の終了が可能に
○民法改正により成年後見制度は必要な範囲で利用し、必要がなければ終了できるようになった。しかし制度利用を終えた後も、本人の生活は続いていく。利用中のチーム支援、制度終了後の生活支援までを1つの連続した権利擁護支援のプロセスとして構築していく必要がある。
○終了を可能とするには、地域で支え続ける体制整備が不可欠に。
○市町村長の申立ての権限と運用のあり方については、今後申立てだけでなく、必要なアセスメントを通じて、終了、交代、再度の利用ということも見越したあり方が求められる。そのためには受任調整会議や中核機関との連携も不可欠に。
○後見が開始された後の終了を見据えた個別ケースのモニタリングや身寄りのない高齢者等への支援についても権利擁護支援体制の観点から行うべき。また、中核機関における地域連携ネットワークのコーディネート機能を実効性のあるものとするため、社会福祉士の配置が求められる。
本人の自己決定のさらなる尊重を図る
○意思決定支援の取り組みは研修における都道府県のKPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標。目標達成への進捗を測る中間指標をさす)は89.4%と高い数値を達成しているが、内容は表面的にすぎず体系化されていない。中間報告書には「本人の特性に応じた意思決定支援の浸透」とあるが、研修の実施主体である都道府県において、具体的な定義やイメージが共有されていないことが問題だ。
○意思決定支援の仕組み化に向け検討を行い、方針を示すことが重要。これを次期基本計画にどこまで具体的に位置付けるかが重要。
任意後見制度の柔軟な利用を可能にする
○成年後見制度利用を検討する前の段階から、地域権利擁護相談支援センターが身近な相談先となり、任意後見や日常生活自立支援事業等複数の選択肢を示す役割を果たすことが重要。
○任意後見監督人の負担が大きいという意見も考慮すべき。
円滑な新制度への移行に向けワーキンググループが始動
令和8(2026)年度で第二期基本計画が終了し、令和9(2027))年度から令和13(2031)年度までの5年間が次期基本計画の対象期間となる。
次期(第三期)の期間中の令和10(2028)年度から改正民法が施行となるため、スムーズな新制度への移行に向け、今後、さまざまな実務対応や体制の再構築が求められる。
新制度の施行を踏まえた適切な制度運用、新規の論点検討も含め「成年後見制度の適切な運用に係るワーキンググループ(WG1)」と「地域における権利擁護の支援体制に係るワーキンググループ(WG2)」が始動する。その内容をもとに12月を目途に、本専門家会議で計画案に盛り込むべき内容のとりまとめを行う。