2022(令和4)年の児童福祉法改正では、児童相談所が一時保護を開始する際に、親権者等が同意した場合を除き、事前または保護開始から7日以内に、裁判官に一時保護状を請求する等の手続き(一次保護時の司法審査)を創設することとされました。2025(令和7)年6月1日に施行されます。
2024(令和6)年3〜5月にかけて、18自治体で試行運用が行われ、そこでの意見を受け、対応マニュアル(案)の修正がなされ、2024(令和6)年12月26日に対応マニュアルの確定版が公表されています。内容をみながら、よりよい一時保護について考えます。
「一時保護時の司法審査」は2025(令和7)年6月1日からスタート
児童虐待防止に対する意識の高まり等もあり、児童相談所(全国232カ所)が児童虐待相談として対応する件数は毎年増え続けており、2022(令和4)年度時点では21万4,843件にのぼっている(図1)。
こどもが虐待されている場合の一時保護については、これまで児童相談所長の権限と判断によって行われてきたが、一時的とはいえこどもの行動の自由が制限され、親子分離となることから、2019(平成31)年の国連・児童の権利委員会の日本政府に対する勧告書(日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見)では、「児童を家族から分離するべきか否かの決定に関して義務的司法審査を導入すること」と勧告されている。
こうした状況から、児童相談所における一時保護の手続等の在り方に関する検討会(2020(令和2)年9月〜2021(令和3)年11月)、社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会で議論が行われ、同専門委員会の報告書(2022(令和4)年2月10日)では、「独立性・中立性・公平性を有する司法機関が一時保護の開始の判断について審査する新たな制度を導入する」とされた。
この内容を踏まえた「児童福祉法等の一部を改正する法律案」は、2022(令和4)年3月4日に国会に提出され、同年6月8日に成立。児童相談所長が一時保護を行うに当たっては、親権者等の同意がある場合等を除き、その開始から7日以内または事前に、裁判官に対して一時保護状を請求しなければならないこととする「一時保護時の司法審査」制度が創設された(図2参照)。2025(令和7)年6月1日からの施行となっている。
一時保護時の司法審査の内容は
同制度の具体的な内容は、次の通りとなっている(図3参照)。
●一時保護時の司法審査の枠組み
一時保護時の司法審査として、具体的には、児童相談所長等が一時保護を行うときは、以下の場合を除き、一時保護を開始した日から起算して7日以内(この期間は、初日を含む)または事前に、裁判官に一時保護状を請求しなければならない。
@ 当該一時保護を行うことについて当該児童の親権を行う者または未成年後見人(以下「親権者等」という)の同意がある場合
A 当該児童に親権者等がない場合
B 当該一時保護を開始した日から起算して7日以内(初日を含む)に解除した場合
裁判官は、一時保護の開始に係る一時保護の要件の充足性について、児童相談所が一時保護状の請求時までに調査、収集した資料を斟酌し、迅速に判断を行う。
●一時保護の要件の具体化
一時保護時の司法審査において、裁判官が迅速かつ適切な審査を行うことができるよう、一時保護の要件を法令において具体的に定めることとし、児童相談所長等は、以下の要件(@およびA)を満たす場合に一時保護を行うことができると規定された。
@児童虐待のおそれがあるとき、少年法(昭和23年法律第168号)第6条の6第1項の規定により事件の送致を受けたときその他の内閣府令で定める場合に該当し(以下「府令該当性」という)
A 必要があると認めるとき(以下「一時保護の必要性」という)
一時保護状の請求を受けた裁判官は、府令該当性があると認めるときは、明らかに一時保護の必要がないと認めるときを除き、一時保護状を発付する。
●一時保護状の請求手続
一時保護状の請求は、府令該当性および一時保護の必要性があると認められる資料を添えてこれを行う。
また、令和4年児童福祉法等改正法に係る附帯決議において、児童および親権者等の意見が裁判官に対し正確に伝わるよう適切な方策を講ずるものとされたことを踏まえ、児童相談所が裁判官に提供する資料には、令和4年児童福祉法等改正法で導入された児童の意見聴取等措置等により把握した一時保護に対する児童の意見または意向、親権者等の意見を可能な限り盛り込むこととする。
●一時保護状の請求却下の裁判に対する取消請求
一時保護状の請求が却下された場合において、児童相談所長等は、一時保護を行わなければ児童の生命または心身に重大な危害が生じると見込まれるときは、そのような事情を裏付ける資料、府令該当性及び一時保護の必要性に関する資料を添えて、当該却下の裁判があった日の翌日から起算して3日以内に限り、所定の裁判所に一時保護状の請求却下の裁判に対する取消請求を行うことができる。
取消請求を受けた裁判所は、一時保護の開始に係る一時保護の要件および取消請求の要件(一時保護を行わなければ児童の生命又は心身に重大な危害が生じると見込まれること)の充足性を審査する。児童相談所長等が取消請求をするときは、裁判所の判断が確定するまでの間、引き続き一時保護を行うことができる。
円滑な実施に向け対応マニュアルを策定・公表
同制度の円滑な実施のため、厚生労働省では2022(令和4)年8月から「一時保護時の司法審査に関する実務者作業チーム」で議論を開始。その後、2023(令和5)年4月のこども家庭庁発足に伴い、同作業チームはこども家庭庁に移管され、2024(令和6)年12月26日に「一時保護時の司法審査に関する児童相談所の対応マニュアル」を策定・公表した。
同マニュアルから、一時保護の要件の詳細をみていくと、一時保護を行うことができるのは@「内閣府令で定める場合」(府令該当性)およびA「必要があると認めるとき」(一時保護の必要性)である。一時保護を行うすべての場合において、@およびAの要件をいずれも満たす必要がある(一時保護決定通知書には、一時保護の理由として、府令該当性および一時保護の必要性を記載)。
@の「内閣府令で定める場合」(府令該当性)の具体的内容は、別掲のとおり、類型ごとに各号列挙されている。
Aの「必要があると認めるとき」(一時保護の必要性)については、児童の福祉に関する専門的な判断の重要性から、その知見等を有する児童相談所長等の合理的な裁量に委ねられている。一時保護時の司法審査を行う裁判官は、具体的な事案に係る児童相談所長等の一時保護の必要性の判断を尊重すべきものとし、府令該当性の要件が満たされていれば、明らかに一時保護の必要がないと認めるときを除き、一時保護状を発付することとなる。
一時保護の目的としては、緊急保護またはアセスメント(短期入所指導を含む)が規定されている。緊急保護は、児童虐待その他の児童の生命・心身に危険が生じ、またはその危険が生じるおそれがある場合において、児童の安全を迅速に確保し、適切な保護を図るために行われることが想定されている。アセスメント保護は、緊急保護後に引き続いてまたは緊急保護と並行して行われる場合に限らず、緊急保護ではないものの、養育環境の調査、児童の行動観察等をしなければ、児童虐待その他の児童の安全を確保すべき事情の存否自体が明らかにならない場合のほか、調査、行動観察等により得られる情報を踏まえなければ、児童および家庭にとって適切な援助方針を判断し難い場合(法第27条第1項第3号に基づく施設入所や里親委託の措置が採られている児童においては、措置変更の要否や支援内容の再検討等を行う場合も含む)などに行われることが想定されている。
なお、これらの目的で一時保護を行った場合において、その後に調査等を行った結果、児童虐待であるとはいえない場合があるが、同マニュアルでは「保護者や親権者等からすれば、そのような場合に適切な保護であったといわれることは心理的に受け入れにくい部分がある。必要な一時保護を躊躇なく行うことは重要であるが、一時保護を行う児童相談所としては、そのような保護者や親権者等の心情にも配慮し、説明等の対応を丁寧に行うこと」と示している。
18自治体で試行運用を実施
さらに、マニュアルの作成と並行して、一時保護時の司法審査に係る試行運用(2024(令和6)年3月中旬〜5月下旬)が、公募で決定した18自治体の児童相談所で行われている。実際に進行している事案について、マニュアル(案)に沿って一時保護状請求までの一連の業務を試行的に実践してもらい、各業務の実対応時間等を計測した結果が報告されている(図4)。司法審査の手続きで想定される業務内容に係る業務時間(1件あたりの中央値)の合計は10時間47分と示されているが、これまでにも行われていた業務内容も含まれていることから、すべてが新たに増える業務時間ではないことに留意する必要がある。こども家庭庁では、「司法審査導入による業務量への影響については、なお導入後の状況を見極める必要があり、引き続き状況を把握するとともに、状況に応じて、児童相談所の体制等必要な対応を検討する」としている。
このほか「『一時保護時の司法審査』制度の施行に係るQ&A」も2025(令和7)年1月30日に事務連絡として発出されている。
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