第1回:障害福祉サービス等報酬改定で求められるグループホームの役割変化
グループホーム退居後安定した地域移行ができる制度に
2024(令和6)年度の障害福祉サービス等報酬改定(以後、今回改定)において、改めて地域移行に対しての評価がなされました。1989年に知的障害者向けのグループホームの制度化(精神薄弱者地域生活援助事業)が行われてから35年を超えて、その期待される役割が大きく変化しています。当時は知的障害者のみを対象とし、数人で共同の生活を送ることに支障がない程度に身辺自立ができていること、就労(福祉的就労を含む)していること、日常生活を維持するに足る収入があること、入居時に入所施設の措置を解除してあること等の条件があり、対象者はおのずと限定されていました。あくまでも、入所施設ではない、地域のなかにある施設という位置づけでした。今回はグループホームの制度設計にみる役割変化と、経営戦略を退所、入所に分けて考えていきます。
2013年からの障害者総合支援法下におけるグループホームでは、障害者の定義に難病等が追加され、ケアホームのグループホームへの一元化がなされるなど、その役割は変化し続けてきました。基本的なグループホームの役割としては、地域のなかに存在し、いわゆる家庭的な雰囲気のなかでの生活の場所から就労先に通ったり、グループホーム内での自立した生活を送るといった目的であり、対象者が拡充してもその位置づけには大きな変化がありませんでした。
しかし、今回の改定ではグループホームを出ること、加えて出た後の支援に対する加算が創設されていることが着眼ポイントとなります(図)。とくにグループホームから一人暮らし等を希望した利用者に対する支援に対しては、自立生活支援加算T(1,000単位/月・6カ月上限)が新設され、現在すでに入居している利用者に対しても、一人暮らし等に対する相談支援について高い評価となっています。また、移行支援住居の入居中または退居後の一定期間におけるピアサポートの専門性を評価する加算が、自立生活支援加算V(80単位/日・利用期間3年以内、加年の場合減額加算)として新設されました。これは、グループホームの入居前から一人暮らし等を希望する利用者に対し、集中的な支援を評価したものとなります。
これらの加算の創設の単位数や算定可能期間を鑑みると、利用者の意思と能力が確認できた場合においては、積極的に自立支援に向けて集中的な支援をすることに対し高い評価がなされていることがうかがえます。グループホームの利用者の特徴として、利用者またはその家族が、住まいに関して積極的に希望を伝えるばかりではないことがあげられ、慣れ親しんだ環境で、安定的に地域社会とのかかわりを持ちながら生活を送ることを希望される場合も多く、結果として入所施設と変わらない位置づけになってしまうことが背景にあります。障害者総合支援法下の障害者施策の目的では、生活の一部のみサービス利用をし、基本的には自立することを目的としているところでもあり、今回の報酬改定では一人暮らし等に対する事業所側の動きを一定程度評価したものといえるでしょう。
また、退居後においても、退居後共同生活援助サービス費・退居後外部サービス利用型共同生活援助サービス費2,000単位/月(新設)を3カ月(必要な場合は6カ月)を限度として算定できるとしており、退居後の生活においても福祉サービスが途切れず、安定した地域移行ができるような制度設計になっていることが特徴といえます。自立生活支援加算Tと退居後共同生活援助サービス費・退居後外部サービス利用型共同生活援助サービス費を6カ月ずつ算定した場合、1万8,000点にものぼり、年間での対象者が多くなるほど経営面でのプラスインパクトにつながる規模の加算となっています。複数の事業所を運営している法人においては、一人暮らし等に対してどのように取り扱うかを、経営側と実務者側で意見交換をしておくことが効率的な運営につながっていくと考えられます。
意向確認マニュアルの作成は2026年度から義務化
前述の内容はグループホームの出口施策と位置づけることができますが、入口としては、障害者の入所施設や病院からの地域移行を進め、障害者とその家族が地域において安心して地域生活を送れるよう、グループホームが受け皿となるよう地域生活支援拠点等の整備の推進があげられています。
今回改定においてはすべての施設入所者に対して、地域生活への移行に関する意向や施設外の日中活動系サービスの利用の意向について確認し、本人の希望に応じたサービス利用になるようにしなければならないことが規定されました。従前から入所施設においては地域移行の推進、意思決定支援の推進、施策としてのベッド数の削減がなされてきましたが、今回の改定はより一層踏み込んだ内容となっています。
とくに、@地域移行および施設外の日中サービスの意向確認を行う担当者を選任すること、A意向確認の記録や意向を踏まえた個別支援計画を作成することなど、意向確認のマニュアルを作成していることが2024年度から努力義務化され、2026年度から義務化、未実施の場合は減算対象((新設)地域移行等意向確認体制未整備減算5単位/日)となるという強いメッセージとして発信されています。これにより、従前のような「本人に意思確認が取れない」や「施設利用が本人のためである」といった入所施設従事者側の判断基準を変化させていく必要があり、入所施設のあり方も大きく変わっていくと考えられます。入所施設利用者の地域移行の先はグループホームが主たる先として想定されており、スムーズな地域移行のためには事業所間の柔軟な職員同士の連携も今後の課題となります。
グループホーム運営においては、今回改定におけるグループホームの出口と入口両方に着眼して、経営、運営の両面からの対策を講じる必要があります。グループホームの運営法人規模には大きな違いがあり、規模によりその経営実態は異なります。いずれの場合も、経営陣と実務者の間の利用判断基準のすりあわせがなされない場合、今後の経営指標に大きなインパクトをもたらす可能性がありそうです。