第14回:「うちには特徴といえる強みはありません。」
この言葉は、介護老人保健施設や通所介護事業所などの経営改善に携わるなかで、ほぼ必ず耳にする言葉です。決して謙遜ではなく、多くの場合、職員が日々当たり前に行っている実践が「特別なもの」として認識されていないことに起因しています。しかし、経営改善や安定した事業運営を目指すうえで、自施設・事業所の特徴や強みを整理し、外部に伝えることは避けて通れない重要な取り組みです。
営業の目的を再定義する
かつて社会福祉法人においては、「営業」という言葉に対する抵抗感が強く、職員のモチベーション低下を招くとして、「広報」や「周知」という表現に言い換える配慮が求められていました。しかし、コロナ禍を経て経営環境が一層厳しさを増すなかで、「営業」という言葉が徐々に現場に受け入れられつつあります。内部留保を取り崩しながら運営を継続した結果、過去の投資や将来の再投資のための資金確保が喫緊の課題として顕在化してきたことの表れといえるでしょう。
介護事業における営業とは、単に利用者数を増やすことではありません。利用者や家族が期待していること、すなわちニーズに対して、自施設がどのような価値を提供しているのかを、わかりやすく伝える行為です。他との違いを整理し、それを写真やイラスト、図表などを用いて適切な形で伝えることで、結果として利用者の選択につながっていきます。
「強みがない」のではなく「気づいていない」
コンサルティングの一環として施設を訪問すると、明るく活気のある雰囲気、落ち着いて安心できる空気感、利用者の表情から伝わる居心地のよさなど、実に多様な特徴を感じとることができます。これらはすべて、その施設ならではの強みです。
しかし、経験年数の長い職員が他施設での経験がない、もしくは、すでに記憶にないことから今行っていることが「できて当たり前」、「どこでも同じ」と捉えてしまい、自らの特徴を認識できないことがあります。「特徴といえる強みがない」という言葉は、強みが存在しないのではなく、内部からは見えにくくなっている状態を示しているに過ぎません。
強みを見つけるための5つの視点
強みを言語化するためには、日常業務を少し違う角度から振り返ることが有効です。以下に示す5つの視点は、実際の現場で見落とされがちな価値を掘り起こすための手がかりとなります。
第一に、利用者や家族から「ここにしてよかった」と言われた場面を振り返ることです。その言葉が向けられた背景には、安心感、職員の関わり方、生活の変化など、何らかの理由があります。たとえば「自宅にいるようで落ち着く」、「話をよく聞いてくれる」、「家族の負担が減った」といった言葉は、その施設が提供している価値そのものです。感謝の言葉を単なる励ましとして終わらせず、「なぜそう感じてもらえたのか」を掘り下げることで、強みが明確になります。例えば、落ち着ける背景には、プライベート空間が確保されていたり、無理強いをしない、個人の自由な行動を尊重したり、職員が落ち着いて声かけをするよう留意している、地元の話題を出すようにしているなどがあげられます。
第二に、新しく入職した職員や見学者、紹介者、関係機関から驚かれた点に注目します。内部では当たり前になっている取り組みも、外部の目には新鮮に映ることがあります。「情報共有が丁寧で安心できた」、「利用者への声かけが丁寧」、「介護職と看護職の連携が自然にできている」といった反応は、客観的に見た評価です。外部の驚きは、自施設の特徴を知るうえで非常に重要なヒントになります。特に利用相談の問い合わせに対する迅速な対応は、問い合わせをした関係機関にとって信頼できるポイントであり、「いつでも相談してください」と自信をもって伝えられる特徴になります。
第三に、職員がやりがいや誇りを持って取り組んでいることを整理します。業務の負担が大きいにもかかわらず前向きに続けられている取り組みには、現場の価値観が反映されています。職員が「この関わりは大切にしたい」、「ここは譲れない」と感じている点は、利用者満足度にも直結していることが多く、組織としての強みになり得ます。しかし、行事や活動の準備に時間をとられ残業の要因となったり、持ち出しの材料費により経営を圧迫する要因になっている場合も見受けられます。その場合、介護事業の本来の目的である自立支援に基づき、行事の準備を含めて利用者とともに行う内容に見直したり、準備に時間を要しない工夫が求められます。介護職員の本来の業務は、利用者に対して専門性を活かすことが期待されており、利用者の機能が低下しないよう関わることが求められています。今行っている行事などが利用者の自立支援のどの点に寄与しているのか、行事自体ではなく、行事に参加することによる利用者にとっての効果を特徴として捉えることがポイントです。
第四に、算定している加算のなかで、とくに力を入れている要件を振り返ります。加算は制度上の評価であると同時に、第三者から認められた取り組みの証でもあり、介護事業に期待される機能として示されたものです。単に算定しているだけでなく、例えば口腔ケアの取り組みによって歯科医師から評価されたことや科学的介護推進体制加算により、指標を共有しながらADLの変化に気づく機会が増えたなど、質を高める工夫や継続的な見直しを行っている場合、それは明確な強みとして発信することができます。
第五に、専門職や地域との連携など、今後さらに力を入れていきたい取り組みを整理します。現在進行形の課題であっても、方向性が明確であれば「目指している姿」として伝えることが可能です。医療機関との連携を始めた、地域包括支援センターと連携して取り組んだなど、また、地域の行事に参加して利用者が地域住民としての生活を再認識する機会となったなど地域と自施設の役割を結びつけて語ることで、将来性のある強みとして認識されやすくなります。
伝え方の工夫と期待される効果
強みを整理した後は、「誰に」、「何を」伝えるのかを明確にします。どのような生活課題を抱えた方に利用してほしいのか、利用することでどのような課題解決が期待できるのかを具体的に示すことが重要です。
そのうえで、課題解決のために取り組んでいる内容を、専門性の向上や多職種連携、支援時に留意している言葉遣いや接遇、他者から評価された実績などを交えて伝えます。抽象的な表現ではなく、実際の事例を用いることで、理解と共感を得やすくなります。
情報を発信することで、良くも悪くも反響が生まれます。よい評価は職員のやりがいにつながり、さらなる工夫や質の向上を促します。その工夫や検討状況を再び発信することで、強みはより磨かれていきます。一方で、期待した反応が得られない場合には、伝え方が適切であったか、ニーズとのずれがないかを検証する機会となります。チラシやホームページの印象を確認したり、ケアマネジャーや医療機関から率直な意見を聴いたりすることも有効です(図表)。
経営改善に向けた第一歩は、特別な新規企画を始めることではなく、すでに現場に存在している価値を見つけ、磨き、伝えることにあります。その積み重ねこそが、持続可能な介護事業経営につながっていくのです。
※ この記事は月刊誌「WAM」2026年5月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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