2026(令和8)年度は、経営改善を進めるにあたり、介護現場でよく耳にする声を テーマに、管理者としての具体的な対応の考え方をお伝えします。
改善活動の必要性
令和7年度の補正予算「医療・介護等支援パッケージ〔介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業〕」の施設系では、生産性向上推進体制加算の算定(見込)が、要件の一つとして盛り込まれ、2027(令和9)年度の改定までの経過措置終了に向けた後押しが進められています。加算要件に盛り込まれている委員会活動は、システム導入の影響を、維持管理だけでなくサービス面と職員面で捉えることが求められています。その目的は、まさに生産性向上、つまり継続的な改善活動を進めることにあります。
「改善活動」と聞くと、介護現場では「何から手をつければよいのかわからない」、「日々の業務に追われ、改善まで手が回らない」といった声が多く聞かれます。しかし、介護事業を取り巻く環境は、人材不足や物価高騰、度重なる制度改正などにより、年々厳しさを増しています。このような状況のなかで、安定した経営を継続し、質の高いサービスを提供し続けるためには、日常業務を見直し、改善を積み重ねていく取り組みが欠かせません。改善すべき問題点は、日常業務のあちこちに存在していますが、気づきがあっても情報として埋もれてしまっているのが実情です。委員会では、その情報を顕在化して一つずつ改善する流れを作ることが求められます。
ポイント@
目的を明確にする
改善活動を進めるうえで、まず重要となるのが「目的を明確にする」ことです(図表)。例えば、稼働率を〇%まで上げる、〇曜日は総労働時間〇時間で対応する、日勤帯に正規職員が配置されている状態を目指す、などが具体例としてあげられます。このように目的を明確にすることで、改善すべきポイントが絞られてきます。目的や目標は、経営方針として経営層や管理者が確定することを推奨します。その際、現場に目的達成の必要性について理解を得ましょう。
ポイントA
最も影響する要因に着目する
次に重要なのは、「最も影響する要因に着目する」という視点です。最も影響する要因は、その目的達成のためにボトルネックになっているものです。その要因が解消されると全体が流れやすくなり効果に結びつきやすくなります。例えば、稼働率向上に向けて現場から”受け入れが無理“という意見が多い場合、その点がボトルネックであり、受け入れ体制の見直しが必要となります。実際、「最も影響する要因」は、改善が難しいケースが多いのが特徴です。この例に拘わらずあまり着手したくない箇所である場合が多く見受けられます。最終的には必ず着手しないと改善されない部分であり、管理者は、そのことを念頭に置きながら最も影響する要因が段階的に解消できるよう機会を探りながら取り組むことを推奨します。
ポイントB
まず着手できることから始める
改善活動の習慣がない場合は、「まず着手できること」から始めましょう。とくに介護現場では、利用者の生活を維持する役割から現状維持を重視する場合が多い傾向にあります。ただ、実際には、利用者の状態は日々変わっており、新規利用者の状態によっても対応が変わり、救急対応などを含め日常的に業務を変更し、柔軟に行動しています。一時的には行動できても標準とするには至らず、標準を変えることで生じる不安を、必要以上に大きく捉えている状態ともいえます。
仮に完璧な改善策を検討してから動き出そうとしても、想像しきれない状況が必ず発生し、計画した改善策が崩れてしまいます。結果として何も始まらないまま時間だけが過ぎてしまいます。些細なことでも、まずすぐに実行できることから始め、成功体験を積み重ねていくことが、改善に対する前向きな意識を育てます。小さな成功が現場の自信につながり、次の改善への原動力となります。
ポイントC
改善の具体策は現場で考える
改善の具体策は、管理者や経営層が一方的に決めても実際に業務を担う職員が主体的に動かなければ、あまり効果は期待できません。実際に業務を担う職員が主体となって、実情にあった方法を考えることが重要です。その際、特定の職種だけで考えるのではなく、多職種で考えることを推奨します。他の職種だから客観的に考えられる部分があるだけでなく、特定の職種では人材が限られていたり、他の職種の業務の流れがわからないことから思考停止に陥ったりする可能性があります。多職種がそれぞれできる範囲を持ち寄ったり、視野を広げることで、相互に尊重しあいながら改善の具体策を主体的に考えられるよう促すことが、リーダーの役割です。
ポイントD
小さく始め、徐々に拡大する
改善活動を進める際には、「小さく始め、徐々に拡大する」姿勢も重要です。最初から大規模な改革を目指すと、現場の負担が大きくなり、取り組み自体が長続きしません。そのため、例えば、毎日日勤に正規職員がいる状態にするのが目的だとしても、まずは、週に1日だけを目標にします。そのために見直す点を整理して、いつまでに実施するか、必ず期日を決めて取り組みます。
モデル的に取り組み始め、比較的改善意欲のある職員により、小さな成功体験を積んでいきます。次に行動できそうな職員を巻き込みながら対象を拡大し、実例を増やし全体に広げていきます。
改善活動の効果
介護業界における改善活動は、特別なことを新たに始めるものではありません。日々の業務を見つめ直し、現場の知恵を活かしながら改善を積み重ねていくことが、結果として経営の安定とサービスの質の向上につながっていきます。
変化のない状態が続くとマンネリ化を招き、その結果、これまでのやり方に精通した職員が教科書となり、職場の硬直化につながることがあります。そのため、成長して新しいことに挑戦したい職員や過去に経験した方法と異なると感じている職員が離職する可能性が高まります。また、マンネリ化は、本来の目的がおろそかになり、作業遂行だけが目的となる傾向があります。そのため以前は必要であった作業も利用者が変わったり、職員の力量向上や事業環境の変化により、現在はそれほど重要でなくなっている場合もあります。改善活動は、これらの作業について目的を明確に整理しなおすことです。
一方で、改善活動が一時的な取り組みで終わってしまうケースも少なくありません。その要因として多いのが、「特定の担当者に任せきりになっている」、「成果が見えにくく、評価されない」といった状況です。改善を継続させるためには、完璧な成果を求めるのではなく、途中経過や小さな変化も含めて共有し、言葉にして認めていく姿勢が重要となります。
とくに管理者やリーダーの役割は大きく、改善活動を「責任」や「ノルマ」として押し付けるのではなく、現場の取り組みを後押しする存在であることが求められます。うまくいかなかった点も含めて振り返り、次につなげていく姿勢を示すことで、現場は安心して改善に取り組むことができます。このような積み重ねこそが、改善活動を特別な取り組みではなく、日常業務の一部として職場に根付かせていくことにつながります。
※ この記事は月刊誌「WAM」2026年4月号に掲載された記事を一部編集したものです。
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